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第19話:VS魔王

 魔王からクララを遠ざけることに成功したライマーとカミルが改めて魔王と対峙した。


「ちっ。こざかしい真似を」

 魔王がカミルに顔を向ける。


「赤龍破!」


 固有スキルを放つカミル。だけど魔族討伐授業の時と同じく魔王に簡単に弾き返された。カミルの魔法が天井を突き破り夜空に消えていく。いつの間にか夜になってたのね。


「氷結流!」


 ライマーが固有スキルを放つ。私の固有スキルの氷結陣に似ているけど、身動きさせないようにする氷結陣と違って、普通に氷での攻撃だね。


 魔王の足元を狙ったライマーの魔王を魔王が飛び跳ねて避けた。石畳に氷の破片が散らばる。しかしライマーは魔王の着地点に向けて再度放つ。


「氷結流!!」


 しかし魔王はどういう脚力をしているのか着地した瞬間、足首だけの力で再度飛び跳ね避ける。それが何度も繰り返された。石畳は氷の破片だらけだ。そしてライマーがカミルに視線で合図を送った。カミルが頷く。


「赤龍破!」


 しかしそれは魔王に向かわず的を外して石畳に衝突し四散した。天井より石畳の方が頑丈のようね。


「どこを狙っている」

 魔王が吐き捨てる。


 そこにライマーが突っ込んだ。


「氷結流」

 ライマーが呟くようにスキルを唱える。基本的にスキルの威力は込められた魔力に左右される。低出力で放った感じだね。しかも狙った場所は魔王ではなく、魔王の足元付近の石畳。魔王に取っては避ける必要もない場所だ。


 ライマーがさらに距離を詰めて蹴りを放つ。魔王はバックステップで避けようとしたけど、それより早くライマーの蹴りが魔王の側頭部を襲う。魔王は間一髪腕を上げて防御した。


「小細工を」


 魔王が吐き捨てた。


「貴方には直接魔法を当ててもあまり効かなそうなので。水を凍らせる分には耐性は関係ないでしょ?」


 そしてライマーがさらにスキルを放つ。


「氷結流」


 そしていつの間にか間合いを詰めていたカミルが、魔王の背後から至近距離でスキルを放った。


「赤龍破!!」


 身体をひねってかわそうとした魔王だけど、間に合わずスキルを食らった。


 いきなり攻撃が当たりだす魔王。その足元はライマーの魔法で凍った氷で固められていた。


 つまり氷結流を石畳に放って氷の破片をバラまいて、それをカミルの赤龍破で溶かして石畳を水浸しにしてたのね。それを改めて氷結流で凍らせたと。


 もちろん魔王の脚力なら簡単に脱出出来るんだけど、それでも”ちょっと”回避が遅くなる。その”ちょっと”の隙に攻撃しているのね。


 とはいえ。


「痛ってえな」

 と魔王は魔法が当たった腰の辺りに手をやってる程度であまり効いていなさそう。


「魔法の耐性が強そうなので、スキルを当てるより殴った方がダメージを与えられそうですよ」


 そう言いながらまたもや魔王に仕掛けるライマー。

 ライマーの氷結流を警戒する魔王。


 しかしライマーは氷結流を放たず、そして放ったのはジャブのような小さな蹴り。スキルを放ってから攻撃が来ると予測していた魔王は避けられない。軽く押される程度の蹴りだけど魔王がちょっとよろめいたところで

「氷結流」


 よろめいたところに足元を固められたら、そりゃこけますわ。


 優男に見えて、実は武闘派。シンシチを除けばライマーが一番喧嘩が強いんじゃないかな。


 そして仰向けに倒れた魔王の頭に向かって踏み抜くように蹴りを放つライマー。魔王の頭がゴンッと石畳に打ち付けられる。

 いやそれ普通に死ぬから。やっぱり真面そうに見えてサイコパスなのかも。


「どけっ!」


 そこに剣を抜いたカミルが飛び掛かって魔王の首に剣を振り下ろす。斬り飛ばされる魔王の首。


 クララが

「ひっ」

 と悲鳴を上げた。


 え? あれ? 魔王死ぬの? いやこれって私以外は死なないんだよね?

 うそ……。


 身体中から力が抜けた私は、その場に崩れ落ちた。


 ま、まさか……。魔王が知らないルートがあったの?


