第28話:収穫祭イベント
今日はゲームイベントである収穫祭だ。
収穫祭では、それぞれ男女2人ずつのペアになるのが決まり。私にも当然パートナーがいる。例のイケオジ傭兵、シンシチだ。
いや~~。別に誰でも良いんだけど、よりによってなぜシンシチ!?
確かにシンシチの顔は攻略対象の中では一番好みだけど、前に魔王から聞いた”薄い本”で、魔王とシンシチのカップリングがあるって聞いたところだから、ちょっと気持ち悪いんだけど。
普段だったら攻略対象たちの中で一番イケメン圧が高いシンシチだけど、薄い本のイメージのせいでその圧が相殺されるほどだ。
私のパートナーは、クララとの親密度が一番低い人になるゲームの強制設定だから仕方がないんだけど、私の扱い酷くない?
まあ実際、他の攻略対象と比べればシンシチはかなり年上。年上好みじゃなければシンシチの親密度が一番低くなるのは当然なのよね。おっさんなんだから。
私の父であるアーレンベルク公爵が、最近物騒なので娘が収穫祭に出るのを渋り、妥協案として「腕が立つシンシチをパートナーにするなら」という条件で参加の許可を出す、って流れだった。
それっぽい話だけど親密度によってパートナーが変わるはずだから、その時はまたそれっぽい話になってたんだろうな。
パートナーに出迎えてもらう女性の慣例として屋敷の前で私が待っていると、シンシチが歩いてやって来た。黒を基調とした正装だ。さすがに乙女ゲームの攻略対象だから見た目は良い。イケメン圧は最高レベルだ。でも、しょせんおっさんだし。
ここで私を改めてエスコートし、用意した馬車まで案内するのだ。
「アーレンベルク公爵令嬢。今日は君をエスコートさせて頂く」
あ、そうだ!
「申し訳ありません。屋敷に忘れ物をしてしまいました。少し待っていて頂けますか?」
そう言って屋敷に戻って隠れてやったらどうなるかな?
「いや、時間がないので忘れ物は諦めて頂きたい」
くそ。やっぱり妨害してくるか。忘れ物を諦めろって言うやつ初めて見たわ。
「ですけど、亡きおばあ様の形見で……。収穫祭に私につけて欲しいと遺言で……」
「失礼!」
そう言うと、シンシチは私を肩に抱えて馬車に向かって歩き出した。
おい! せめてここはお姫様抱っこだろ!
乙女を丸太のように扱いやがって……!
いや、おばあ様の形見だよ! 遺言だよ! 普通、取りに行かせるわよね? 嘘だけど。
ジタバタと暴れる私に
「あまり手間をかけさせるなアーレンベルク公爵令嬢」
と、こともなげに声をかけるシンシチ。
放り込むように私が乗せられた馬車は、一路、収穫祭の会場へと向かった。名前だけを見るとまるで村祭りっぽいが、学園で行う収穫祭は現実世界でいうところの立食のダンスパーティーみたいなものだ。
そうしてシンシチにエスコートされた私は、学園内の大広間に来たわけだけど……。今までの努力により、今日の収穫祭は”魔王ルート”の演出になるはず。
そうなると、そのイベントには特に私の出番はない。クララと一番親密度が低いキャラと収穫祭に参加する、という”設定”の為だけにシンシチとここまで来たというわけだ。
さ~~てと。しばらくしたら人間に化けた魔王とクララがやってくるはずだけど、私はやることがないのよね。どうやって時間をつぶそうかしら? もしかしたら参加するところまでが条件で、もう帰れるのかも。
じゃあ帰りますか、と、出口に向かおうとすると手を強く引かれた。
「どこに行く、アーレンベルク公爵令嬢。今日は私が君のパートナーのはずだが。パートナーを置いて帰るつもりか?」
え? イベントの設定が終わったはずなんだけどな……。何か設定が残っているのかな?
「公爵に頼まれて君のパートナーになったことを否定はせぬが、パートナーとなった以上、君に恥をかかせるつもりはない。最後までエスコートを務めさせていただく。この学園の華であるアーデルハイド・アーレンベルクを一人帰すわけはないだろう」
くっ。おっさんのくせに……。おっさんなりに、なんかカッコいいぞ。
まあ、せっかくだからちょっと付き合ってやるか。そして、シンシチのダンスは力強いリードで確かに見事。
さすがにこの世界で攻略対象となっている”モテる”男。おっさんなのが唯一の欠点だ。
これでおっさんでなければ……と思っていると、会場が何やら騒めき始めた。
「とても素敵なお方が来ているそうですわよ」
「え? どちらに?」
女生徒たちのささやき声があちらこちらから聞こえる。
もしかして魔王がやってきたの? イベント開始!?
