第11話:ツンデレ講座
授業が終わり屋敷に戻ると、珍しくこちらの世界のお父様、アーレンベルク公爵が学校について尋ねてきた。
「お前の学校に今年入学したクララという娘がいるだろう? たしか先日の魔王が出現した魔族の討伐授業でも同じ班だったと聞いているが」
「はい。同じ班でしたわ」
私の言葉にお父様は頷いた。まあ、分かってて聞いたんだから反射的なものだろう。
「そうか。では、これからはあまり近づかぬようにな」
「あら、どうしてですの?」
「それは、討伐授業で同じ班なのだったらお前もわかっているのではないか?」
「クララに魔王が興味を持っているという話ですか?」
「まあそうだ」
「ですけど、別にクララに害をなそうとする様子はありませんでしたわよ?」
「そうかもしれんが、彼女の周りに居るものには害をなそうとするかも知れんだろ?」
う~ん。一般的にはそうかも知れないけど、実際、あの魔王がそんなことをするはずはないんだけどね。
それをお父様に説明するわけにはいかないので説得できない。
「分かりましたわ」
と、とりあえず答えておいた。
「うむ。それと、実はかねてから魔族討伐の計画があったのだが、貴族の中にも反対するものが多くてな。計画が進んでいなかったのだが、今回、そのクララという娘の前に魔族の王である魔王シュバルツ・ライゼガングが現れた。そのことで事態が大きく変わってな」
「魔族討伐の計画が進んだってことですの?」
「ああそうだ」
「今まで反対していた人が賛成に変わったのですか?」
「いや、賛成派の声が大きくなったということだな。これまで、魔王自身が我が国まで出てくるのは稀だった。その魔王が向こうからやってくるなら座して待つ必要はないとな。反対している者は反対のままだが、こちらから行かなくても向こうから来るなら同じことだろうと言われると反論できん」
その口ぶりだと、お父様は反対派だったのかな?
「魔族討伐が実行されることになれば、そのクララという娘の処遇も改めて議論されるだろう。近づかぬ方がお前のためだ。あらゆる意味でな」
あらゆる意味? どういうことだろう?
なんだか聞きづらかったので、聞けずじまいになってしまった。
この世界の情勢はゲームの設定に引きずられているはず。ならば魔王が何か知っているかも?
そう思って、その後やってきた魔王にお父様との会話について話してみた。
「まあ、お前の父親なりの親心ってやつだな」
「クララと一緒だと貴方がやってくるから危険ってこと?」
「それもあるだろうが、魔王っていうか、俺がヒロインに興味があるなら、ヒロインを餌に俺をおびき寄せて倒そうって作戦もあり得るってことだ。その時、ヒロインに情が移っていたらつらいだろ?」
「え? そんなことをするの?」
「実際にするかどうかは別だ。その可能性もあるってことだ。そもそもお前の父親であるアーレンベルク公爵は魔族討伐反対派だしな。関わりたくないんだろう」
「やっぱりそうなんだ? でも、どうして?」
「公爵はこの王国で最も影響を持つ貴族だ。それは今の情勢で、ということでもある。王家から魔族討伐を命じられてそのために貴族の力が強い、というこの情勢が、魔物が討伐され、討伐対象がいなくなることによって変わってしまう。つまり、これまで権力を握ってきた貴族の力が弱まるってことだ。それは公爵も望まないからな」
「なるほどね~~」
とはいえ、魔王はこのゲームを何周もしてるんだよね?