「やった! 魔王と倒したぞ!」

「やりましたね!」


 カミルとライマーが喜び叫んでいる。


 あんたたち人を殺しといて何を喜んでるのよ!

 やっぱりあんたたちはサイコパスよ!!


 パンパンパンッ。

 ふいに誰かの拍手の音が部屋に響いた。


「なかなか面白い見世物だった。虫けらなみに頭を使うものだな」


 玉座の方から聞こえるその声の主にみんなの視線が集中する。

 そこには足を組んで悠然と玉座に座る魔王の姿があった。


「ま、魔王!」


 カミルとライマーは愕然とし、さらに足元に転がる魔王の首に視線を戻す。だけどその首はゆらゆらとぼやけ消えつつあった。


「まさか幻か……」

「しかし、そうとしか……」


 魔王が人差し指を立て、指先に光の球が灯る。

 その指先をすっと曲げるとその光球は首と同じようにぼやけて消えつつある自分の死体に直撃した。

 しかし光球はぼやけた死体を素通りし、その下の石畳を破壊して破片が周辺に飛び散る。カミルとライマーもその衝撃波に吹き飛ばされた。


「うわっ!」

 とカミルとライマーが地面に叩きつけられた。


「さて。このまま捻りつぶしてやっても良いのだが……」

 余裕の笑みを浮かべる魔王。ぽこっ。


 魔王はカミル達に顔を向けたまま視線だけを私に向けてきた。


 松ぼっくりをぶつけた私の顔には、怒りの表情が浮かび頬には涙が伝わる。


(やられた振りの演出があるなら言っとけ! 本当に死んだと思ったでしょ!!)


 ぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっぽこっ……。


 私はありったけの松ぼっくりを魔王にぶつけ続ける。


「俺は、今、計画通りに、行って気分、が良い。面白い、芸も見せ、て貰った、しな」


 魔王は松ぼっくりを受けながらも台詞を続ける。


「計画通りだと!?」

「ああ。クララが身近な人間の危機に力を発揮するらしいことは、前回の件で分かっていたからな。迷路でそいつらを犠牲にしながらここにたどり着けさせれば、力を発揮するだろうと思っていたよ」


 松ぼっくりを使い果たし魔王は台詞をすらすらと続けた。

 私の怒りは収まっていないけど、今は仕方がない。後で絶対にシメる。


「じゃあ……そんなことのためにマルセル様やシンシチ様やデニス殿下が……」

「中々良い演出だっただろ?」


 魔王は視線で私の方を気にしながらも演技なのかニヤニヤと笑みを浮かべる。


「そんな……ひどい……」


 そう言うとクララは涙を浮かべ拳を握りしめている。


 しかし、そこにドタドタと足音が聞こえる。


 そして現れる攻略対象たち。


 穴に落ちて消えていったマルセル、シンシチ、デニスの3人が部屋に入って来たのだ。


「皆さんご無事だったのですか!?」

「ああ。穴に落ちたは落ちたんだが、落ちた衝撃はたいしたことはなくてな。怪我もしてない」

 とシンシチ。


「もともと広くはない地下室を魔法の力で広く見せていただけのようですからね。落とし穴も同じ。たいした高さではなかったんですよ」

 とマルセル。


「それでもクララが魔力を無効化してくれなかったら、ここにたどり着けなかっただろうけどね」

 とデニス。


「そうなんですね。良かった!」

「ふっ。まあここら辺が潮時か。計画通り、お前の力を試せたしな」


 そう言って魔王は玉座から立ち上がると、攻略対象たちが身構える。


 カミルやライマーはさっき倒したのがただの幻影だと知って警戒しているし、シンシチは元傭兵だけあって慎重だ。マルセルやデニスは戦闘的じゃなさそうだしね。


「じゃあ帰るか」


 魔王はそう言って背を向けた。


 攻撃のチャンスだと一瞬カミルが身構えたけど、それをシンシチが手で制した。シンシチの額には汗が浮かんでいる。

 格が違う。傭兵の経験がシンシチにそれを教えているのだ。


 魔王が軽く手を振ると天井が崩れた。その瓦礫は魔王を避けるかのように落ちていく。


「クララ。じゃあまたな」


 魔王がそう言い、身体がふわりと宙に浮く。


「その虫けらどもを殺さないでやったんだ。俺に感謝しろよな」


 そして魔王は穴の開いた天井から夜空へと消えていった。


 あいつは絶対にシメる!

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