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第24話:松ぼっくり投下作戦

「クララは、貰っていくぞ!」

「だ、誰か助けて!」


 やったー-!!


 私の努力の甲斐あってクララと攻略対象たちとの親密度は上がらず、めでたく魔王ルートのイベントが発生した。

 前回の迷路のイベントでみんなの好感度が上がっちゃったから気にしてたけど、上手くどんぐりの背比べになっているようね。


 魔王がクララを片腕で抱き寄せ夜空に浮いている。それを攻略対象たちが勢ぞろいで見上げているという構図だ。


「ぐぬぬっ!」

 と、普段の余裕をなくしたように歯ぎしりする白馬の第二王子デニス。


 そして、

「赤龍破!!」

 と、後先考えずに固有スキルを発動させる軍神アレスこと第一王子カミル。


「ふっ」

 という魔王の笑みと共にカミルの赤龍破は片手で弾かれたが、それ、もし直撃してたらクララも一緒に死んでるからね。

 っていうか、あんた毎回、魔王にスキルを弾かれてるよね? 当たったのはライマーが足を固めてくれていた時くらいでしょ。学習しないな~~。


「くっ。宙に浮かれては、俺の”おいごとやれ”でも拘束できん!」


 イケオジ傭兵シンシチが悔しがっているけど、そのスキル名、誰のセンスよ。


「無様なものだな。地を這うしか能のない虫けらどもは、そこで指を加えて見ているがよい」


 そう言って魔王は、これ見よがしにクララをさらに強く抱き寄せた。


「い、いや……」


 こう見ると、やっぱりあいつ悪役だな~~。

 っていうか、いくらイベントだからってそんなにクララを抱きしめる必要ある?


 松ぼっくりぶつけたろ。


 私は道端に落ちていた松ぼっくりを拾って、魔王に向かって投げつけた。


「えいっ!」


 ぽこっ! と見事にヒットした。


 魔王は、「なにやってるんだ!」という感じで睨んできているが、イベント中なので、やっぱり他の人たちはそんなことが起こっていないという感じでスルーだ。


 あっかんべ~~。


「護衛の兵は何をしているの! と、お姉さまがおっしゃっています!」


 コテンパンも頑張ってるな~~。


 私も負けずに頑張って松ぼっくり投げよ。


「えいっ!」


 ぽこっ! と、やはり魔王にヒットする。


 なるほど、魔王もイベントに縛られているから、予定外の魔法とか撃てなくて迎撃できないんだ。

 それでも手で払うくらいできそうだけど、あいつ自分の台詞はちゃんと自分で喋ってるし、できるだけイベント通りに行動しようとしているみたいだし。


 よし! いっぱいぶつけたろ。なんかむかつくし。


「えいっ! えい! えいっ!」


 と、ぽこぽことぶつける。


 さすがに魔王が、

 い、い、か、げ、ん、に、し、ろ! と、声に出さず口の動きで抗議してきた。


「じゃあ、この女は借りていくぜ! と、魔王が言っているぞ!」


 ぷっ! シンシチ! お前が言うのか! どういう選考基準だ!


 私の投げる松ぼっくりに気をとられて魔王が台詞を言うのが遅れたから、シンシチが代弁したみたいだけど、やっぱり魔王も台詞を言わないと誰かが代わりに言うんだね。


 魔王は私を一睨みすると、イベントで決まっているのか、クララを抱き寄せたままさらに高度を上げて遠くに見える山の方に飛び去って行った。


「あれはヴァサーク山!」

「たしか、魔界への入り口があるという噂があったな……」


 ゲームプレイヤーへの説明のためか、ライマーとシンシチの台詞が解説っぽい。


 いや、そんなものがあるかも知れないところの近くを避暑地にするなよ。


 しかし、実は私は魔王から説明を受けて、この後どうなるかは知っている。


 そのヴァサーク山ではクララと魔王とで、なぜ魔族は人を襲うのかとか、それを止めさせられないか、とかの会話をするらしい。その後、魔王はクララを解放するんだけど、イベントとしては開放するところで終了。


