第30話:吊り橋効果とマジ切れする魔王
収穫祭での魔王ルートイベントの後、魔王はクララと順調にイベントを進めていた。
油断は禁物だけど、収穫祭で魔王ルートに入れたら、安全圏に入ったと思って良いらしい。
確かに、あのイベントの後にカミルルートになったらびっくりだ。カミル、それこそコテンパンだったしね。
だけど、魔王とクララとの親密度が上がることによって困ったこともあった。
学園では、いつもクララとコテンパンとの3人でランチボックスで昼食を取っているのだけど、その時にクララが深刻そうな顔で相談してくるのだ。
「お姉さま……、実は、最近、気になる男性がいて……。いえ、決して、お姉さまのことを嫌いになったわけではありません!」
いや、どうして私との二択になる?
やばい方に進んでいるな~~と思いつつ、平静を装って問い返した。
「それで、それは誰なのかしら?」
「実は……、自分でも本当に戸惑っているのですけど……。あの、ま、魔王の……方です」
魔王の方……ってなんだよ。まあ分かるけど。
しかし、そうか……。魔王ルートが順調に行ってるんだな……。
「あの方と一緒に居ると……、胸がどきどきして……」
「クララさん! いけません!」
と、口を挟んだのはコテンパンだ。
「男の人だなんて! 汚らわしいです!」
そっちかよ! ……っていうか、お前も第二王子が好きなんじゃなかったのか?
「私だって分かっています!」
いや、分かるなよ。
くそっ。いつの間にか、百合の花園になっていたとは……。まったく、誰のせいだ。
「でも……、いつも、あの方のことを考えてしまって……」
まあ、魔王ルートに入るならそうじゃないとこっちも困るんだけどね。
「ほら、あの方って、とても美しいお顔をしていますし……」
まあ、乙女ゲームのキャラクターだからね。
「それに、パーティーでも皆さんのことを助けてくれましたし……」
第一王子をおちょくるためだけどね。
「きっと、素直になれないだけで、やさしい人なんですよ!」
人じゃなくて魔王だけどね。不良が子犬を助けるやつだよね。助けてないけど。
「どうしましょう……。あの方のことを考えるだけで、今も、胸がどきどきしてしまいます……」
……。
「クララ。貴女、吊り橋効果って、ご存じ?」
「吊り橋……ですか?」
突然話題が変わったと思ったのか、クララが不思議そうに首をかしげている。
「ええ。吊り橋。吊り橋を渡るのって、揺れるし、怖いからどきどきしますわよね」
「は、はい、そうですね。それが何か……?」
「それって、吊り橋に恋しているわけじゃないわよね? でも、どきどきはしてますわよね?」
「は、はい。それはそうですね。でも、それが何か……?」
恋バナをしているはずが、全然違う話題になったのかとクララが困惑している。
「そうよね。貴女の魔王へのどきどきも、本当は魔王の恐ろしさへのどきどきなのよ」
「え? そうなんですか?」
「ええ。これは、男の人が女性をたぶらかすテクニックの一つで、わざと女性に怖い思いをさせてどきどきさせて、それを自分への恋心と勘違いさせようっていうものなのよ」
「そ、そんなテクニックがあるんですか!」
「ええ。そうなのよ。あいつ、いかにも女慣れしてそうでしょ? 全部テクニックなのよ」
「そうなんですね! テクニックだったんですね! 私、騙されるところでした!」
そして、ここぞとばかりにコテンパンが参戦する。
「そうです。男の人なんて、女の子をたぶらかすことしか考えてないんです!」
「そうよね!」
そう言いあって、コテンパンとクララが笑顔で手を取り合っている。
なんか良くないけど、よし!
「……さて、言い分があれば、聞こうか」
その日、授業が終わって屋敷に帰ると、部屋で魔王が待っていた。なんだか髪の毛が逆立って、瞳も紅く燃えている。
なんか、むっちゃ怒っている。その魔王を前に私は正座をさせられている。
「……エ~~ット。ナンノコトデショウカ?」
「とぼけるんじゃねえ。昼間のクララとの会話についてだ。俺の邪魔してどうしようってんだ?」
魔王の口調はおとなしいが、それだけに怒りが籠っているのが感じられ、本当に怖い。
「別に、邪魔するつもりじゃ……。それに、もう、ほとんど大丈夫なんでしょ?」
「油断するなって、何度も言っているだろ!」
本気で怒ってる。むっちゃ怖い……。
言い訳が思いつかないから、何とか話を逸らさないと。
「で、でも、どうして私とクララとの会話を知っているのよ……。もしかして、ずっと私のことを監視してるの!?」
今、気づいたけどプライバシーの侵害だ!
「そっちこそ、どういうことよ!」
「逆切れしてるんじゃねえぞ! お前が信用できねえからだろうが!」
逆切れだって気づかれた! でも押し通さないと!
「信用できないって、どういう意味よ!」
「そんまんまの意味だ! 実際、ふざけたことしているだろうが! 昼間のはどういうつもりだ!」
しまった。話が戻ってしまった。
「だって! クララが貴方とのことを惚気て、なんかムカついて……。いや、別に、私が貴方のことをどうかってわけじゃなくて……」
いかん。自分でも、何を言っているのか分からなくなってきた。
「ふ~~……。まったく」
だけど、意外なことに魔王はそれ以上怒ることはなく、ため息をついて珍しくベッドに腰かけた。いつもは、私の部屋に来てもずっと立ったままだった。
ベッドに腰を掛けた魔王は、両手で身体を支え、しばらく天井を見つめていた。
声をかけられずにいると、おもむろに魔王が口を開いた。
「もういい……。だが、次からは気をつけろ……っていうか、今度こそは気をつけろ」
「はい……」
「俺も、何度でもやり直せるみたいなことを言って悪かった」
「い、いや……。でも、やり直しが成功するとは限らないんだよね……。ちゃんとやる方が良いよね。ごめんなさい」
「やっと……、やっとなんだ」
ずっと天井を見つめたままの魔王は、つぶやくように言った。
「そうだよね。貴方は何度も何度もやり直してて、もう、うんざりしてるんだもんね」
魔王はそれには答えなかったけど、わずかに首を左右に振ったように見えた。
すると、魔王がすっと立ち上がった。
「え?」
と、思う間に、魔王が私に近づいてきた。
何?
反応できずにいると、魔王が私を抱きしめる。
「もう、お前が死ぬ姿なんて、見たくないんだ」
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