第16話:流浪の傭兵シンシチ
「アーデルハイド嬢にクララ嬢。どうやら無事だったようだな。お前たちを追いかけてきたもののいきなり地面が割れてな。気が付いたらここに居たんだ。まあお前たちが無事で良かった」
「わ、私もシンシチ先生がご無事でうれしいです」
そういうクララの台詞は棒読みだ。その後、私の方をちらりと見る。
いつも私のことをお姉さまと慕ってきているクララだけど、なんだか、嵌めたわね。という非難の視線を感じる。
まったくひどい誤解だわ。私はただ好感度のバランスを取っているだけなのよ。
それにシンシチは結構イケオジじゃない。
「お前たちが来る前に、この部屋を調べてみたが2つある扉もどうやっても開かなかった。鍵がかかっているとかじゃなく作り物かと思うほどびくともしない。それをお前たちは軽々開けて入って来た。なんらかの魔法がかけられているのは間違いないな」
さすが傭兵。この事態にも冷静ね。それにシンシチの口ぶりだと、自分が落ちてから私たちが来るまでにそんなに時間が経っていない見たいね。
うっかり扉の図形を忘れちゃったりしたら、ずっと迷路をさまようことになって普通だったら餓死しちゃうから、餓死なんてしないように時間の流れが止まってるとかなのかな? このゲームはエンディングまでキャラクターが死なないはずだしね。
死ぬのは私だけね。けっ!
「とにかくお前たちと合流できたなら、ここに留まっている理由はない」
シンシチはそう言って私たちが入って来た扉に向かった。でもシンシチが扉に手をかけてもびくともしない。鍵がかかっているとしてもちょっとは動きそうなものだけど、本当にまったくびくともしない。
「もしかしたらお前たちだけが開けられるのかも知れないな」
「分かりました。やってみます」
クララはそう言って扉に手をかけたが今度はクララでもびくともしなかった。
「仕方がない。やはりこっちか」
シンシチは私たちが入って来た扉とは逆方向にある扉に手をかけた。でもやっぱりびくともしない。
「お前たちがやってくれ」
「は、はい」
クララがそう言って扉に手をかけると、今度はあっさりと開く。
「やはりこちらの扉だけが開くか……。相手の意図通りに動くのは気に食わんが仕方ない」
マルセルは魔王が私たちに迷路を攻略させるつもりがあると判断して、むしろ魔王の意図通りに迷路を攻略しようとした見たいだけど、魔王を敵と判断したシンシチは軍人の判断として敵の意図通りに動くのが嫌だったのね。
クララが開いた扉を通った私たちは石畳の廊下を進んだ。すると現れる十字路。
シンシチは壁にかかっていた松明を一本取り、壁にごしごしと擦り付けて火を消してそれを手にした。
「全体の広さを確認したい。とりあえずまっすぐ進むか」
シンシチはそう言って消した松明の先で地面に”↑”と書いてから前に進み始めた。クララも素直にそれに従う。
いや、この迷路は魔法がかかってて、正しい方向に進まないと行けないってクララも知ってるよね?
「ねえ。クララ。マルセルが言ってたの覚えてる?」
「あ、確か迷路に魔法がかかっているとかおっしゃってましたね」
「シンシチ先生に教えなくて良いの?」
「でもシンシチ先生にも何かお考えがあるようですので、お任せした方が良いのではないですか?」
それでも情報は伝えておいた方が良いと思うけど、まあそうしないとシナリオの台詞に辻褄があわなくなるんだろうから、仕方がないかな。
このゲームって登場人物は自然とシナリオ通りの行動をとるように生まれ育っているって話だけど、もしかしてクララってシナリオに辻褄があうように残念な頭になってるんじゃないかしら。そう思うと不憫だわ。
「クララ。頑張って生きるのよ」
「え? はい頑張ります」
そうしている間に次の十字路に差し掛かったんだけど、その地面にはシンシチが書いた”↑”のマーク。
「うむ。どうやらこの迷路には魔法がかけられているようだな。まっすぐに進めば端にたどり着くというわけではなさそうだ」
シンシチはそう言って今度は地面の”↑”の下に”→”を書き足してから右に曲がって進んだ。すると今度はさっきより早く十字路にたどり着いて地面にはなんのマークも書かれていなかった。
「右に曲がるのが正しかったようだな。じゃあもう一度右に曲がるか」
地面に”→”を書いて右に曲がって進むとまた十字路。しかし地面には”↑”と”→”のマーク。
「振り出しか。間違ったら元の場所に戻されるようだな」
シンシチは壁に持たれて何か考え込んだ。しばらくすると口を開く。
「正しい道を選べば先に進み。間違えれば振り出しに戻る。それが分かった以上、誰がやっても同じだろう。クララ嬢。後は君に頼む。私は他に不審なところがないか調べよう」
「は、はい!」
「そう緊張するな。元の場所に戻っても、俺が地面に印をかく為に抜いた松明は元に戻っているだろ?」
そういえば松明がかけているところはなく、廊下には等間隔に松明が炊かれているわね。
「にもかかわらず地面に書いた文字はそのままだ。この迷路を作った者は迷路を攻略する邪魔をする気がないらしい。先頭を進んでも危険はないだろう。攻略させる気がないなら元の部屋に閉じ込めておけば良い話だ」
なるほど。マルセルはマルセルらしく。シンシチはシンシチらしく迷路を攻略するのね。
