第33話:感動のフィナーレ(仮)
「お姉さま。本日は良い日よりで何よりですわね」
「ええ。皆さんを招待した甲斐がありましたわ」
今日は友人たちを招いてのお茶会を開いている。
あのイベントの後、魔族との和平がなり王国に平和が訪れた。
魔族の襲撃がなくなり、王国全体が明るい雰囲気に包まれている。
人々は少し浮かれ気味で、そこかしこでお茶会や舞踏会が開かれている。
そして、私も今日はお茶会を開いた。用意した席は5つ。
古くからの友人のヴェラとカロリーネ。
そして新しい友人のクララとエルナ。
最後に私の5人だ。
かつてのアーレンベルク公爵令嬢の取り巻き、いえ、友人の2人、ヴェラとカロリーネとはその後和解した。
アーレンベルク公爵令嬢としての記憶を思い起こせば、この2人との関係は取り巻きなどというものではなかった。確かに友人だった。
たとえ友人でもアーレンベルク公爵令嬢の言葉は絶対。
私が「用事がある」といえば引き下がるしかなく。私が2人を遠ざけるような素振りを見せれば、2人は近づくことは出来ない。
それを、「取り巻きでしかないから疎遠になった」そう思い込んでいた私が愚かだったのだ。
ヴェラとカロリーネには土下座をした。アーレンベルク公爵令嬢が土下座をしたのだ。2人は慌てて私を抱き起そうとしたが、この程度のこと、2人の気持ちを考えればどうということはなかった。
「クララさんは、先ほどの戦いでは、魔族との和平にとても重要な役割をなされたとか。素晴らしいですわ」
と、ヴェラがクララを褒めたたえた。
「いえ、私はなにも……。ただ思ったことを言っただけで……。今、思い出すと赤面してしまいます」
クララは謙遜するが、カロリーネが温かい視線を向けている。
「戦といえば、お姉さまもご活躍になられたとか。劣勢だったお味方の中を駆け巡り、軍勢を立て直すのに尽力なさったと父から聞いております。お姉さまがいらっしゃらなければ、自分の命もなかったかも知れないとも申しておりました。お姉さまは父の命の恩人です!」
コテンパンが潤んだ目を私に向け、祈るように両手の指を胸の前で組みながら言った。
そうか。王国軍には貴族も大勢参加していたから、そういうこともあるのか。
でも、やっぱり二度とはしたくないわね。次はちゃんとこの子のお父様を助けてあげられるか分からないし。
「さあ、戦の話なんてやめて、もう少し楽しいお話をしましょう」
私は話題を変えるために手を叩いていった。
「す、すみません。私が言いだしたばっかりに」
「いいのよ。貴女も、そんなつもりで言ったのではないでしょ?」
私は恐縮するヴェラに微笑み、外の子たちも彼女に温かい笑みを向けている。
その後は楽しい話題に花を咲かせたのだった。
今まではゲームのイベントや設定に縛られていたけど、すでにゲームは終わった。これからこの世界は自由だ。誰と親しくなり、誰と喧嘩をするのも、そして仲直りをするのもだ。
確かに設定通りの行動をするように育てられた価値観はある。でもこれからは、設定以外の価値観に変わっていくのに制限はないのだ。
古くからの友人たちと新しい友人たち。彼女らが親しくなれたのは嬉しく思う。
そして、アーレンベルク公爵家を取り巻く情勢も大きく変わった。
魔族と和睦したことにより、王国への魔族襲撃はなくなった。
それによって、王家から貴族への魔族討伐命令もなくなったのは当然といえる。
すると問題になるのが、アーレンベルク公爵家の王国への影響力だ。
アーレンベルク公爵が魔族討伐に反対していたのは、貴族が魔族討伐することにより王家に貸しを作り、その貴族のとりまとめ役として強い影響力を持つアーレンベルク公爵家の力が低下することを危惧していたためだ。
魔族を討伐するのではなく和平となったが、魔族との戦いがなくなったのには違いない。
そうなると公爵が危惧した通りのことが起こった。
とはいえ、いきなりアーレンベルク公爵家が没落したりするわけじゃない。王家からのアーレンベルク公爵家に対する優遇が見直されたのだ。公爵家側も、しばらくは王家に対しあまり口出しせず自重しようという雰囲気になっている。
つまり第一王子や第二王子が、私と結婚したからと言って王位に就けるわけじゃない、ということになったようだ。
そして私と結婚しても旨味がなくなったのは、他の攻略対象たちも同じこと。
「前にも言ったが、ゲームの設定に合わせてこの世界の方が辻褄を合わせる。俺もこのルートは初めてだが、シナリオライターが言った通りお前は生き延びる。つまり攻略対象たちの”お前を殺す理由”が無くなったんだな」
ゲーム期間終了後、久しぶりに私の屋敷にやって来た魔王がそう説明した。
なるほど。上手くできているわね。
まてよ?
