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大ハズレだと追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する  作者: 猫子
第一章 追放された転生重騎士はゲーム知識で無双する

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第三十七話 〈燻り狂う牙〉

「買ってしまった……〈燻り狂う牙〉」


 俺は外を歩きながら、〈技能の書(スキルブック)〉を握り締め、逆の手で頭を押さえていた。

 ルーチェに莫大な借りができてしまった。


「アタシがいいって言ってるんだから、いいじゃないですかぁ! さっきも言いましたけど、エルマさんには感謝してもし足りないんです! プレゼントですプレゼント! そもそもパーティーの戦力強化になるなら、普通にアタシのプラスになりますから、別に何も気にしなくていいのに……。エルマさんだって、〈鉄石通し〉買ってくれたじゃないですか! 何の成果もあげてないアタシに!」


「額が全然違うからな……」


 ルーチェの〈鉄石通し〉は八十万ゴルドで買ったものだ。

 対してこの〈燻り狂う牙〉は五千万ゴルドである。

 桁が違い過ぎる。


「ただ、そもそもあのときは、成金ラーナ討伐に必要で、元が取れるってわかってたわけで……」


「そのスキルツリーは元が取れないんですかぁ?」


「いや……取れる。それは断言する」


 今までの俺は、ゲーム知識で魔物の情報がわかっていたから、ただ有利に効率的に立ち回れていたというだけである。

 〈マジックワールド〉最強クラスとしての強みは一切発揮できていなかった。

 重騎士の強みは〈城壁返し〉でも〈影踏み〉でもない。

 完成された重騎士は、防御特化クラスとして立ち回らない。


 何せ〈マジックワールド〉において、〈燻り狂う牙〉持ち重騎士は攻撃特化クラス(ダメージディーラー)としてぶっちぎりで最強だったのだ。

 〈マジックワールド〉ではこのキャラビルドの重騎士は、狂騎士だの人型暴竜だのの愛称で呼ばれていた。


「正直、何が何でも〈燻り狂う牙〉は手に入れておきたかった。本当に感謝している。この恩の分の活躍はきっちりと熟さないとな」


 俺は〈技能の書(スキルブック)〉を握り締めた。


――――――――――――――――――――

技能の書(スキルブック)〉《燻り狂う牙》

【市場価値:三千万ゴルド】

 〈燻り狂う牙〉のスキルツリーを取得できる。

 このスキルツリー保持者の傍に寄ることなかれ。

 砕けた身体を引き摺り、裂けた尾を舞わせ、なお止まることを知らぬ奴の凶行には、死神さえ近づくまい。

――――――――――――――――――――


 入手はもっと先になると思っていた。

 ルーチェの厚意と信頼で手に入れられたのだ。

 必ずそれに報いなければならないだろう。


「その……早速使っていいか、ルーチェ? 持っていると、盗まれないかと気が気でならない」


 これ一つで五千万ゴルドである。

 いや、俺がこの〈燻り狂う牙〉に見込んでいる価値は、五千万ゴルドを遥かに超える。

 絶対に失いたくない。とっとと取り込んでおきたい。


「勿論構いませんよぅ! ぜひぜひ! ただ、本当に強いんですか? その……〈燻り狂う牙〉。アタシ、そのアイテムの説明文を見ていると、ちょっと不安になるんですが。大丈夫ですよね? 何か妙なデメリットがあったり……」


「強いのは間違いない。スキルポイントを充分に手に入れられたら、一気に化けるようになる」


 〈燻り狂う牙〉のスキルツリーは、死を覚悟して捨て身で戦うようなスキルを習得できる。

 ただ使い所が難しく安定性を欠き、上手く使っても結局デスペナルティのリスクが高まるため効率が悪く、エンジョイ勢が大ダメージのロマンを追求するくらいにしか使われることがなかったスキルツリーであった。


 重騎士とは一見相性が悪いのだが、安定感を強化しつつ、〈燻り狂う牙〉の火力を馬鹿げた領域まで引き上げることができるのだ。


「じゃあ早速使わせてもらうぞ」


 俺は〈技能の書(スキルブック)〉へとマナを込めた。

 〈技能の書(スキルブック)〉が光を帯び、スキルツリーの〈ステータス〉が自動で開いた。

 俺は〈ステータス〉へと手を触れる。


 通常、スキルツリーは三つまでである。

 新しいスキルツリーを入れるためには一つ消去しなければならない。

 その際、そのスキルツリーによって習得したスキルは全て消滅するが、費やしたスキルポイントは返ってこない。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:13]