「それに万一のことがあればお前たちのことは私が命をかけて守る。そのために俺は己を鍛えてきたのだからな。二度と守るべき者を守れぬ屈辱はごめんだ」
そう言ってシンシチが自嘲気味の笑みを浮かべる。
吊り橋効果もあるのかクララの顔が赤い。好感度が爆上がりしているようだ。
そういえばシンシチって外国から来たんだよね。母国を離れたのも、守るべき者を守れなかった。というのが関係しているのかも。
「だから安心して前を進みたまえ」
「分かりました!」
「印をつけるのを忘れずにな」
「はい!」
そう返事をしたクララは地面に”→”を書き足して右に曲がった。そして十字路にたどり着く。地面には”→”のマークが1つだ。
「ここを右に曲がったら間違いだったんですよね。じゃあ今度は左に行ってみましょう」
「ああ。任せるよ」
クララはそうして地面に”←”を書いてから左に曲がった。シンシチの居た部屋に続く扉には〇□△〇と書かれていたから、右の次は左であっているはずだ。
そのクララに耳打ちをする。
「ねえ。扉に書かれてた図形のことはシンシチ先生に話さないの?」
「あ。なんだか説明が面倒ですし、任せるっておっしゃってくれているので話さなくても良いかなって」
駄目だなこいつ。まあいいや。
そうして進んでいくと当然正解なので、地面に何も書かれていない十字路にたどり着いた。
「さすがクララ嬢。正解のようだな。この調子で頼む」
「はい!」
クララは少し考えた様子を見せた後
「じゃあ次はまっすぐで!」
と前方を指さす。
よし! なんだか疲れてきたからボケは要らないわ。最短距離で行って。
そして地面に”↑”を書いてから進むとたどり着く地面に何も書かれていない十字路。
「さすがクララ嬢。正解のようだな。この調子で頼む」
「はい!」
台詞が使いまわしだぞ。大丈夫か。
それはさておき次で最後だ。ボケは要らないぞクララ。
「では最後は初めに戻って右です!」
よし。正解よ!
クララは地面に”→”を書いてから、私たちは右に曲がって進んだ。
そして進んだ先には扉があった。
よし! シンシチパートの迷路を攻略よ。
「まあ入るしかないか」
シンシチはそう言って扉を開けてみんなでくぐると、そこはマルセルと迷路を攻略した時と同じように四方を壁に囲まれた部屋だった。
「お前たちはそこで待っていろ」
シンシチはそう言って部屋の入口に私たちを残し、慎重にすり足で進んで部屋を探索しだした。
だけど、ちょうどシンシチが部屋の中央辺りに差し掛かったところで地面が大きくぱっくりと開いた。人が1人落ちるくらいの穴じゃなくて、私とクララが立っているところ以外はすべて穴になったくらいの大きさだ。
乗ったら床が崩れるとかならともかく、中央に来たら部屋全体が落とし穴になるなんて、いくらシンシチでも防ぎようがない。
そして地面がぱっくりと開いた瞬間、宙に浮いた状態になったシンシチが身体をひねってクルリと私たちの方を向いた。
「魔王はお前たちに危害を加える気はないようだ。俺にかまわず進め!」
穴に落ちながらもシンシチはそう叫んだ。
さらに腰に2本差していた刀のうち小さいほうの刀。脇差っていうの? を鞘ごと私たちに向かって投げてきた。でも、残念ながら脇差は壁に当たると跳ね返ってシンシチと同じく穴に落ちた。
シンシチは無念そうな表情を浮かべながら穴の奥に落ちていった。そのとたん地面の穴は塞がれ、まるで何もなかったかのように石畳が現れる。
穴に落ちながらも最後の最後まで自分のことより私たちを気遣う行動。
好感度高いぞシンシチ。君が無事なのは分かっているから安心してくれ。
しかしシンシチが無事だとは知らないクララが私の胸に顔をうずめて泣きじゃくる。
「シンシチ先生が……。マルセル様も……」
「クララ……。ところで、カミル殿下とデニス殿下とライマー様の中だったら誰が一番嫌い?」
「デニス殿下です……」
クララがそう言って私にしがみつく。
この前の夏祭りイベントの時はライマーが一番嫌いだったはずなのに、今回は最後まで選ばれなかったか。
それだけ1つのイベントでの好感度の増加が大きいってことかな。
「シンシチ先生も言っていたわ。お前たちは先に進めって。さあシンシチ先生の為にも先に進みましょう」
「……はい」
そして調べると簡単に見つかる3つの扉。さっきは4つだったけどシンシチ分がなくなっているからね。
「さっきは左端だったから、今度は右から2つ目が良いと思うわ」
「も、もうだまされません! いくらお姉さまでもひどいです。きっと右から2番目を選ぶと、またデニス殿下が居るんでしょ!」
「ご、誤解よクララ」
「もういいです。お姉さまがおっしゃったのとは逆に左から2番目にします!」
クララはそう言って左から2番目の扉に向かう。
「クララ!」
3つしかないから右から2番目でも左から2番目でも同じよ!
私の静止を振り切りクララが扉を開くといつも通り浮かび上がる図形。□△□〇だ。
そして先に進むと当然のように扉があり私たちは扉をくぐった。
クララは無言で進む。そしてその中に居る人物にクララは膝をついた。
「うわ~~ん!」
となんとクララが泣き叫ぶ。
部屋に居たのは、当然デニスだ。
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