#099:白刃の、ピュアホワイト
天へと屹立するかのような、十数本はぐるりを巡って視認できた「砂の柱」は、一瞬後、ふわりとばらけると、中から大型のトカゲのような影が飛び出て来る。ある程度は想定の範囲内ではあったが、
(……この間の『ベザロ』……でも動きは素早いっ!! 『奴』の力の恩恵でも受けている……とか? ま、でも)
アルゼはその動きの俊敏さに、一瞬思考を奪われてしまう。それでも、あーだめだめ、というように気を取り直すかのように息をひとつ吐くと、操縦席のシートの上で、まるで鍵盤楽器を奏でるかのように、両手の指を滑らせていった。
その「操縦」動作に合わせ、いつもの美しい射撃姿勢を取った「ジェネシス」は、狙いもろくに付けていないんじゃないかくらいの間隔で、即応射撃を周囲に満遍なく実行していく。ぶん回すように激しく動く銃口だったが、散発的に発射されている蛍光イエローに近い色合いの「弾丸」は、青白い砂を巻き上げつつこちらに迫るトカゲのような怪物の眉間辺りに、寸分たがわず撃ち込まれていくのであった。
「……やはりライフルは持参して正解か」
思わずそう驚きと呆れ混じりで呟いてしまうカァージであったが、その間も一見でたらめにばらまかれているようにしか思えない銃弾のすべてが、意思を持つかのように的確に、時には相手の動きを先読みするかのように、目標へと吸い込まれていく。
そろそろその神業的銃捌きを見慣れてきたアクスウェルの面々も、自分の職務も忘れて一瞬見やってしまうほどの「曲芸」的所業であって、初見に近いソディバラの一同は完全に動きを止めてしまっており、中には大口を開けてしまっている者もいる。
そんな味方に不穏な空気が滞留する中、先陣は軽く露払えたか、と完全に出遅れた体のミザイヤが、自らのストライドの長大な脚を繰り出してとどめを刺そうと前線に出張ろうとするものの、
「!!」
顔の中心辺りに確かに穿たれたはずの弾痕から、黄色い煙のようなものをたなびかせながらも、トカゲ状の怪物「ベザロアディム」たちは、ややひるんだ仕草を見せただけで、再びこちらに向かい襲い掛かってきた。
<うそっ? 捉えたと思ったのにぃぃぃ!!>
アルゼの焦燥する声が、無線を通じて全隊に伝わったところで、ようやくバックアップの職務を開始することの出来た隊士たちの援護射撃の音が鳴り響く。
しかし、その黒く引き込まれるような闇のような様相を見せる体表部分で、隊士の放った「エネルギー」の銃弾は、吸い込まれたのち、かき消されてしまう。
黒い「霧」のようなものに体全体を包まれているのは、先般、アクスウェルで一斉に「冬眠」から目覚めた数頭と同様であったものの、見た目からはこれら個体の特異性はまだ掴めないでいる。
(……何より、弱点って思えた頭への直撃が効かないなんて。どうしたもんか)
アルゼは自らに言い聞かせるようにそう頭に言葉を紡ぐが、言葉ほどは困惑はしていないようだ。むしろこの逆境を楽しむかのように、ふんふんと自然に鼻唄らしきものが流れ出て来ている。