 さっきの台詞でこのイベントでの彼らの出番は終了だ。

 だけど、この世界ではイベント外でも人は動いている。


「俺は行くぞ!」

「ですが危険です! 魔王がヴァサーク山に向かったということは、あそこが魔界への入口というのはただの噂ではなかったということです」


 第一王子のカミルが宣言し、宰相の息子マルセルが引き留める。


「かまわぬ!」

 と、カミルが再度宣言すると、

「それでは、私も」

 と、第二王子のデニスも声を上げる。


「まあ、ここで残るわけには行かないですね」

 と、宮廷音楽家ライマー。


「殿下2人を、護衛もなしで行かせるわけには行きませぬな」

 と、傭兵のシンシチ。


「やむをえませんね」

 と、宰相の息子マルセル。


 結局、攻略対象たち全員でヴァサーク山に向かうことになった。


 攻略対象たちも、ゲームの設定だけではなく彼らなりにクララに好意を持っている。


 というよりも現実世界の記憶がある私や魔王と違い、この世界の住人はゲームの設定通りの行動を”自分の意志”と認識するように生まれ育っている。彼らは本心からクララを心配してるのだ。なので彼らがヴァサーク山に向かうのも分かっていた。


 少なくとも今まではそうだった、と魔王から聞いていた。


 そしてゲームのイベントとしては現れないけど、解放されたクララと攻略対象たちは途中で出会い、自分を心配してくれた彼らに対してクララは好感度を高め、その後の”選択イベント”にも影響する、らしい。


 ここからはコテンパンが居ると都合が悪いので、イベントでの出番が終わるとすぐに物陰に隠れてコテンパンをまいた。コテンパンはしばらくきょろきょろと私を探していたようだけど、見当たらないのであきらめたらしく部屋に戻っていった。


 きっと私が先に部屋に戻ってしまったと思ったんだろう。


 私はこっそり、ヴァサーク山に向かう攻略対象一行を後ろからつけていった。


 魔王から、「シンシチはプロの軍人なので近寄り過ぎると感づかれる」とアドバイスがあったので、かなり離れて追いかける。どの道を進むかも分かっているから見失う心配もないしね。


「急ぐぞ!」

「乱暴をされていないと良いのですが……」


「それより、魔界にまで連れ去られては手が出せなくなるぞ」

「くそっ……」


 クララが解放されると知らない彼らは心配そうだ。


 だけど、

「うわっ!」

「なにっ!」

「しまった!!」

 と、攻略対象たちが歩いている地面が突然陥没し、全員が落とし穴に落ちていった。


 どうだ! 直径10メートル、深さ10メートル。しかも完璧な強度計算により、穴の中心あたりにまで歩いて行かないと底が抜けないようになっている。プロの軍人であるシンシチですら回避不可能! 魔王設計による完璧な落とし穴!


 しかも今後のイベントに影響がないように、底には干し草を敷いて怪我をしないようになっている。


 これは別に親切心からだけではない。


「イベントに影響が出そうな怪我をする可能性がある落とし穴だと、ゲームの強制力で絶対に落ちない! ってなりかねないからな」

 と、魔王は説明した。


 この魔王設計による落とし穴を公爵家の兵士たちに命じて作らせておいた。こういう時って公爵令嬢って便利よね。理由を説明しなくても大丈夫だし。


 さ、て、と! コバエホイホイ~~、どれだけ捕まっているかな~~。

 と、落とし穴に近寄ってこっそりと中を覗いてみた。


 よし! 全員ちゃんと落ちてるね!


「誰か居るのか!」


 おっとさすがシンシチ。こっそり覗いただけなのに気配を気取られたみたい。


 だけど、さすがに誰かまでは分からないらしい。


「ちょうど良いところに来た。誰かは知らぬが、もし近くに太い蔦などがあれば落としてはくれぬか。ないのなら、そこの別荘にまで助けを呼んできてくれるとありがたい」


 だけど助けたりするわけがない。私がわざわざ落とし穴に近寄ったのは、魔王からの指示によるものだ。


「今回の落とし穴で大丈夫だとは思うが、這い上がってこないとも限らない。一応落ちた後も観察し、もし這い上がって来るなら、どうやって這い上がってきたか報告してくれ。万一今回がダメだったら次の参考にする」


 さすがに何度もやり直しているだけあって抜かりない。


 さてと、じゃあしばらく観察しますか。


「聞こえないのか! 返事をしてくれ!」


 シンシチが必死に叫んでいるが、シカトシカト。


「頼む! 俺は第一王子のカミルだ! 助けてくれたなら褒美を約束しよう!」

「私からも頼む! 第二王子のデニスだ!」


 攻略対象たちは口々に助けて欲しいと叫んでいる。でも、シカトシカト。


「頼む……。あいつに何かあったら俺は……」


 初めは元気が良かった攻略対象たちだけど、しばらくすると弱音を吐いてきた。


「俺は、あいつを助けなくてはならないんだ!」


 あ、また元気になってきた。


 でも、自力で這い上がろうとはしそうにないな? なんでだろう。


 あ、私が居るからかな?


