第13話:松ぼっくりは痛くない
祭りの当日、待ち合わせ場所に来たのは、やはりコテンパン1人だった。
「クララさんは、ライマー様と一緒に周ることになったそうなので、今日は私とお姉さまとの2人きりです。ぽっ」
と、コテンパンから説明された。顔を赤らめているのは意図的に無視をした。
「第二王子のデニス殿下から強引にお誘いをされていて、断ることもできず困っているところにライマー様が通りかかって助けて下さったそうなのですけど……。結局、デニス殿下からのお誘いを断るのを手伝ったお礼にと、ライマー様と一緒に周ることになったそうです」
へ~~。そういう流れになったんだ。
「あの2人はお似合いなので、きっとこのまま結婚しますわ」
「え。さすがにいきなりそこまでは……」
「そんなことありません。間違いなく結婚すると思いますわ」
どうしてこの子は、そんなにクララを結婚させたがる。
「ところでお姉さま……、手を繋いでもよろしいですか?」
「うん。駄目よ」
悲しそうな顔のコテンパンを引き連れて、夏祭りを周った。だけど気づくと、クララやコテンパンとばっかり会っているので、最近ではすっかり疎遠になっていた元の取り巻きの2人、赤毛の男爵令嬢カロリーネと黒髪の伯爵令嬢ヴェラが傍に居た。
なんで? いつの間に?
不思議に思っていると、突然、ドバァン!! ガシャン!! と、何かが壊れる音が周囲に響いた。
なに!?
「女みてえな面して、粋がってんじゃねぇぞ小僧!!」
その声に顔を向けると、むさくるしそうな顔をした男が怒鳴っている。そして、その怒鳴られている相手はライマー! と、いうことはクララもいるのかな? と思って見渡すと、やはりいた。ライマーの後ろで怒鳴る男に怯えている。
クララは私には目を向けず、ライマーに心配そうな視線を向けている。やっぱりイベント中らしいわね。先ほどの大きな音は、この男が屋台の傍に置いてあった空の樽を足で蹴飛ばして屋台の陳列台を壊した音のようだった。
なるほど。カロリーネとヴェラが私の傍に来たのはイベントに参加するためなのね。つまり私にもイベントの出番があるということだ。
でもきっと、例によってクララがあの男にぶつかったのが事の発端なんでしょうけど。
もしそうだったら、悪いのはクララよね?
「あら? 騒がしいと思ったら、ライマー様。よろしければお助けいたしましょうか? と、お姉さまがおっしゃっていますわ!」
と言ったのは、元の取り巻きを差し置いてコテンパン! どういう人選なのかしら?
この王国でアーレンベルク公爵家は最大の権力者。その名前を出すだけでゴロツキなんて這いつくばって土下座するか、真っ青になって逃げ出すかの2つに1つのはずだ。
でもコテンパンが私の代役をしたとなると、取り巻きの2人は何のために来たのかしら? もしかして、私が取り巻きを従えている”絵”のためにだけ? ご苦労なことですな。
「大丈夫です。貴女の手を煩わせるまでもありません」
普段は私のことをアーレンベルク公爵令嬢と呼ぶライマーがそれを避けた。確かに、手を煩わせないと言ったそばから公爵家の名前を出しては本末転倒だ。
「ぐだぐだ言ってんじゃねぇ!」
男が怒鳴ってライマーに殴り掛かり、見事ライマーの左頬にヒット。ライマーは殴り倒された。
「キャーー!!」
と、クララが悲鳴を上げる。
だけど、ライマーが地面に叩きつけられる! そう思った瞬間、彼の身体がくるりと回転。長く伸びた足のつま先が男の顎にヒットした。
男の方こそが吹き飛び地面に叩きつけられた。殴られたように見えたライマーだったが、実は男の拳の動きに合わせて身体を回転させて避けていたのだ。そして、その回転のまま男の顎に回し蹴りをお見舞いした、というわけだ。
「ピアニストが手を怪我するわけにはいかないので、脚で失礼します」
だが地面でうつ伏せになり、すでに気絶している男にその声は聞こえていないようだ。
なるほど。優男の宮廷音楽家、だけど実は喧嘩が強い、という”ギャップ萌えキャラ”なのか。
そして、実際かっこいい。騒ぎを遠巻きに見ていた女の子たちも全員目がハートだ。……っていうかクララ!! あんたもか!!
「わ、私は……、お姉さま一筋なので!」
コテンパンがここぞとばかりに主張してきた。
「あ、うん。ありがとう」
(誰もあんたには聞いてねえよ!)