よし私も行ってみよう!
騒ぎの声が大きくなる方に向かった。するとクララをエスコートする浅黒い肌の美青年。
当然、人間モードの魔王だ。
私の姿を見つけたのか、魔王が私に一瞬視線を向けた。
あ~~。なんか安心する。やっぱり現実世界を知る仲間がいるっていうのは良いよね。
「あの素敵な方と一緒にいるのは誰なのかしら?」
「たしかクララとかいう、身分の低い娘ですわ」
身分社会っぽい陰口がそこかしこから聞こえる。
「どうした? いきなり姿を消すから探したぞ。アーレンベルク公爵令嬢」
「申し訳ありません。女生徒たちが何やら騒いでおりましたので気になりまして」
「ほう。みんなあの者に騒いでいるようだな」
そう言って、シンシチが人間モードの魔王に視線を向けた。
このイベントは、クララを人間モードでエスコートする魔王に攻略対象たちが嫉妬して絡むというもの。そして、この世界での人生しかない攻略対象たちにとって、それはイベントに強制されたものではなく、本心からの感情。
それは、私をエスコートするシンシチも例外ではないのだ。
今まで私のパートナーを務めていたシンシチだけど、今は魔王に嫉妬を含んだ視線を向けている。
ただし、イベントの強制力のためシンシチは魔王に絡むメンバーには入らないはず。それゆえになのか、シンシチの魔王へ向ける視線は激しい。
そして、早速イベント通りに、軍神アレスな第一王子のカミルが突っかかる。
「見ぬ顔だな。ここは学園の生徒か学園の関係者のみが入れる会場だ。無関係の者は出て行って貰おうか」
そう言って親指で出口を指さした。
クララに、嫉妬しているとは思われたくないのだろう。カミルはルールを盾に魔王を追い出しにかかったようだ。
「俺はこの学園の学園長補佐のピゼンデル卿の甥だ。今日は叔父に招待されて来た」
学園長補佐! これはまたマイナーな役職。
そういえば居たなそんなの。学園長の業務の補佐をする人らしいけど顔も思い出せない。
確か最近、病気気味で学校に来ていないんじゃなかったかな? これはすぐに確認するのは不可能だ。
でも、どうして顔も思い出せない学園長補佐が病欠ってのだけ覚えてるんだっけ? そういえば廊下に大々的に張り出してたな。そんなに重要な情報か? と思ってたら、このイベントの伏線だったのか。
カミルも学園長補佐が病欠で、すぐには確認できないのは分かっているようだ。
「だがそうだとしても、教育者の関係者が学園の女生徒に手を出すのは感心しないな」
「ダンスのパートナーに誘っただけで手を出すことになるのか。随分な言い草だな。そういうお前もパートナーがいるようだが」
確かに、クララをパートナーに誘えなかったカミルは他の女生徒をパートナーにして参加している。そこを突かれるとぐうの音も出ない。
「何を騒いでいるのです?」
と、次に参戦するのは白馬の第二王子のデニス。どうもこいつはカミルを意識しているのか、カミルが失敗するのを待って登場する傾向があるな。やな奴だな。
「なに、ちょっと言いがかりを受けていただけさ」
「言いがかりだと! 貴様!」
王子たちも学園では分別を発揮して身分をかさにきて偉そうにすることはないが、現実として王族なのには違いない。このような扱いをされるのが初めてのカミルが激高した。
第二王子のデニスも、魔王の無礼な言い草に同じように気を悪くしてもよさそうなものだけど、先に激高したカミルの様子を見て冷静になっているようだ。やな奴だな。
「まあまあ兄さん。落ち着いて」
と、余裕を見せている。
「確かピゼンデル卿の甥ということだったね。君のパートナーであるクララ・ノイラート嬢は学園でも優秀な生徒でね。しかも寄宿舎生活で普段は学園の外にも出ていない。その彼女が、普段は見ぬ男性のパートナーになっていると皆が不思議がっているのですよ」
確かに、学園から出てない女の子が学園に居ない男子のパートナーになるのは違和感あるわ。冷静だなデニス。
