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第10話:魔王の恋愛事情

 結構、遅くなっちゃったな。


 学園の授業の後、魔族討伐授業で魔王が出現したことについて呼び出され、色々と質問を受けたのだ。


 いつもより遅い帰宅時間になった私は、学園の敷地の外へと続く門に向かい急いでいた。


 そこから馬車に乗って屋敷に向かうのである。


 ちなみに、クララが住んでいる寄宿舎も学園の敷地の中にある。


 もちろん私だけではなく、あの場にいた生徒全員が対象だったらしく、コテンパンなども呼び出されていた。


 その中でも、魔王がクララに興味を持っていた様子なのは傍から見ても分かったので、クララはかなり長時間質問攻めにあったようだ。とはいえゲームの設定を知らないクララにとってはまったく身に覚えのない話なので、話すことなどなかったようだけど。


 屋敷に着くと、私の帰りを待ち構えていたらしいメイドが声をかけてきた。


「お嬢様。公爵様とお母上様はすでに食事を終えられていますので、申し訳ありませんが晩餐は御1人でお召し上がりいただけますでしょうか」

「仕方がないわね。かまわないわ」


 いつもだったら私の帰りを待ってくれるお父様が先に食事をとるなんて、最近仕事が忙しいようね。

 やっぱり魔王が出現したことと関係あるのかな?


 そんなことを考えながら自分の部屋に戻り、学園の制服から部屋着に着替えていると、突然窓の開く音。


(え?)

 と思っている間に、開いた窓から魔王が部屋の中に降り立った。


「…………」

「…………」


 一瞬の膠着。


「きゃ~~~~!!」


 下着姿だった私は、胸を押さえてうずくまった。

 以前はメイドに着替えを手伝って貰っていたが、現実世界の記憶が戻ってからは自分1人で着替えていた。それが仇になった。メイドが居れば、魔王も人の気配を感じて部屋に入ってこなかっただろう。


「え。あ。すまない」


 魔王はそう言って顔を背けた。どうやら、見ていないからその間に着替えろということらしい。


 乙女心の分からん奴だ。見てなければ良いってもんじゃないのよ!


「部屋から出ていきなさいよ!」

「いや、見てないって」


「男が居るところで、着替えられるはずないでしょ!!」

「いや、大体、お前の身体なんか、なん……」


「なん?」

「い、いや、何でもない。すまなかったな」


 魔王はそう言葉を濁して部屋から出ていった。


「何よ! 私の身体がナンって!」


 ナンって、あれよね。インドカレーで食べる。薄っぺらいパンよね!


 私の胸が、ナンみたいに薄っぺらって言いたいのよね! もう! 激おこぷんぷん!


 ……駄目だわ。無理があるわ。現実逃避出来ないわ。


 大体、私って悪役令嬢で清楚系のヒロインとの対比なのか、結構胸あってナイスバディーだし。


 そういえばあいつの元カノって、今までのアーデルハイド・アーレンベルクなのよね。

 っていうことは、まあ、そういう関係だったってことで……。


 え? 何? 私の身体を何度も見たことがあるってこと?


 いや~~~~!!



「それでだ。次のイベントでは、カミルがどうたら、こうたらで……。で、何か質問はあるか?」

「いえ。大丈夫です」


「それでだ。その次のイベントでは、デニスがどうたら、こうたらで……。で、何か質問はあるか?」

「はい。問題ありません」


 その後、着替えが終わってから今後のイベントの説明を魔王から受けているが……。

 はっきり言ってむちゃくちゃ気まずい。


 私の様子から、魔王も私が何かを察知したことに気づいたようだ。


「いや、まあ、悪かったよ」

「ナンノコトデショウカ」


「なんだよ。その態度は。謝ってるだろ!」


 ちっ! デリカシーのない奴だな。

 問題は、見られたことじゃないんだから、謝って貰ってもしょうがないし、ここはお互いほとぼりが冷めるまでスルーしとけよ。


 だけど、むすっとしたまま魔王は黙り込んでいる。

 ああ、そうよ。男は都合が悪くなると黙り込むのよ。


 なんだか、初めに会ったときやイベントの時は様になってたのに、だんだんボロが出てるっていうか、こいつ、本当はかなり不器用な奴なんだろうな、というのは分かった。


 私の前までのアーデルハイド・アーレンベルクとは付き合っていたらしいけど、こいつ絶対、現実世界ではモテないだろ。


 まったく、私より前のアーデルハイド・アーレンベルクって、男の趣味が悪いんじゃないの?


 確かに魔王で人ではないといっても、裏ルートでの攻略対象なんだから顔は良いわよ。

 イケメン圧も、カミル基準で言えば……、まあ、結構高いのは認めるわ。


 でも、顔以外の良いところって何?


 そりゃ、前に私が憂鬱になっていた時にはいろんな場所に連れて行ってくれて、元気づけようとしてくれたのは分かってるわよ。


 今もあいつなりに私を気遣ってるのも分かるわ。


 そもそも、今まで第一王子やらの攻略対象たちから洗練されたアプローチをされてモテモテだと思っていたら、それはみんなアーレンベルク公爵家の権力目当てだったとか知ったら、魔王の不器用な感じが新鮮に感じるのも無理ないわよね。


 ……。

 あ~~もう! 分かっちまったよ!


 まあ100歩譲って、私より前のアーデルハイド・アーレンベルクが魔王に惚れたのは仕方がないとしましょうよ。


 でも、それって”今のアーデルハイド・アーレンベルク”である私には関係ない話よね!


「分かったから。このことについては、もう何も言わないで! 分かった?」


 この鈍い男には、ここまではっきり言わないと分からないわ。


「あ、ああ」


 魔王は、しぶしぶといった感じで頷いた。


「まあ、とにかくだ。今回は、今までと比べてもかなり上手く行っている。この調子で頼む」


 まったく……。

 これで話題を変えたつもりなのかしら?


 でも、上手く行ってるのなら良かったわ。


「じゃあ、今までの感じを続ければ良いのね」

「ああ。そうだ」


 そう言うと、魔王が微笑んだ。


 ちっ! やっぱり、イケメンじゃないか。

 そんな邪悪さのカケラもない、普通の少年みたいな笑顔を私に向けるんじゃない!

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