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第37話:隣国の黒ヒョウ

 学園には魔王が私のクラスに転入してきたけど、やはり他のクラスには今回の新キャラである隣国からの留学生が転入してきていたらしい。そして学生以外にも攻略対象キャラっぽい人たちがちらほら。


 まずは1年から3年までに1人ずつ。


 3年生にクバード・ラドワーンという隣国の第三王子。

 1年生にユスフ・ラドワーン第四王子。

 2年生にリベリオ・サンティーニで隣国の宰相の息子。

 ……完全にマルセルとキャラがかぶってないか?


 さらに文化使節として隣国から臨時講師という名目でオルハン・イルハームという人。

 文化って言うとこっちのライマーポジション? 学生じゃないところは違うけど、さすがにそこまでかぶせなかったのか。


 そしてシンシチと同じ軍人枠として使節団の護衛隊長ソン・ヨジョウ。

 ……アジアっていうか、中国っぽい名前?


 なんだか中東の国っぽい名前の人やヨーロッパぽかったり、中国っぽかったり統一感がないな。


 どうして私がそんなことまで知っているかだけど、学園でも話題になっていたのはもちろんだけど、あの後授業が終わり屋敷に帰ってから、改めて魔王がやってきて教えてくれたのだ。


「というわけで、俺はちゃんとこのゲームの情報を集めるために魔族を使っているだけだ。別にお前のことだけを付け回しているわけじゃない」


 という、犯人はみんなそう言うんだ。という感じの言い訳をしていた。


「もう少し調べてみる。魔族を隣国にまで派遣すれば、もっと詳しく分かるだろう」


 魔王はそう言っていた。今分かっているのは名前だけだね。


 翌日、学園に向かうと留学生の話題で持ちきりだ。


 彼らはこの国を侵略する目的で来ているのだけど、学生達、特に女生徒にはあまり関係ない話だ。まあのんきなものだが実は私もそこは心配していない。


 なんだかこのゲームで人間の王国が攻められて滅んだり攻略対象が死んだりしないと思うのよね。死ぬとしたら魔王くらいじゃないかしら?


 いや、私も死ぬんだったわ。けっ!


 まったくみんなものんきなものね。ことの重大さが分かってないのかしら。侵略者が送り込んできた工作員なのよ? もう少し緊張感をもって欲しいものだわ。


 緊張感のない学生たちに憤慨しつつ、いつイベントが始まるかと警戒しながら合流してきた友人たち5人と学園に向かう。


 今回はクララとコテンパンのダブルヒロイン。どうせ私にぶつかってくるんだろうけど、イベントのタイミングが一緒だったらどうなんだろう? 2人いっぺんにぶつかってくる?


 いやこの前2人がぶつかって来た時はタイミングが別だった。さすがにシナリオライターも同じ時間帯にヒロインを別にしただけの手抜きシナリオは書かないか。


 しかしそうなると逆にぶつかる回数が単純に2倍! これは忙しくなるぞ! って思っていると早速その気配が!


「ちょっと用事が……」

 と駆け出して廊下の角を曲がるコテンパン。


「それでは……」

 と私の傍からはなれてモブたちに混じるクララと、私の左右を固めるヴェラとカロリーネ。みんな配置についたようね。


 コテンパンが曲がって行った廊下の角に差し掛かり予想通りに小走りで曲がってくるコテンパン。


 さあぶつかりましょう。という感じで待ち構えていたけど、ぶつかる瞬間ひょいっと避けた。


 ヴェラとカロリーネが、

「「え?」」

 と、イベントにない台詞を発するほどだ。


 いやなんだか魔がさして。


 いや~~。ごめんごめん。と思っていると左右から取り押さえられた。という表現がふさわしいほどヴェラとカロリーネががっしりと私の腕を固める。


「ちょ、ちょっと痛い……」

 と2人に視線を向けると凄い形相で私を睨んでいる。あ、すみません。


 私に避けられてコケていたコテンパンがゆっくりと立ち上がる。そのコテンパンにヴェラが、やれ、という感じで顎で合図をする。小さく頷くコテンパン。


「ちょ、ちょっとうぐっ」


 カロリーネに口を塞がれた。コテンパンが勢いよく頭から突っ込んでくる。

 これって怪我しないようにゲームの強制力が働くんだよね!?


 だがその願いもむなしくかなりの勢いでぶつかられた。まさか強制力が働かないぎりぎりを狙ったんじゃないでしょうね?