「男と女の馴れ初めを根掘り葉掘り聞くのは野暮ってもんだぜ。第二王子さん」
デニスがぐぅと唸って黙り込んだ。
魔王の言い草はそれこそ喧嘩を売っているが、スマートに場を収めようとしているデニスは、その喧嘩を買うわけには行かない。だけど、”第二王子さん”という呼び方は、実際、かなり無礼なのでスマートに流す言葉も思いつかないようだ。
「パーティーに参加する資格があろうと野暮だろうと、騒ぎを起こしているのは事実。いい加減にしていただけませんか?」
と、登場したのは、知的メガネの宰相の息子のマルセル。
本当に、次から次へと攻略対象たちが現れるな。
そういえば、その肝心のヒロイン、クララは何をやっているのかといえば、ずっとオロオロとしているばかりだ。クララにも台詞付けてやれよ、シナリオライター。
「俺は別に騒いでないぜ。そいつらが言いがかりをつけてくるからさ」
「まあ喧嘩両成敗というやつですよ」
喧嘩両成敗って、便利だな~~。
「とりあえず、こちらに」
とマルセル。だけど魔王がそう簡単に人間に従うはずがない。
「断る。俺が連れ出される言われがない」
「連れ出すなんてとんでもない。ちょっとお話を聞きたいだけですよ」
と、マルセルも引かない。
「じゃあ、まずその2人の王子様から話を聞くんだな。それがすんでから俺に声をかけてくれ」
確かに、喧嘩両成敗で連れ出すなら3人ともだ。そして実際、第一王子と第二王子をパーティー会場から連れ出すわけには行かない。
「まあまあ、先ほどからクララ嬢が怖がっているではないですか。皆さん、落ち着きましょう。せっかくのパーティーが台無しです」
ついに優男風……その実喧嘩上等! の宮廷音楽家のライマーが参戦か。これで私のパートナーとしてパーティーに参加しているシンシチを覗いて、勢ぞろいね。
「そうだ、落ち着こうぜ。じゃあな」
と、クララの手を引いて立ち去ろうとする魔王を当のライマーが呼び止めた。
「ところで、学園長補佐のピゼンデル卿には甥などいらっしゃらないはずですが?」
え? そうなの?
「なぜお前がそんなことを知っている?」
「学園長補佐のピゼンデル卿は学園の音楽祭などの管理などもなされており、僕も親しくさせて頂いています。ピゼンデル卿は、自分には子がおらず妻にも先立たれ天涯孤独だが、その代わりに学園の生徒をわが子のように思っている、そう仰っておいででした」
「息子はいなくても甥は居るんだよ」
「収穫祭のパーティーに招くほど親しい親類がいて、天涯孤独とは言わないでしょう」
確かにね!
魔王は実在の人に成りすましたわけじゃなかったんだ。
「ちっ! もうちょっと遊ぼうかと思っていたが、なんだか面倒くさくなってきたな」
魔王はそう言ってだるそうに後ろ頭をかいている。
と、思っていると、いきなりライマーの顔面目掛けて正面から蹴りを入れた!
それを仰け反ってかわしたライマーが、その勢いのまま右足を跳ね上げ魔王の顎を狙う!
魔王は顔を背けてかわしたが、前蹴りをして片足で立っている状態なので体勢を崩した。
だけど無理な体勢なのはライマーも同じ。仰け反った姿勢のまま、バックステップで魔王と距離をおいて体勢を整えた。
今度はライマーが仕掛ける。魔王の足元に踏み込んだと思ったら、大きく振りかぶって足元に回し蹴り!
それを魔王がバックステップでかわす。
しかし、足元への回し蹴りと思っていたライマーの足の軌道が変わり魔王の腹部を襲った。バックステップで身体が宙に浮いた魔王に避けるすべはない。魔王は何とか腕をクロスして防いだけど、吹き飛ばされ尻もちをついた。
「あからさまに足を狙うと、皆さん、同じように避けてくれるので助かります」
と、笑顔のライマー。
なるほど、初めの大袈裟な回し蹴りは避けられるのが前提の連続技なのか。
「では」
と、ライマーが仕留めにかかる。
今って、パーティーの最中よね? 本気でやりあって良いの?