「結局、この後どうなるの? 魔族討伐するの?」
「そうだな。魔族討伐未遂ってところかな?」
「討伐未遂? なにそれ?」
「王家と貴族の兵が魔族討伐に向かおうとする、その直前に魔族の襲撃にあう。で、ボコボコにやられる」
「ボ、ボコボコにやられるんだ……?」
「前にも言ったが、今は魔族の魔力が強くなってるんだ」
「でも魔族が勝っちゃったら、話が終わっちゃうんじゃないの?」
「そこでヒロインの登場だ。あいつは魔族の魔力を封じる力があるんだ。魔族の襲撃でボコボコにされて殲滅する寸前で、ヒロインの力で魔族の魔力を封じ込める。ヒロインが攻略対象と結ばれる正規ルートなら、そのまま魔王が討伐される。魔王ルートなら、魔族と王国側が和平するんだ」
「へ~~。それでヒロインは、どうして魔力を封じる力があるの?」
「……そういう設定だ!」
そんなもの俺が知るか! という苦々しい表情で魔王が答えた。
なるほど。設定なら仕方がないわね。
「とにかく、魔王つまり俺とヒロインとの遭遇で魔族討伐の計画が進むってのは、ゲームのシナリオ通りだ。俺たちでどうこうできるもんじゃない」
「そうなんだ」
「その魔族討伐の時に魔族と戦闘できる人員が少しでも多い方がいいと、学生の中からも戦力になりそうな優秀な生徒が動員される。当然、ヒロインもだ。そして、その時ヒロインとペアになるのが、それまでで一番親密度が高かった攻略対象だ」
答えながら魔王は腕を組んだ。
「貴方との親密度が一番高かったら?」
「誰ともペアにならない」
「そういえば、その時に私は参加してるの? 学校のカリキュラムだから討伐授業には参加したけど、実際、公爵令嬢って戦いには行かないわよね?」
「そこはお前次第だな。ゲームの制約的には、シナリオや攻略本なんかで参加となっていたら強制参加だ。参加してないとなっていたら絶対に参加できない。だが、どうとも書いてないなら、イベントに影響を与えないところで参加するもしないも自由だ」
「やっぱりそうなんだ? 討伐授業の時に、モブ枠にコテンパンが来てたから、そうなのかと思ってた」
「コテンパン? 誰だ、それ? そんな奴いたか?」
「あ、ごめん。バルリング伯爵令嬢のあだ名。あの、キャラデザ失敗して、あのモブの子、ヒロインより可愛くない? っていうタイプの子」
「どんなタイプだよ。それで、なんでコテンパンなんだよ」
「だって、クララにコテンパンにされたんでしょ? バルリング伯爵令嬢。だからコテンパン」
「いや、もうちょっと捻れよ」
魔王があきれたように言った。
「え~~。あだ名ってそういうもんじゃない」
「まあ、別にいいけどよ……。まっとにかく、お前はヒロインと仲良くして、他の奴らと親密度が上がらないように気を付けてくれよな」
魔王はそう言って軽く手をふると、いつも通り闇夜へと消えていった。
今日の会話も通常通り”業務連絡”だったな……。ま、こんなもんか。
翌朝学校に着くと、早速、強制イベントが発生した。
参加メンバーは私とクララ、そして攻略対象からは宰相の息子マルセル。
マルセルか……。そういえば居たな、そんなのも。
他の攻略対象たちに比べれば好みではないので、イケメン圧もたいしたことはないが、それでもイケメンには違いない。
私にも何やら近づいてきていて、魔王が言うには、将来のために私と結婚したいと考えているらしいけど……。
で、ヒロインと結ばれた場合、私を殺すんだよね……。
本当だったらお父様に言って、今のうちに牢屋にでもぶち込んでおきたいんだけど、ゲームの制約でそれもできない。
もっとも、私を殺そうとするのは他の攻略対象たちも同じだから、特別、彼だからどうっていうことはないんだけどね。
今回、マルセルとの親密度が一番高くてイベントに参加することになったって言っても、今までの私の妨害工作で、攻略対象たちはみんな親密度は低いはず。その中でのどんぐりの背比べでしかないはずだ。
ただ今回のイベントの内容は、ちょっと気に食わない。
「マルセル様、まさか私を差し置いて、勉強会にはこの娘をお誘いになるつもりでは有りませんわよね? と、お姉さまがおっしゃっていますわ!」
クララの真横でコテンパンが叫んだ。
クララとマルセルから、私は数メートル離れている。その設定の私の大声での台詞の代弁を至近距離から受けたクララは、うずくまって耳を抑えている。鼓膜、大丈夫かしら?
みんなはゲームの設定に沿うように動いているけど、身体能力が強化されたりするわけじゃないから、普通にダメージ受けるみたいね。
最近、誰が私の代弁をするのか面白くなってきて、わざと取り巻きの2人を振り切ってイベントに臨んだんだけど、悪いことしたかな?
