第25話:容疑者シンシチのアーレンベルク公爵令嬢殺人事件の動機について
お家が断絶するのには色々な理由がある。
その中でも一番ばかばかしいのは、手続きの不備だろう。
しかし、我が主君の家は、その手続きの不備で断絶しようとしていた。
「嫡子不在により断絶だと!?」
「まさかご当主が、このように急逝なされるとは……。お世継ぎもまだおらぬのに……」
「戦の前には、遠縁の者の子を養子に迎えてでも世継ぎを用意するものではないか!」
「しかし殿が、心配するなとおっしゃられておりましたので……」
なんと戦の前に皆を鼓舞するためのご当主の言葉を、そのまま受け取り手続きを怠っていたのだ。
「だ、大丈夫だ。幕府の方でもこのような時には融通を聞かせてくれて、後からでも養子を取れば、見落としていただけで届けはすでに出ていた。と次期当主を認めてくれると聞いたぞ」
「よ、良し! すぐに届けを出すのだ!」
そうして慌ててご当主の弟君の子を養子に迎えた。弟君は若いうちから男子に恵まれなかった家の婿となり、すでに複数の男子を得ていたのだ。
しかし、願いはかなわず、養子に迎えた若君を次期当主にという届けは不許可とされてしまったのだ。
「どうやら、このような時は届けを出すだけではなく、お役目に付け届けが必要だったのだが……。それを怠ってしまったのだ」
「馬鹿野郎!!」
こうしてお家は断絶し、家臣たちは若君を擁してお家復興の為に地に潜む日々が始まった。
とりあえず家臣たちは日々金を稼ぎ、若君を養いながら幕府の役人を接待した。お家再興を後押ししてもらうのである。
そして家臣の1人である私、シマズ・シンシチも金を稼ぐ日々だった。
ある日、我が国と貿易をしている遠い異国への警護の仕事を持ち掛けられた。
「実は、途中に立ち寄った国で乗組員が疫病にかかり船内に蔓延して水夫と護衛に被害が出たのです。その為、代わりの人員をこの国で雇いたいのです。もちろん、報酬は弾みます。帰りもここまでの護衛を頼みますので心配ありません」
提示された報酬は、確かにこの国で同じ期間を働いた場合の数倍。悪い話ではなかったので引き受けた。
しかし、いざその遠い異国にたどり着いくと、別の話を持ち掛けられたのだ。
「実は貴方に、ある女性をかどわかして欲しいのです」
「女をかどわかす? どうしてそんなことをする必要があるんだ?」
「実はこの国はある公爵家が牛耳り幅をきかせているのです。ですが、それだけに反感を持つ貴族も多い。私の雇い主もそのような貴族の一人でして。公爵家には娘が1人しかいないのですが、その娘が異国の男。いや、失礼。しかし言葉を取り繕っても仕方ありますまい。異国の男にかどわかされて子でもなせば、名声に大きな傷がつきましょう」
「まあ話は分からんでもないが、そんなに上手く行くものか?」
「勿論、貴公だけではなく他にも多くの男に同じ依頼をさせて頂いております」
「なるほどな。で、報酬は、成功次第といういう分けか?」
「それはその通りで御座います。ですが、もちろん、こちらも相応の手助けはします。公爵令嬢と近づく場は提供させて頂きます」
依頼する側は何人に依頼しようと与える報酬は成功した1人だけでいいし、依頼された方も相手は国を牛耳るほどの大貴族の娘。成功すれば報酬以外にも旨味はあるだろう。やってみるだけの価値はあると考える者は多いだろうな。
「しかし、国には若君を待たせている。このような異国に長居するつもりはない」
「そうおっしゃると思い、依頼主の貴族から貴公には金銭以外にも別の報酬を用意しているとの話があります」
「ほう。金銭以外か。どんな報酬だ?」
「はい。私の雇い主は貴公の国と頻繁に交易をおこない貴国の役人とも懇意にしております。その伝手を使い、貴公のご主君が領地を取り戻せるように働きかけようとおっしゃってくださっているのです」
あまりにも予想外のその言葉に思わず唸った。
「そのようなことが本当に可能なのか?」
「勿論です。特に貴国の役人は人脈で融通が利くことが多く、また失礼ですが、異国からの要請には甘い傾向があります。十分、現実的な話かと」
異国からの要請に甘いか。確かにそのような気はするな。
「分かった。しかしそれならば、我が国の役人に話を持ち掛けるだけなのだろ? 特に金がかかるわけでもなし、成功しなくても我が国の役人に働きかけて欲しいのだが」
「いやいや。さすがにそうは行きますまい。当然、報酬は成功した場合にのみ得られるもので御座いましょう。こちらとしても成功しなくても報酬を与えてしまっては、真面目に取り組んでいただけるか心配になります」
「しかし、私は若君の為に金を稼がなくてはならないのだ。時間を無駄にするわけにもいかん。どうしても成功しえない時もあるだろうし、長い時間をかけた挙句、報酬はなしでは割に合わん」
「なるほど。では、どうしても成功しえない状況ならば、成功しなくても役人に働きかけるというのではどうでしょうか? で、貴公はどのような時ならば成功しえないとお考えなのですかな」
「そうだな……。例えば、そちらが雇った私以外の者がその令嬢を手に入れた場合は、成功しえないといえるのではないか? 私以外に雇った者たちへも支援はしているのだろ? そちらが他の者へ支援をした結果、私が成功しなくても仕方があるまい」
「なるほど。話は分かりますが、それは出来かねます。その条件を満たすためには、我らが雇った者が誰か貴公に教える必要がありますが、それは出来かねるのですよ」
ちっ。私でなくても誰かが成功すれば依頼主の貴族の目的は達成されるのだから、気前よく働きかけてくれるかと思ったが甘かったか。
「では、その令嬢が亡くなった場合はどうだ? それならば成功しようがあるまい」
まあ、今思いつくのはこれくらいか。
「確かにそうですな。公爵令嬢が亡くなれば成功しえないですな」
男は頷き了承した。
「よし。報酬の話は分かった。それで、私はどのようにしてその公爵令嬢というのに近づけば良いのだ?」
「はい。貴公は軍人で戦闘経験もある。まずは我が国の傭兵として働いてもらい、その後、令嬢が通う学園の教諭として近づいて頂きます」
「なんだか回りくどい話だな。直接、学園の教諭とかいうのにはなれないのか?」
「さすがに異国から来た者をいきなり学園の教諭には……。多くの貴族が通う格式のある学園ですので」
どこぞの馬の骨には任せられんということか。まあ仕方あるまい。それにちょっと傭兵をしただけで、その格式高い学園の教諭に放り込めるなら、雇い主の貴族はそれなりに力がある者なのだろう。我が国の役人に伝手があるという話も信用できそうだ。
「分かった。その話を受けよう」
若君がお家を再興できるというなら、やるしかあるまい。
まあ失敗すれば、可哀そうではあるが若君の為だ。その令嬢とかいうのを斬るしかあるまいな。
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