第15話:優等生マルセル
「これはクララ嬢。それにアーレンベルク公爵令嬢も。良かったあの後にみんなで馬車の後を追ったのですが、この屋敷に着いたとたん地面が割れてみんな落ちてしまったのですよ。そして気が付けばこの部屋でした」
マルセルは私たちに会えたことを喜んで笑顔でそう言ってるけど、クララがなんとも言えない表情をしている。
そりゃさっき一番嫌いと言った相手と遭遇したら気まずいわよね。
でもマルセル優等生だし良いじゃない、ね?
「確かに広い敷地だったが、それにしても地下が広すぎる気がする。何か魔法がかかっているんじゃないかな」
なぜだか状況を正確に理解して解説しだすマルセル。まあ次期宰相確実の優等生だからね。
「まあそうなのですね」
「ああ迷路のようになっているようでもあるが、魔法がかかっているなら普通の迷路の攻略方法。つまり左手の法則なども意味をなさないだろうな」
「左手の法則ってなんだったかしら?」
私がつい口を挟んだけど、マルセルは何か考え事をしているようで返事をしない。
クララもマルセルの言葉の意味を考えていたのか、私の台詞を聞いていなかったようだ。
「左手の法則って?」
と私と同じことをマルセルに話しかけた。
「左手の法則というのは迷路で左手側の壁に沿って移動し続けると途中引き返したりもするが、最終的には必ず出口にたどり着く。という法則のことだよ」
ちっ! イベントの台詞だったんだろうけど、私のこと無視しやがって。
「とはいえ確認せずに可能性を否定することもない。初めは左手に沿って進んでみるか」
「そうですわね」
マルセルとクララはそう言って入って来たのと反対側の扉から部屋を出ると、石畳の廊下を進み始めた。
そして初めの十字路で左に曲がり、次の十字路でも左、次も左と曲がった。
「この時点でもかなりおかしいが……」
マルセルはそう呟き、さらに進むとまた十字路に出た。
「ふぅ。これは確実だな。僕は部屋を出てからずっとどれだけ進んだか歩数を数えていた。どの十字路にも87歩でたどり着いた。部屋から出て進んだはずなのに、これでは正方形の柱の周りを歩いていたことになる」
「まあ、それではやはり迷路に魔法がかかっているのですね」
「次はとりあえず、まっすぐ進んでみよう」
マルセルはそう言って私たちは十字路をまっすぐ進んだ。そして次の十字路にたどり着く。
「ここまでやっぱり87歩。同じか。じゃあ次は右だ」
そう言って私たちは右に進み始めた。そして次の十字路は思いの外早くたどり着いた。
「43歩。だいたい半分か……」
「半分だとどうなのですか?」
「いや半分なのが重要なのではなく、今までとは違うのが重要なんだ。まず魔王は僕たちにこの迷路を攻略させる気がある。と想定させてもらう。そうじゃないと話にならないからね。そして十字路で曲がる方向によって結果が変わることも分かった」
「あ、そうなんですね。ではこの十字路も曲がる方角によって結果がかわるのでしょうか」
「ああ間違った方向に進むとまた87歩で十字路に着くんじゃないかな。そしてそこからやり直しだ」
「出口を見つけるのは、正しい方向を選択し続けなければならないんですね?」
「そう言うことだ。しかし正解を見つけるまで、間違ったら一からやり直しを繰り返さなくてはならない。出口にたどり着くまでどれだけ時間がかかるか……」
「マルセル様でも……」
「僕は確かに優等生と呼ばれているけど天才ではないからね。天才的な閃きは期待しないで欲しい。僕が出来るのは可能性のある方法を一つ一つ確かめていくだけさ。次期宰相と言われていても所詮はこんなものだよ」
「マルセル様……」
マルセルの言葉にそう呟くクララ。
次期宰相確実と言われながらもそれに驕ることのない謙虚さ。確かに好感が持てるかもね。実際クララもマルセルへの好感度は上がったようだ。
「でも、それしか方法がないんですよね?」
「そうだ。だったらクララ嬢。君が進む方向を決めてくれないか? 下手に僕が選ぶより君が選んだ方が上手く行くかもしれない」
「え、私がですか!?」
クララは驚いているけど、マルセルは微笑んで頷く。
これってなんだか良い話にも聞こえるけど、実際、優等生が下手に考える良り、凡人の直感にかける方が奇跡が起こるんじゃないかって話よね? 良いのか?
「わ、分かりました。頑張ります!」
クララはそう言って先頭に立って十字路をまっすぐに進み始めた。
やっとイベントの導入部が終了ね。
ゲーム的には、ここからプレイヤーがクララを操作して迷路を攻略するのよね。
そして実は魔王に聞いて私には正解が分かっていた。正解を覚えているわけじゃなくて正解の見つけ方をだ。
魔王が言うには
「攻略対象を選択したときの扉に上に〇とか△とか□の図が4つほど浮かび上がるんだ。実際のゲームでは、このイベントはその3つのボタンで十字路の方角を選択して迷路を進む。つまり〇なら右、△なら前、□なら左だ。それを覚えていれば選んだ攻略対象の扉の上の図形を忘れずに見ておくだけで大丈夫だ」
ということだった。
そう。つまりこのゲームはプ〇ス〇用よ!