〈重鎧の誓い〉[27/100]

〈防御力上昇〉[0/50]

〈初級剣術〉[5/50]

―――――――――――――――――――


「俺が消すのは〈防御力上昇〉だ」


 基本的にステータス上昇系は振るべきではない。

 レベルが上がればどうせステータスは賄えるからである。


 ただ、当たり前の話だが、スキルを入手して恩恵を受けられるのは、そのスキルを活かせる戦闘だけである。

 対してステータス上昇系は、だいたいどんな戦闘でもその恩恵を発揮することができる。

 そういう意味で、ステータス上昇系は適当に振っても強いスキルツリーではある。

 〈マジックワールド〉ではステータス上昇系を好むプレイヤーは少数派だったが、この世界ではそれなりに採用率が高いのではなかろうか。


 表記の〈防御力上昇〉が消滅し、〈燻り狂う牙〉が浮かび上がった。


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:13]

〈重鎧の誓い〉[27/100]

〈初級剣術〉[5/50]

〈燻り狂う牙〉[0/70]

―――――――――――――――――――


 同時に〈燻り狂う牙〉の〈技能の書(スキルブック)〉は、崩れ落ちて光の粒子となって消えていった。


「よ、よし、ついに〈燻り狂う牙〉が! 見てくれ、ルーチェ! ルーチェのお陰で、これが手に入ったんだ!」


「……〈ステータス〉って、どの部分でもあんまり人に見せるべきじゃないってエルマさん言ってませんでしたかぁ? えへへ、でもエルマさんがとっても嬉しそうで、アタシもなんだか嬉しくなってきました。早速〈燻り狂う牙〉に余ってるポイント振っちゃうんですかぁ?」


「そうしたい気持ちもあるんだが、〈燻り狂う牙〉はコンボ前提なところがあってな。スキルが揃うまでは安定しないから、まずは〈重鎧の誓い〉だな」


――――――――――――――――――――

【スキルツリー】

[残りスキルポイント:6]

〈重鎧の誓い〉[34/100]【+7】

〈初級剣術〉[5/50]

〈燻り狂う牙〉[0/70]

―――――――――――――――――――


 俺は何ポイントで、何のスキルを取得できるか正確に覚えている。

 〈防御力上昇〉のスキルツリーがなくなった今、ひとまずここは悩む必要がない。

 〈重鎧の誓い〉に振ってしまって間違いはない。


 この【6】をどう振るのかは、次にどこで狩りを行うのか次第になってくるな。


【〈重鎧の誓い〉が[34/100]になったため、通常スキル〈ライフシールド〉を取得しました。】


 よし、来た。

 〈ライフシールド〉は重騎士のスキルの中でもかなり有用なスキルである。


――――――――――――――――――――

〈ライフシールド〉【通常スキル】

 HPを最大値の20%支払って発動する。

 支払ったHPと同じ耐久値を持つシールドで全身を覆う。

――――――――――――――――――――


 ここだけ見るとあまり意味がないように感じるかもしれないが、余程相手の攻撃力が高くない限りは〈ライフシールド〉が破壊された際に攻撃が止まる。

 どんな攻撃でもHPの20%で潰せると思えば安いものだ。大きな保険になる。


 それに回復手段を確保できれば、実質的にHPの最大値が20%増えたようなものである。

 ただ無属性の魔法扱いであり、それなりにMPを消費する。

 まず〈ライフシールド〉の展開にMP消費が【8】、そこから一分継続するごとに【2】ずつ減っていく。

 一度使えば再使用にはしばらく時間を空ける必要もあり、考えなしに連発できるスキルではないのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] この『第三十七話 〈燻り狂う牙〉』のサブタイトルを『第三十七話 莫大な借りができてしまった』に変えた方がいいと思います。 現状では、同じ第一章内の『第四十二話 〈燻り狂う牙〉』と紛らわしいの…
[良い点] おもしろくなってきましたね! 凄いワクワクする!
[一言] ツッコミ所多い駄作、リタイヤだわ
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