だけど次の瞬間、そのライマーが吹き飛ばされた。料理を並べたテーブルの上に落ちる。
「魔法なしでちょっと遊んでやっただけで、調子に乗るな。人間」
ライマーを魔法で吹き飛ばした魔王が、そう言いながら立ち上がった。
ライマーも頭を振りながら起き上がっているから無事そうだ。
わざわざ「人間」と言った魔王に、こいつは人間ではないのか? と、周囲の者たちに緊張が走る。
「クララ!」
と、カミルがクララと魔王との間に立ちふさがった。
う~~ん。ゲーム的には、カミルが一番推しのキャラクターなのかな? 結構、出番が多い気がする。
「どけよ、小僧」
「貴様……、まさか、魔王シュバルツ・ライゼガングか!」
「ほう。俺の正体を見破るか」
「初めて会うわけでもないからな」
「初めてではない? 覚えてないな。お前の勘違いじゃないのか?」
「クララの前にお前が現れた時に俺も居ただろうが!」
「ああ、何か虫けらがうじゃうじゃ居たのは認識しているが……。昆虫博士ではないのでな。悪いが、虫けらの個別認識は出来んのだ」
「くそっ! 俺の名は、ザクセンブルク王国第一王子カミルだ! 二度と忘れるな!」
激怒したカミルは、両手を前に突き出しさらに叫ぶ。
「赤龍破!」
カミルの固有スキルが発動。超高温の火球が出現した。
ちょっとちょっと! ここ、室内だって!!
会場の人たちも、その危険を察し悲鳴を上げた。
頭に血が上り、思わず赤龍破を放ったカミル自身も、しまった! という顔をしている。
だけど一度発動した放出系のスキルは途中解除できない。超高温の炎の砲弾が魔王に向かって放たれた。
これって魔王が避けたら後ろの人死ぬよね!? 弾き飛ばしても室内だから天井が崩れたりして死傷者が出そうだ。
だけど魔王は、その赤龍破を避けも弾きもしなかった。
「ははっ」
と、馬鹿にしたように笑い両手を広げると、その手には傍から見ても分かるほどの超低温の冷気が宿る。空気中の水分を凍り付かせ、白い煙が上がっている。
そして自分に向かってくる赤龍破を、その両手で挟み込むと瞬時に炎の弾丸が消え去った。
え~~と。これって、魔王が会場の人たちを守ったってこと?
赤龍破の被害を予想し、逃げ出そうとしていた人たちも思いがけない事態に足を止めている。
そして皆を守った魔王は、にやにやしながらカミルに近づいていく。
「え~~と、第一王子のカミル君だっけ? 王子様なのに、自分の国の国民を殺そうとしちゃいけないね~~」
魔王はそう言って、青ざめた顔のカミルの肩に腕を回す。完全に馬鹿にした表情だ。
「今回は俺が助けてやったけどな~~。まあ、人を殺しかけて、それを魔王に助けてもらうなんて、お前、王族の資格ないんじゃないか?」
カミルは一言も言い返せず、歯ぎしりしている。
なるほど、カミルをおちょくるためにわざと助けたってことなのか。
しかも、
「どうだクララ。こんな奴より俺の方が優しいだろ?」
と、追い打ちをかける。クララへのアプローチ目的もあるのか。
しかし、そうなると
「あのクララという生徒、もしかして魔王と何か関係があるのかしら?」
「きっと魔族の手先なのよ」
「あの女も魔族なのよ」
と、周囲から当然の疑惑が持たれる。
「い、いえ、私は、そんな……、違います!」
クララは必死で否定するが、そんなことで疑惑は晴れそうにない。
そこで魔王が口を開いた。
「おっと。クララが疑われるのは俺の本意ではないな。おい。誰かこの学園の神官を連れてこい」
相手は魔王。本来ならみんな逃げ出すべきなんだろうけど、カミルの魔法から皆を守ったのも事実。
逃げ出さなくても良いのかな? むしろ守ってくれている? という雰囲気も生まれていて、魔王の言う通り神官を連れてくる者もいた。
そして連れて来られた神官に対し、
「まず、聖水をこの女に振りかけてだな……」
と、魔族でない証明の方法を解説する魔王。
敵対しているはずなのに、カミルをおちょくるためだけに人を助けたり、平気で神官を呼びに行かせたりする。それは、逆に言えば、滅ぼす気になれば簡単に滅ぼすこともできるという自負があってのこと。
人間のことをまったく脅威に感じてないからこその振る舞いだ。
他の攻略対象や傭兵のシンシチですら口を挟めない。
それは、この会場に居る全員が同じことだった。全員が魔王に逆らう気を失っている。
もし今、魔王が、「お前たち俺と一緒に王宮に攻め込むぞ」って命令したら、本当に攻め込みそうな雰囲気すらある。
これが、魔族をすべる魔王シュバルツ・ライゼガングのカリスマだ。
今、松ぼっくりを投げつけたら、どうなるんだろう?
そんな考えが頭によぎったが、本当にやったら、さすがに魔王にマジ切れされそうなので思いとどまった。
「じゃあ、そういうことで」
神官への説明が一通り済むと、魔王は闇夜へ姿を消し、会場の人々はそれを見送ることしかできなかったのだった。
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