「でも、正規ルートでは魔族が討伐されちゃうのよね?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、それでも魔族討伐がなくなって、公爵家の王国への影響力は低くなるんじゃないの?」
「……そうだろうな。そもそもアーレンベルク公爵は、それを危惧して魔族討伐に反対していたんだしな」
「じゃあ、正規ルートでも私を殺す必要なくない? なんで殺されてるの?」
「え~~っと、タイミング?」
「タイミングって?」
「いや、正規ルートでお前が殺されるのって魔族討伐イベントの前だからな。その時には、魔族の討伐が成功して、公爵家の王国への影響力が低くなるとかまでは考えてなかったんだろうな。だから、それまでの価値観通り、公爵家の影響力が強いと思ってお前を殺していたと」
「それって?」
「殺され損……だったな」
「……」
「……」
あまりの怒りに髪の毛が逆立ちそうだ。
「まあまあ、そこはゲームのイベントなんだから仕方がないところだろ」
魔王が宥めてくるが、私の怒りは収まらない。
「それでも、私のことを殺そうとしてたってこと私は忘れないわよ!」
「そうは言っても、それって前までのあいつらの立場ではそういう思考になってたってだけで、今のあいつらがお前を殺そうとしてるわけじゃないからな」
私の怒りはなかなか収まらなかったが、魔王が宥めてくるのでしばらくすると頭も冷えてきた。
確かに、冷静に考えればいつまでも恨んでても仕方がないのかもしれないし。それに実際、私は殺されずに済んでもいるし。そもそも今の私には殺された時の記憶もない。
そして、さすがにこのゲームの攻略対象たちだけあって、この世界のトップレベルのイケメンたち。家柄的にも良くて、結婚相手として考えるには有望株に違いないのよね。
いくら以前より公爵家の影響力が低下したとはいえ、ゼロになったわけじゃない。押せば何とかなるんじゃないかな。
そもそも、私は”わりと幸せ”になれるはずなんだから、私が振られるのは考えにくい。より取り見取りなんじゃないかしら。
でも最近、その”わりと幸せ”っていうのも疑わしいのよね。もしかして、魔王ルートなら”生き残る”っていうところだけ有効なんじゃないでしょうね? 確かに戦場で無茶をしても怪我はしなかったけど、それも”生き残る”の方の影響かも知れないし。ちょっとの怪我でも、それで落馬したら命を落としかねなかったし、それで無傷だった?
「さっきから何を唸ってるんだよ?」
「あ、いや、別にちょっと考え事を……。そ、そうだ、貴方は最近どうなのよ?」
「最近?」
「そ、そう。クララと、その……結婚するんでしょ? そ、そうだ。結婚式には呼びなさいよね! 現実世界の仲間のよしみで出席してあげるわよ」
ゲームの最後のイベントで魔王とクララは結ばれたのだ。
2人は末永く幸せに暮らしましたとさ。誰もがそう思うはずだ。
だけど、魔王は私の言葉に返事をせず首を傾げた。考え込むような素振りだ。
「いや、俺、クララと結婚するのか?」
「え? しないの? 普通するでしょ?」
「公式の攻略本を見ても、魔王ルートだと”魔王とヒロインが結ばれる”とは書かれてるんだが、じゃあその後どうなったのかというと、特に何も書かれてないんだよな」
「で、でも、普通。結ばれるって、結婚するとか、将来もずっと一緒とか、そういうことなんじゃないの?」
「もしかしたら、シナリオライターが当たり前のことだから、書くのを”すっかり忘れてた”とかなのかもな」
「でも、結ばれるって、現実的には普通はそうなんじゃないの?」
「いや、現実的にって話なら、結ばれた男女が、そのまま結婚するとは限らないんじゃないか? ”初恋の相手とは結ばれない”とか、よく聞く話だしな」
「そ、そうね。そんな話も聞いたことあるわね」
そうか。そうか。そうなのか。
まあ確かにね。誰も彼も、初彼、初彼女と結婚してたら苦労しないわよね。
現実って、そういうものよね。
クララも魔王と別れることもあるでしょうし、そうなったら友人としてクララを慰めてあげないとね。
そして、アーレンベルク公爵令嬢として良い縁談を用意してあげましょう。
誰が良いかしら? やっぱり、攻略対象たちは有望株なんだし、彼らから選べば良いわよね。
クララは第一王子のカミルあたりがお似合いだわ。コテンパンはもともと第二王子のデニスが好きだったはずだし。ヴェラはマルセルあたりがお似合いかしら。じゃあ、カロリーネはライマーね。
シンシチがあぶれるけど、おっさんだしね!