発言者であるコテンパンを無視して、私に向かって返答するマルセル。相変わらずシュールだけど、他の人たちはそれを不思議に思わない。
「まさか。アーレンベルク公爵令嬢もお誘いするつもりでした。偶然、公爵令嬢より先に彼女に会ったので声をかけただけですよ」
マルセルは慌てた様子もなく答える。
「本当ですの? では、私とこの娘を同席させようとおっしゃるの? と、お姉さまがおっしゃっています!」
このイベントって、普段は自分にちやほやしているマルセルがクララを誘ったことに、私が嫉妬してるってことなんだけど……。納得、いかないわね。
私、こいつ全然タイプじゃないんだけど。
ちなみに、マルセル以外の攻略対象の親密度が一番高かったら、それぞれ狩猟だったり、演劇だったり、遠乗りだったりするみたい。
「同席程度、公爵令嬢ともあろう方がお気になさるほどのことではありませんよ」
まあこの程度のイベントで、今更どうにもなるもんでもないでしょうし。
「気にすべきは私ではありません。貴方の方こそが、配慮すべきと言っているのですわ! と、お姉さまがおっしゃっています!」
魔王に言わせれば、思いの外うまくいっているらしい。
やっぱり中身っていうか、現実世界の記憶がないアーレンベルク公爵令嬢じゃあ、いくら魔王から説明されてもうまくいかなかったのかな?
まあ、今は私の台詞を他のキャラが代弁してくれるんだけど、元のアーレンベルク公爵令嬢なら自分で言ってたんだろうしね。
でも現実世界の記憶がある今の私からすれば、そんなこと言うかな? っていう感じ……。
「あ、あの……」
「え? 何?」
ふいに声を掛けられ、振り向くと心配そうなクララの顔があった。
見ると、その隣ではコテンパンも同じような表情でこちらを見ている。
どうやら気づかぬ間にイベントが終わっていたようだ。宰相の息子もいつの間にか居なくなっている。
「じゃあ、お昼にしましょうか」
「は、はい!」
最近では私とクララ、そしてコテンパンの3人でお昼を一緒にすることが日課になっている。元の取り巻きの2人は、イベントの”絵”として、あの2人が必要な時には強制的に参加だけど、それ以外ではコテンパンに参加して貰っている。
あの2人もゲームの設定として私の取り巻きをしているだけで、本心から私を慕ってるわけじゃないのか、私が
「ちょっと用事があるの」
と言えば、割と簡単に引き下がる。
屋敷の料理人に作らせたランチボックスを3人で囲んでいると、おずおずという感じでクララが口を開いた。
「あ、あの……。ちょっと気になることがあるのですけど……」
「あら? 何かしら?」
「私は、アーデルハイド様と……、その……、仲良くさせて頂いておりますよね?」
「え、ええ。そうですわね」
「そう……ですよね……」
クララは、そう言いながら俯いた。
う~~ん。歯切れが悪いわね……。
「何か、気になることがあるの?」
「あ、いえ……何も……」
とは言いながらも、表情が暗い。
「そんな顔をしておきながら、何もないわけないでしょ? いいから言いなさい」
「は、はい……」
クララはそれでもしばらく俯いていたが、意を決したように口を開いた。
「あの……。いつもは、こんなに仲良くして下さるのに、時々、突然、私に意地悪するというか……、さっきみたいなのは、なぜなのかと……」
うっ、そこを突いてきたか。
イ、イベントだから……、とは、言えないわね。
ぶつかってくることを怒ることについては前にも説明したけど、今回みたいなのはちょっと違うしね。
え~~と。どうしよっかな……。え~~と。え~~と。そうだ!
「私、ほら、ツンデレ、なのよ!」
「つんでれ……ですか? それは……外国の言葉か何かですか?」
外国? え~~と、そうだったんだっけかな? いや、ツンツン、デレデレの略だから、日本語のはずだ。
「ち、違いますわよ。ツンツンって分かります?」
「いえ……。分かりません」
そうよね。そこからよね。
これは説明するのに苦労しそうね。っていうか、私だってツンデレの正確な定義なんて知らないのよね。まあ、何とか説明するか。
「分かりました! アーデルハイド様は、私と仲良くしているのをみんなに知られるのが恥ずかしいので、みんなの前では私に冷たくしているんですね!」
「そうよ! 多分、それであっているわ!」
昼休みいっぱいを使って、クララに何とか説明できた。
「でも……、アーデルハイド様が、そんなに恥ずかしがり屋さんだったなんて……。くすっ」
「そ、そうなのよ。あははっ」
うまくごまかせたみたいね。
「あ、あの……お姉さま……、私は……」
コテンパンが、おずおずという感じで声をかけてきた。
元々は学年主席で自信満々な感じの子だったが、最近ではクララに負け続けて自信喪失気味だ。しかも魔王イベントの時から、私への依存度が高くなってきている気がする。
「もちろん、貴女のことも大好きですわよ」
「は、はい。私もお姉さまのことは大好きです!」
なんだかコテンパンがまずい道に行きかけている気がするけど、とりあえずはこれで良かったかな?
白馬の第二王子が好きだった、というのはどこに行ったんだろう?
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