#092:憔悴の、暗緑
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ひと悶着を経て、アソォカゥから戻ったアルゼたちを待っていたのは、思いもよらない緊迫した局面であった。夜を徹して帰路を敗走が如く急ぎ飛ばして帰ってきた、その明け方。アクスウェル地区自警本部。
「……『やつ』が、出た?」
本棟2F会議室に集められた面々に告げられたのは、予想はしていたものの、かなり唐突に聞こえる報告である。
「……そうだ。『骨鱗』と呼称することにした、例の生命体が、『中央ポーセルノア砂漠』北西辺りに『根城』を形成していることが、ソディバラの偵察部隊によって発見された」
重々しい声で説明するのはカァージ。そのクールな無表情を貫いている顔にも、ここ最近の諸々の疲労は容赦なくのしかかっているかのようで、顔色は優れない。
「『根城』って……何、ですか……」
昨日の「謎の霧」によるダメージはまだ色濃く残っていそうに見えるアルゼだが、仇敵のこととなると身を乗り出し、最大限の情報を得ようとしてくる。アソォカゥでの成果がほぼ無しという報告は受けているものの、カァージはその真っすぐな瞳が何か救いに思えて気付かれずに嘆息を漏らしてから、上官の顔つきに戻り、続ける。
「『奴』は何といったらいいか……『女王蜂』のような存在と思われる。自ら巣を形成し、己の分身を増やすといった意味で」
カァージ自身も困惑げにそう告げたわけだが、それを受け取った面々の顔つきも同じく困惑に彩られていく。ジンだけはアルゼの翻訳によるラグがあるものの、その度合いは変わらないようだ。もっとも、それプラスこの星にも「蜂」が存在することに驚きも覚えているようだが。
「それって、『骨鱗』レベルの奴がわんさか増えていくっていう……ちょっとした絶望的状況なのでは……」
フォーティアが何とか口を開くものの、その口調に普段の余裕は見られない。
「いや、そこまでの『モノ』は生み出せないとの報告があり……それはまあ正直助かったというところなのですが……群れ、いや『軍団』相手となると、こちらの対応も変わってくるわけです」
律儀に自分よりも上位者には敬語を織り交ぜるカァージだが、その話の内容は一向に芳しさを見せない。
「総力戦……そう言いたいのか」
ミザイヤのぽつりと紡ぎ出した言葉に、一同の空気が変わる。
「この状況下でよう、そいつは厳しすぎねえか」
無精髭とやる気なさそうな態度がもはや常態であるオセルも、何とはなしにこの事態の深刻さを感じているように見える。声が重い。
「厳しい、厳しくないではなく、先手を打ってこちらから仕掛けるしかないと思う。司令、ソディバラ以外に連携が取れそうなところは……」
順調な回復を見せ、既に平時の佇まいに戻っているエディロアが、例のひっつめ髪にこちらもいつも通りといった感じで、冷静に言葉を発する。
「レイズン、イスプリート、ラングベルチア。この辺りには要請していますが、どこまで協力が得られるかは、交渉役次第といったところね」
総司令カヴィラの居住まいは、普段通り凛としているものの、その表情はやはり冴えない。