「おい。どうした? また考え込んで」
「なんでもないわよ!」
また自分1人の思考に没頭し、魔王に突っ込まれた私はそう逆切れしたが、その態度に魔王は「やれやれ」と両手を広げた。
「まあ、とりあえず近況報告はこれくらいにして、俺は帰るぜ」
魔王はそう言って窓へと向かった。そこから魔法で飛行し魔界に帰るのだ。
「ちょくちょくこうやって近況報告に来てよね。私から魔界には行けないんだからね」
「分かってるよ。でも、なんか元気そうだな」
「そりゃそうよ。だって、この世界の主人公は私なのよ!」
「え? そうなのか?」
「もちろんよ。この世界なら、私は魔王である貴方より力を持っているわ」
さすがにそれはないだろうという顔の魔王に、私はにやりと笑った。
「私の思い通りにならなかったら、私、”駄々をこねる”わ」
「だ、だだ?」
「そう。思い通りにならなかったら”これじゃ幸せじゃない!”って、駄々をこねるわ。私は”わりと幸せになる”はずなんだから、思い通りになるはずよ!」
「くそ。へんな知恵をつけやがって……」
「だから、せいぜい貴方も私に逆らわないことね」
私は自分の胸に手を当て宣言した。
「何せ私は、”わりと幸せになる”のが、確約された女なんですからね!」
決まった! と思っていると、そこでメイドが扉を叩いた。
最近、部屋に魔王が居ることもあるので、メイドたちには用事があれば扉の外から言うように頼んである。
「アーデルハイドお嬢様。お客様がおいでです」
「お客様? どなたかしら?」
「第一王子のカミル殿下です」
「カミル殿下?」
思いがけない訪問者に、つい魔王の顔を見ると魔王も私の方を見ている。
メイドに聞こえないように小声で魔王に話しかける。
「なにこれ? カミルはもう、私に用はないはずよね? ゲーム終了後に、実は何かあったとか? 外伝?」
「いや……。そんなのは俺も知らないが……」
しばらく、顎に手をやり考え込んでいた魔王だったが不意に口を開いた。
「……まさか! でも……ありえるか」
「え? なに? 心当たりでもあるの?」
「このゲームが好評で、続編が作られたってのは言ったよな?」
「ええ。だから、この世界は続編が始まる数百年後までは続くのよね?」
「実は、その続編が不評だったんだ」
「不評? そうなの?」
「ああ。1作目と比べて登場人物の人気がなかったんだ」
「へ~~。でもそれが、どうしたの?」
「もしかすると、俺がこっちの世界に居る間に3作目を作ったのかもしれない」
「まあそういうこともあるかもね。それがどうかしたの? 3作目だったら、どうせ続編のさらに数百年後なんでしょ? 私たちには関係ないわよ」
「いや、1作目が好評だったのは登場人物の人気のおかげだなんだ」
「それで?」
「3作目を、1作目の登場人物のままで続けたのかも……」
「……」
馬鹿野郎! なんだそりゃ~~。
「え? なに? じゃあ、これって続くの?」
「そうなる……のか?」
「で、でも、魔族と王国は和平して、争いは終わったのよね?」
「まあ、そうなんだが……。どっちかが、和平をやぶるとか。別の問題が発生するとか? もしかすると問題は発生せずに、登場人物同士で恋愛をするだけってのも、ないとは言えないかも……」
「じゃあ、私が”わりと幸せになる”っていうのは?」
「……」
いや、黙るなや!!
「あんたねぇ!」
と、魔王の襟首を掴む。
「い、いや。多分、大丈夫だ。きっと、また攻略対象たちと次のヒロインとの親密度が上がるのを邪魔すれば良いんだと思う。この手のゲームは基本、システムは同じだからな」
「それで、生き残れたとして”わりと幸せになる”の方は?」
「それも、生き延びれたなら”わりと幸せになる”のも有効なはずだ。シナリオライターが、わざわざ、続編だからって、悪役令嬢は生き延びても幸せにはなりません、とは、言い直さないだろうからな」
う~~~~。せっかく終わったと思ったら、「続く」ですって!?
「ふざけんな~~!!」
扉の向こうにメイドがいるのにも構わず、私は絶叫したのだった。
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