 私が協力するなら助けてもらえるだろうし、助けないなら敵の可能性が高い。自力で這い上がろうとしても私が邪魔するって思っているのか。


 傭兵のシンシチもいるけど、それだけに、落とし穴をよじ登っている時に敵に攻撃されたら手も足も出ないと分かっているようだ。


「くそっ……。早く助けに行かないといけないっていうのに……」


 あ、また弱ってきた。


 う~~ん。確かに、この人たちなりにクララのことは本気で心配してるんだよね。

 だって、助けて欲しい理由が自分が助かりたいためじゃなくて、クララを助けに行きたいためなんだしね……。


 確かに以前の迷路の時もみんな良い奴だった。

 そう思うと、ちょっと心が痛くなってきたかも……。


 でもよく考えたら、こいつらの誰かがクララと結ばれたら、そいつが私を殺すんだった。


 松ぼっくり、ぶつけてやれ。


「えいっ!」


 私は、そこらへんに落ちていた松ぼっくりを、ぽこぽこと落とし穴に向けて投げ入れていった。


「って、てめぇ! 何しやがる!」

「貴様! やはり敵なのか! この落とし穴を作ったのもお前か!」


 そりゃ、どんなに良い奴でも自分を殺す奴なんて敵ですよ~~。

 アーレンベルク公爵令嬢を殺すこと以外は良い人なんですよ。って言われてもね。

 と、松ぼっくりを投下。


「うわっ! こんなもん投げつけて何のつもりだ!」


 彼らは落とし穴の下で騒いでいるが、手も足も出ない。


 さてと。

 さんざん松ぼっくりを投下して気が済んだ私は、魔王から指示されていた次の場所へと向かった。


 松ぼっくりじゃなくて、石を投げつけられないだけありがたく思ってね。


 怪我をさせかねないことをすると、どんなゲームの強制力が働くか分からないしね。突然、落とし穴から這い上がられても困るし。


 たしか……、ここらへんだったかな?


 魔王に指示されていた場所でしばらく待っていると、前方から魔王から解放されたらしいクララが歩いてきた。


「アーデルハイド様!」


 私を見つけたクララは、走り寄り、私に抱きついてきた。


「でも、どうしてこんなところに!?」

「もちろん貴女のことが心配で、居てもたってもいられず貴女が連れ去られた方向に向かっていたのよ」


 この王国一番の権力者の一人娘であるアーレンベルク公爵令嬢が、自分を心配して自らの危険を顧みず夜道を探しにきてくれた。感激のあまり、クララは私の胸に顔を埋めて泣き始めた。


「アーデルハイド……お、お姉さま……」

「もう、大丈夫ですからね」


 クララが落ち着くまで抱きしめていてあげた。


 しばらくするとクララも落ち着いてきた。


「じゃあ、帰りましょうか」

「はい!」


 落ち着きを取り戻したクララは、元気よく返事をし、別荘へと向かった。


「あれ? 別荘に向かうなら、こちらの道ではないのですか?」


 分かれ道に差し掛かったころ、クララがそう言って、私が進もうとしたのとは別の道を指さした。


「せっかくだから、少し回り道して帰りましょうよ。もうすぐ夜が明けるわ。向こうの方が日の出が綺麗そうよ」

「はい。分かりました!」


 クララは素直に私の後についてくる。


 そっちの道に行くと、攻略対象者たちが落とし穴に落ちているからね。

 そしたらクララが彼らを見つけちゃって、彼女を心配して助けに行こうとしたのを妨害したのが水の泡になっちゃうし。


 もちろん、彼らをずっとほったらかしになんてしないわよ。


 ちゃんと助けは呼んであげましたわよ? 翌日に。

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