コテンパンのことは置いておいて、確かにライマーとの親密度を上げるイベントなんだから、ライマーが引き立つ演出がされるのは当然なんだろうけど……。このイベント1つで今までの苦労が台無しになんてならないよね?
そもそも魔王がヒロインのクララと会ったのって、まだ1回きりなのよね。だから今のところ攻略対象中で最下位のライマーですら魔王よりは親密度が高いらしい。
その後の魔王とのイベントで一気に親密度が上がるから、魔王ルートのイベントが続けば最終的には他の攻略対象たちをごぼう抜きにするらしいけど……。
なんか不安になって来た。そんな私の心配をよそに”ライマーイベント”が進んでいく。
「すみません。女性の前で暴力を振るうなんて最低ですよね……」
「い、いえ。そんな……」
「ですが、貴女に嫌われることを恐れて貴女を守らないなんて本末転倒です。たとえ、貴女に嫌われても貴女を守りたい」
「ライマー様……」
おい。ギャラリーが一杯いるのに、よくそんな歯の浮いた台詞が言えるな。
だけど、劇を見ていると思えば確かに良いシーンか……。
「あら。ライマー様。そのような娘にご執心ですの? と、お姉さまがおっしゃっていますわ!」
わ。びっくりした! 出番が終わったのかと油断していると、まさかのコテンパン。
さっき、普通に私に話しかけてきたのにイベントモードが再起動するなんて。
今までは私とクララとのシーンだったから、イベントの途中で出番が途切れることはなかったけど、他の人とクララのイベントでは出番が途切れるのね。
「僕は今日、クララ嬢をエスコートしていますので、クララ嬢を守る責任があります。アーレンベルク公爵令嬢、もし貴女をエスコートさせて頂けるなら、僕は貴女を命をかけて守りますよ」
「あら? それでは今から私のエスコートをお願いしようかしら? と、お姉さまがおっしゃって……います?」
なぜ疑問形?
もしもライマーが、「じゃあそうしましょう」って言ったら、コテンパンとは別れてライマーと周ることになるのかな? それはコテンパンの本意ではないということなんだろう。
だけど、そこはさすがにクララとライマーとのイベント。そんなことにはならなかった。
「残念ですが……。今日はクララ嬢が先約ですので、次の機会を頂けるならば、必ず」
「あらそうですの。もし次があれば! よろしくお願いしますわね! と、お姉さまがおっしゃっています!!!」
言いながらあかんべーをしている。
コテンパンが元気だ。あかんべーは絶対に余計だろ。
おいおい、ゲームの設定に操られてるんじゃないのかよ? 矛盾した行動で人格崩壊してないか?
しかも、
「お姉さま。クララさんはライマー様と仲良くしているようですので、放っておきましょう!」
と、この場を立ち去ろうとする。
コテンパンが自由に動けるってことは、このイベントでの私の出番は終わったのかな?
気づくと、かつての取り巻きの2人の姿も消えている。
でも、イベント自体はまだ続いている。
「ライマー様。よろしいのですか? アーレンベルク公爵令嬢様のお誘いをお断りするなんて……」
心配そうなクララにライマーが微笑む。
「これは僕の問題です。貴女は何も気にしなくて良いのですよ」
「ライマー様……ありがとうございます」
うーん。なんだか順調そうね。どうにかして邪魔できないかしら。そうだ!
私は、道端に落ちていた松ぼっくりを拾った。そして、
「えい!」
と、ライマーに投げつけた。ぽこっと見事ライマーの頭に直撃する。
「それよりも祭りを楽しみましょう。随分と時間を無駄にしてしまいました」
シカトかよ! じゃあ……。
道端から石ころを拾って、振りかぶった。
がしっ! と、周りに居た人たちが寄ってたかって私を羽交い絞めにした。なんで?
試しにもう一度松ぼっくりを投げつけてみた。
ぽこっと再びライマーの頭に当たるが、ライマーは気にした様子がない。
が、石を拾うと、がしっ! と、周囲の者が止めに入る。
なるほど。イベントに影響がない程度のものは見逃してもらえるけど、怪我してイベントに影響が出そうなものは妨害されるのか。
石が頭に当たって頭から血が出るくらいなら、流血しながらでもイベントを続けそうだけど、気絶しちゃったらさすがに不味いものね。
やっぱりイベントの妨害は出来ないか。じゃあ見てても不安になるだけ無駄か……。
「行きましょうか……」
「はい!」
あ~~。でも本当に不安になっちゃったな……。
ライマーカッコ良かったしな。他の攻略対象たちも、イベントの時には同じ程度にカッコ良いんだろうしな……。
よし! 魔王も言ってたしちょっと本気で邪魔をするか!
励みになりますので、
評価、お気に入り登録をお願いします。




