第23話:潜入作戦
魔王のクララ誘拐事件の後、強制イベントもあるけど、ほとんどは日常イベントばっかりで、それは上手く回避できていた。
だけど、夏休みには大きな強制イベントがある。その一つが避暑地イベントだ。
というわけで、クララは宰相の息子であるマルセル・ヴォーヴェライトの別荘に遊びに行っている。そしてアーレンベルク公爵家の別荘も近くにある。
中世ヨーロッパ風の日本の夏休み、というなら海水浴イベントもあるかと思ってたけど、さすがに中世ヨーロッパ風の世界で水着はなかったようだ。ゲームなんだし、夏祭りのりんご飴みたいに、どっかから伝わったって言い張ればどうとでもなりそうだけど、さすがに自重したみたい。
マルセルの別荘には攻略対象たちが勢ぞろいだ。宰相家の別荘に第一王子や第二王子が泊まるってどうなの? と思わないでもないけど、そのためになんと大隊規模の軍隊が別荘の周辺を警護しているのだ。
そして、その警護のためにイケオジ傭兵のシンシチもいて、クララとのイベントが発生する、という辻褄合わせが行われているのである。
ちなみに公爵家の別荘も相応の兵で警護されている。とは言ってもイベントには影響しないのであまり関係がない。ゲームの設定的にも、私たちの誰かが途中で大怪我したり亡くなったりするわけないしね。
あ、もしかしたらコテンパンとかなら死ぬかも。ゲームに影響なさそうだし。
「コテ……エルナ。貴女は気を付けるのよ」
「え? あ、はい。気を付けます」
コテンパンが来たがったので連れてきた。イベントの”絵”用に、元の取り巻きの2人も私の別荘に来ているけど、なんだか最近疎遠で気まずいし。
魔王に聞いたところによると、攻略対象たち1人ずつに1回の強制イベントがあって、途中2回選択イベントがある。次に魔王との遭遇イベント。最終日に、一番親密度の高い攻略対象と夜のデートイベントだけど、どの攻略対象も一定の親密度に達していなかったら、魔王によるヒロイン略奪イベント、となるらしい。
当然、魔王の略奪イベントにならないとそこでジ・エンドだ。
ちなみに、実質、攻略対象とのデートイベントの魔王版なだけなので、ヒロインのクララは略奪されてもその日のうちに帰ってくる。
まず、初めの攻略対象たちの1回ずつのイベントは仕方がない。妨害できるのは2回ある選択イベント。これをいわゆる”誰とも会わない”を選択させなければならない。
問題は、攻略対象たちが、魔王のようにヒロインであるクララと会える回数に制限がないことだ。つまりイベント以外にも会うのは自由ということである。
ゲームとしての親密度とゲーム世界での人間関係は必ずしも同じではない。イベント外で会っても、ゲームとしての親密度は上がらない。でも人間関係としての”好感度”は上がる。
イベント外で頻繁に会って好感度が上がれば、2人で会おうという気にもなるし、そうなればイベントが発生し親密度が上がる、というのが魔王の説明だ。
そして攻略対象との1回目の強制イベントが一通り終わった後。
「皆さん。とても良い方ばかりです! アーデルハイド様。本当に、アーデルハイド様がおっしゃる通り、皆さんアーデルハイド様の気を引こうとしているくせに、私にも手を出そうとしていて、しかも、アーデルハイド様を殺そうとしているのですか?」
ちっ! 簡単に懐柔されやがった。やっぱり、こいつはちょろ過ぎる。
「大丈夫だから、その中の誰かと結婚すれば良いと思いますわ」
なぜかコテンパンがクララに結婚を勧める。
だけど、そうなると私が殺されてしまう。
「ダメよ、信用しちゃ。貴女にやさしくしたのも、貴女に手を出そうという下心があるからなのよ」
「そうなんですか! ひどい人たちです!」
ちょろいの万歳。
「だから朝起きたらすぐに私たちの別荘に来て、夜に寝るときだけ彼らの別荘に戻れば良いわ」
「え? せっかく別荘にお誘いいただいたのに、そんなことをして失礼ではありませんの?」
クララが心配そうな顔をしている。
「そうね……、失礼よね」
「はい、やっぱり……」
「でも、失礼でもいいのよ。だって彼らは、貴女に手を出そうとしているんですもの」
「あ、そうですね!」
コテンパンが不満そうだけど、とりあえず上手く行った。
だけど……。攻略対象たちがクララにご執心なのは間違いない。何か手を打つべきね。
そして想定外のこともあった。
確かに攻略対象たちのイベントの回数は限られている。だけど、ちょっと顔を合わせる程度の日常シーンは頻繁にあるのだ。
クララが
「アーデルハイド様! おはようございます! それでは失礼いたします!」
と、私の別荘まで来たのにすぐに帰ってしまうのだ。
なんで? と思って追いかけると、宰相の息子の別荘に入っていった。……と思ったらすぐに出てきた。
「どうしたの?」
と、クララに聞いてみたが、本人も困惑している。
「なぜだか分からないのですけど……気づくとシンシチ様にぶつかっていて……。なぜなのでしょう?」
ぶつかるの好きだな。おい。
しかしそうか、ゲーム的に「マルセルの別荘を舞台にした日常のちょっとしたシーン」があるのか。こいつだったら、毎日誰かとぶつかるに違いない。
それでなくても、攻略対象とは絡まなくてもゲームの日常シーンの舞台はマルセルの別荘のはず。私の別荘に招いても、そのシーンの時間に間に合うようにクララは帰ってしまうことになるのだ。
そうなら、クララをこっちの別荘に入り浸りにするのは難しそうね。
「よし! コテ……、エルナ! マルセルの別荘に乗り込むわよ!」
「は、はい!」
執事に用意させた馬車に乗り、コテンパンとともにマルセルの別荘に向かった。
「これはアーレンベルク公爵令嬢、どうなされたのです?」
「クララ嬢にこちらの別荘の部屋が素晴らしいと聞きましたの。よろしければ私もお招きにあずかれませんこと?」
呼び出したマルセルに、そう頼み込んだ。
「それは、お褒め頂きありがとうございます。ですが……、あいにく、お招きしたお客様たちで部屋が埋まっておりまして……。申し訳ありません」
「お気になさらず。どのような部屋でもよろしいですわ」
マルセルは困惑しているようだけど強引に押し切った。このゲームの設定では、よっぽどのことでなければ、アーレンベルク公爵令嬢の私の頼みを断るなんて王族でも難しいのよね。ましてや宰相の息子ごとき!