「ぐはぁっ」

 と呻いた私にかまわずイベントを進める他の人たち。


「どうしてこんなところに……」

 と、顔を抑えながらつぶやくコテンパン。いやお前頭から突っ込んできたから顔は当たってないだろ。


「貴女の方こそ、どうして走りながら曲がってくるんですの! と、お姉さまがおっしゃっているわ!」

 と、ヴェラ。


「2年連続学年主席は、このアーデルハイド・アーレンベルクが邪魔だとでもおっしゃるの!? と、お姉さまが言っているのよ!」

 と、カロリーネ。


「いえ。確かに私は2年連続学年主席ですけど、そんなつもりは……」

 とコテンパン。


 いや、どんな台詞だよ。と思っていると後ろから聞こえてくる

「ちっ、それしか取り柄がないのかよ……」

 という呟き。


 振り返って声の主を探すと……。あ、うん。クララね。


「ずいぶん騒がしい学園だな。なんの騒ぎだ?」


 割り込んでくる声に振り向くと、少し浅黒い肌で黒髪短髪。黒い瞳の長身。鍛えられた体と鋭い眼光。動物に例えれば黒ヒョウみたいな感じかな? いかにも攻略対象という感じのワイルド系イケメンの姿があった。


 結構なイケメン圧を放つ男だけど、私もこの1年、前作のイケメンたちをおちょくってきた女。イケメン耐性は出来ている。


 しかし、それでもこいつのイケメン圧はなかなかのものだ。浅黒い肌がワイルドな感じで私の好みだからだろうか。外見だけで言えば、私もシンシチが結構好みだからな。シンシチはおっさんなのが欠点だ。


「あら貴方は確か……。と、お姉さまがおっしゃっています」


 相手が隣国の王子だからか、ヴェラの口調が何となく丁寧だ。この国の王子であるカミルやデニスよりも丁寧なのは、隣国の王子はお客さま扱いなのね。


「クバード・ラドワーン。サザーン王国の次期国王だ」


 あれ? この人って第三王子だかだよね? それが次期国王?


「次期国王とは大きく出ましたわね。貴方は確か第三王子ではなかったかしら? と、お姉さまがおっしゃっています」

 と、カロリーネが言ってるけど、やっぱりそうだよね?


「ほかの国では無能でも先に産まれただけで国王になれるなんてぬるいことを言ってるらしいが、俺の国では一番優れた者が国王になるんだ。つまり俺ってことだ」


 隣国の黒ヒョウ王子はそう言いながら親指で自分の胸を指さす。結構な自信家みたいね。


「あら? それは違います。少なくともこの国では先に産まれた者が国王になれるのではありませんわ。と、お姉さまがおっしゃっています」

 と、ヴェラが言いながら心配そうに私を見ている。


「へえ。じゃあ誰が国王になれるって言うんだ?」


 黒ヒョウ王子が興味深そうに笑みを浮かべている。


「私と結婚した者ですわ。と……お姉さまがおっしゃっています」

 と、カロリーネも心配そうに私を見ている。って、私言うの? こんな台詞言うの? 元の私の性格ってこうだっけ? 付き合いの長いヴェラやカロリーネですら引いてるんだけど。


 魔王とも関わりなく、元のアーデルハイド・アーレンベルクの性格のまま魔王ルートを通ってここまで到達してたら言ってたの? 元の性格のままヴェラとカロリーネとここまで来てたら、彼女たちも違和感を覚えなかったのかもね。


 でも今でもカミルとデニスって私と結婚した方が国王になれるんだっけ? それは前回までで今回は違う気がするけど?


 まあ今の私は魔王から話を聞いてるから分かっているだけで、魔王に話を聞いてなかったら前のままと思ってるのかもね。


 そして私の台詞を受けた黒ヒョウ王子は興味深げに私を見ていたけど不意に笑い出した。


「はっはっはっ、気に入った。お前、俺の妃にならないか?」

「はあ?」

「はあ? と、おね……」

 と、言いかけたヴェラが私を睨んで来る。私が素で発した台詞と、私が台詞を言う分けがないと思っていたヴェラとで被ったようだ。


「お前と結婚した者がこの国の国王になれるんだろ? じゃあ俺がお前と結婚してこの国の国王になってやるよ」


 いきなりかよ。しかもこの自己中さ。俺様系という奴か。


「あら。言うまでもないですが、それはこの国の王位継承者の中でです。貴方はこの国の王族ではありませんわよね? と、お姉さまがおっしゃっています」

 と、カロリーネは言いながら私と黒ヒョウ王子を不安そうに見比べている。


「知らないのか? 国の王家も変わるんだぜ? この国の王家がいつまでも同じと思うなよ」


 おいおい。一応友好使節として留学してきてるんじゃないの? 戦争を吹っ掛ける気まんまんなんですけど。

 ゲームとしてはワイルド系のキャラ付けとして良いんでしょうけど、実際こっちは警戒するよね。


 だいたい……って、そろそろ私の台詞を誰かが代弁するんじゃないの? 順番的にはヴェラのはずだけど……。と思ってヴェラを見ると、なんだか不貞腐れたように腕を組んで明後日の方向を向いている。