そしてマルセルの扉の上に浮かび上がったのは〇〇△□だった。つまり、右右前左ね。
ゲームをしている人間には、これ以上ないくらい分かりやすいヒント。でも、ゲーム世界の人には全く分けわからないよね。いくらマルセルでもノーヒントの初見では方向とマークを結びつけないだろうし。
どうやってクララに伝えたら良いのかな?
そうだ。せっかくマルセルが居るんだから彼を利用しよう。
「そう言えばクララさん。マルセル様にお会いする前に通った扉に確か〇〇△□という図形が光っていましたわよね。何か関係があるのではなくて?」
そう言うと話しかけたクララより先にマルセルが食いついてきた。
「なるほど。もしかするとその図形と方向が結びついているのかも知れないな」
おお。さすがマルセル。ヒントがある状況だと即答か。
「どうだいクララ嬢。今までのことに結び付ければ〇は右に曲がるということになるんじゃないかな?」
「そ、そうですわね。では右に曲がりましょう」
クララはそう言って十字路を右に曲がった。すると43歩目で現れる次の十字路。
よし! マルセル見直したぞ! クララの好感度も爆上がりだ。さっきまで好感度が一番低かったのは秘密だ!
「では、次はまっすぐか左に行けば良いんですね?」
とクララ。
「いやいや待つんだ。〇は2つ続いていたんだから、〇が右ならもう一度右だ」
「あ。そうですわね」
大丈夫かこいつ。というわけで右に曲がると当然、43歩で十字路が現れた。
「どうやらこの迷路が図形と結びついているのは間違いないようだな。クララ嬢。次はどうする?」
「では、まっすぐに進んでみましょう」
お。今回は一発クリアーか。
というわけで43歩で次の十字路が現れた。
「さすがクララ嬢。正解だったようだね。じゃあ次はどうする?」
必然的に□は左でしかありえないんだけど、マルセルはクララの顔を立てるためかあえて聞いてきた。
「では次は左ですね?」
ちっ。ボケはなしか。クララに芸人は務まらないようね。
そう言えば私、結構、普通に喋れてるわよね。それにクララやマルセルもゲームの台本とは思えない台詞も言っているし、もしかしてイベントの妨害にならない台詞はゲームに採用されないだけで、喋れることは喋れるのかな? 無視はされるみたいだけどね。
そうして図形の通りに進んだ先にあったのは十字路ではなく扉だった。
「どうやら正解だったようだね」
「はい!」
そうして扉を潜るとそこはまた四方が壁に囲まれた部屋だった。
「すんなり出口っていう分けにはいかなかったか……」
マルセルはそう言って部屋の中を調べようと進んだけど、不意に石畳がぱっくりと割れて吸い込まれるマルセル。
「うわっ~~!!」
「マルセル!!」
ついマルセルを呼び捨てにして、マルセルが落ちた穴に近寄るクララ。しかしマルセルはそのまま暗闇へと落ちていった。
「お姉さま。マ、マルセル様が!」
「大変ね。ところでクララは、カミル殿下とデニス殿下とライマー様とシンシチ先生の中だったら、誰が一番嫌いかしら?」
「え? 今それ重要ですか!? マルセル様、落ちましたよ!」
「ええ。落ちたわね。でも落ちてしまったものは仕方がないわ。それよりも今は気分転換が必要よ」
「そ、そうですか。それではシンシチ先生で……。あ、強いて言えばですよ!」
なるほどシンシチか。しかし自分で言っておいてなんだけど、マルセルが落ちたというのに、こいつもたいがいだな。
そうして落ちたマルセルに変わり部屋を調べるとっていうか、調べるまでもなく見つかる壁に並ぶ4つの扉。さっきは5つだったけど、マルセル分がなくなって4つだね。
「また扉がありますわね」
「そうですね。今度はどの扉を選べば良いのでしょうか……」
「さっきは中の方を選んだので今度は端を選びましょう。左端の扉が良いと思うわ」
「そうですね。じゃあ左の扉にしましょう」
クララはそう言うと扉の前に立ち
「では扉を開けますわ」
と宣言してから扉に手をかけたすると扉にある図形が浮かび上がる。それは〇□△〇の4つの図形だった。
そして扉が開き私たちは先に進んだ。
「さっきの図形が迷路のヒントなんですね。忘れないようにしないと行けませんね」
とクララが言いながら先に進むとさっきと同じように扉がある。
「やっぱり扉がありますわ」
とクララが言って扉を開けると小さな部屋がありそこには当然シンシチの姿があった。
「げっ!」
とクララが小さく叫ぶ。
いやほんと。ヒロインだったらそれやめろよ。
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