「それでは、この者に案内させます」
と、マルセルに命じられたメイドの案内で部屋に案内された。
「それではこちらでお休みください」
そう言って案内された部屋は……。
え? 何、この部屋? むっちゃぼろいんだけど。
「え~~っと。部屋を間違えてはいないかしら?」
「いえ。間違いなく、この部屋にお通しするように仰せつかっております」
メイドは礼儀正しく一礼しながら答えた。
「この部屋は……普段、何に使っていますの?」
「物置です。急いでベッドを運ばせて頂きました」
え? なんで物置? アーレンベルク公爵令嬢に物置で寝ろと?
確かにどんな部屋でも良いとは言ったけど、私、アーレンベルク公爵令嬢よね? よし、確認しよう!
「私、アーレンベルク公爵令嬢ですわよ?」
「はい。存じております」
メイドは再び一礼しながら答えた。
「この部屋は?」
「物置です」
ちくしょう!
これはあれか? もしかしてゲームの設定で、誰がどの部屋に泊まるか決まっているからか?
くそ! アーレンベルク公爵令嬢なんだから、ほかの奴に部屋を空けさせるとかするかと思ってたのに……。
普通だったら、アーレンベルク公爵令嬢に物置に泊まれとか、絶対に不敬だと考えるはずのメイドも当然のようにしているということは、ゲームの設定が影響しているみたいね。
「私とお姉さまで一緒の部屋なんですね!」
くそ。こんなことになるなら、コテンパンを連れてくるんじゃなかった。普通、1人1部屋を用意するだろ。
これじゃクララを守る前に、私の貞操を守らなくちゃならないじゃない。
まあいい。寝るときにはコテンパンを縛りあげておけば良いわね。
それよりも、別荘に潜り込めたから妨害もやりやすくなったわ。早速、クララの部屋に行きましょう。
「クララ! 来ましたわよ」
「アーデルハイド様! どうなされたのです!?」
「私も、こちらの別荘でお世話になることにしたのよ」
「そうなのですね! 嬉しい!!」
とにかく、こうやってクララの部屋に入り浸って彼女と一緒に居れば、ゲームのイベント以外で攻略対象たちと交流するのは邪魔できるでしょう。
そうしてクララの部屋に入り浸っていると、いつの間にか日も沈んだ。すると控えめに扉をノックする音がする。
「クララ様、晩餐の用意ができました。食堂へお越しくださいませ」
もうそんな時間か。クララと私、コテンパンが廊下へと出て食堂へと向かった。
「ここの料理人は素晴らしく、とてもおいしい食事を作ってくださるんですよ」
クララは食事が楽しみなのか、笑顔で褒めたたえている。
「それは楽しみですわね」
だけど、食堂の入り口まで来たところでメイドに呼び止められた。
「アーレンベルク公爵令嬢様と、お連れの方のお食事は用意しておりません」
「え? 何で?」
「それではアーデルハイド様、また後で」
クララも当たり前のように私を置いて食堂に入っていく。
「ちょ、ちょっと!」
と、クララに続いて食堂に入ろうとすると、メイドが立ちふさがる。
ま、まさか! ゲームの晩餐イベントの”絵”として、私がいないから私は食堂に入れない!?
「あ、あの。それでは私たちの食事はどうなるのかしら?」
「え? お食べになるのですか!?」
メイドが驚きの声を上げた。
「食べるわよ!」
「ま、まさか。そんなことがあるなんて……」
メイドは大事件が起こったかのように顔を青くし、上司へと指示を仰ぎに行った。
いや、ゲームの設定で、私はこの屋敷に居ないことになっているんだろうけど、それにしても食事くらいするに決まってるでしょ。
彼女の頭の中ではどんな認識なんだろう?
「どうぞ。こちらへお越しくださいませ」
しばらくドタバタした後、やっと戻って来たメイドにそう言われ、とある部屋に通された。
「ここは?」
「メイド部屋です。こちらでメイドたちと共に召し上がって頂きます」
ちくしょう!
ぐぬぬ。こいつら、この状況をおかしいと思わないの? 私、アーレンベルク公爵令嬢よ!
分かってる。分かってるわ。この人たちが悪いんじゃなくてゲームの設定のせいなのよね。
「分かりましたわ。ありがたくこちらで頂きますわ」
「頂きましょう!」
他の人たちと同じく、この状況をおかしいと思わないコテンパンが、お腹を空かせていたのか喜びの声を上げる。
「美味しいですね!」
「そうですわね」
確かに普段食べている貴族の晩餐とは違って質素だけど、これはこれで美味しいわね。
メイドの人たちだって美味しいものは食べたいだろうし、高級食材はなくても工夫して美味しい料理は作るわよね。
まあいいわ。何とかこちらの別荘には入り込めたし。
しっかりと攻略対象たちの邪魔をさせて頂きましょう。
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