 いつも私の右側にいるカロリーネが、すすっと左側にいるヴェラに近づいて、何をやってるのよ? という感じで肘で小突く。しかしヴェラはさらにむくれたように、さらに顔を背ける。


 え? もしかして、さっき私と台詞が被ったからむくれてる? じゃああんたが自分で喋りなさいよっていう感じ?

 カロリーネが困ったように私に視線を向けてくるけど私も台詞が分からない。

 無理無理。と首を振る。


「え、え~~と。ず、ずいぶんと……ぶれい……な……。貴方は……友好を……」


 仕方がなくカロリーネが台詞を話し出したけど、こいつ自分のパートの台詞しか覚えてないな。以前に順番で話せば良いってアドバイスしたからか。いやまあ本当は私のパートなんだけどさ。


「随分と無礼な物言いですわね。貴方はこの国に友好を結びに来たのではなくて? と、お姉さまがおっしゃっています!」


 え? 誰? もしかしてクララ? と思ってクララに視線を向けると、

「エレナのやつ、いつまで倒れてんだよ……。とっとと立てよ……」

 と、ぶつぶつ言っている。うん。そんな気はしていたわ。


 じゃあ誰? もしかしてモブの誰か?


「ああ、もちろん俺は友好の使者だぜ。だから友好の使者の俺を持て成してくれよ」

「持て成すなら、近々使節を歓迎するパーティーを開くと聞いていますわ。その時にお相手してあげてもよろしくてよ。と、お姉さまがおっしゃっています!」


 あれ? ヴェラでもカロリーネでも、もちろんクララでもない。誰? っと思って見渡しても誰が台詞を喋ってるのか分からない。まさか遥か遠くから? そのわりには声が近い。


「ふ。まあとりあえずそれでいいや」

 と言って黒ヒョウ王子は一瞬背を向けかけたけど、思い直したように足を止めて倒れたままのコテンパンに顔を向けた。


「お前、いつまで倒れたままなんだよ」

 と手を差し出す。いや、本当にいつまで倒れてんのよ。


 その手をおずおずと掴むコテンパン


「あ、ありがとうございます……」

 と顔を赤らめ

「あらその娘には随分とお優しいのね。と、お姉さまがおっしゃっています!」


 コテンパン……。お前かよ。

 という間にコテンパンは黒ヒョウ王子に助け起こされた。


「なに。いつまでも倒れたままにしておくには惜しいべっぴんじゃないか。俺が王位を継いだ時には後宮に入れてやっても良いぜ」

「な、何をおっしゃるんですか! そんな小娘が好みですの? 興覚めですわね。と、お姉さまがおっしゃっています!」


 おいおい。おかしいことになってるぞ。


「ははっ。どうやらこの国には面白い女が多いようだな」


 うん。別の意味でね。


 そう言いながら黒ヒョウ王子がコテンパンの頭を撫でる。


「や、やめて下さい……。ふんっ! と、お姉さまがおっしゃっています!」


「じゃあ、歓迎のパーティーとやらでな」


 そう言うと隣国の黒ヒョウ第三王子クバード・ラドワーンは手を振って去って行った。


 まさかコテンパンが自分と私の台詞を兼任するとは……。

 でもやっと終わった……。久しぶりなのかどっと疲れたわ……。段取りも悪かったし。


 ヴェラやカロリーネ。コテンパンにクララといつの間にか友人たちが再集結し廊下を進む。


 とはいえ新しい攻略対象も5人だから後4人か。まあ頑張ろう!


 そうして歩いていると、

「ちょっと用事が……」

 と駆け出して廊下の角を曲がるクララ。


 え?


 列から離れるコテンパン。


 ま、まさか!


「さあお姉さま。授業に遅れますわよ」

 と、左右から私を捕まえて引きずっていくヴェラとカロリーネ。


 ちょっと覚悟はしていたけど、せめて時間はずらしましょうよ!!

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