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#091:徒労の、空五倍子



 ほうほうの体で、何とか逃げおおせた。


 ファミィさんの手により放出されたスプリンクラーのような「謎の霧」は、みなさんの体から、活動するためのエネルギーのようなものを根こそぎ奪っていったかのように見えた。一体何なのかは判別できなかったものの、幸い僕の体には影響を及ぼさなかったようで、脱力し固まってしまったジカルさんとフォーティアさんを抱えて出口の方まで駆け抜けることが出来た。


 アルゼも、自身は気絶しそうになっていたけど、その体に纏った「オミロ」……金属生命体は何てことないみたいに勝手に「自動操縦」に切り替えたかと思うや、半目のアルゼの体だけを操り人形のように動かすと、ミザイヤさんとボランドーさんをこれまた両肩に担ぎ上げて、僕を追い越して華麗な逃走を開始していた。


 ファミィさんサイドも、深追いはしてこないみたいだ。「時と場所を改めて」……みたいなことを言っていたけど、はっきり言ってやばいのベクトルの方が、太く長いわけで。早々においとま、が最適解なんだろうと思う。


 ファミィさん達が、僕と同じ「地球人」であることの、多分の確証は取れた。取れた……が、いまいち噛み合わないまま「会合」は終わってしまった感じだ。彼らがどのようにして「ここ」にやって来たかの経緯も分からないまま、ただ、僕という存在を、示しただけという結果に……それが何を及ぼすかのも分からないまま。


 宇宙船然とした、青白い「建屋」を抜け出し、山の中腹から一気に下山をかける。僕は女性二人を肩に担いだままだったけど、「低重力」がここでも味方してくれた。体感で言うと、二匹の猫くらいを肩に乗せているくらいの負荷だ。そして普段はあまり見せないようにしてるけど、全力を込めての連続跳躍で、岩壁に近い急斜面を鵯越の逆落としが如く駆け下りていった。


<はハン、ジンはンは、ここより強い重力のとこデ生活されてハんやなぁ。ええ動きでっシャ>


 一方のオミロは、二人の屈強な大の男を担ぎつつ、そしてアルゼの体を包んだまま、その形態を少し変化させると、幅広の「膜」状の物を風呂敷のように展開する。極薄の「膜」はまるで極限まで延ばされた金箔のようで、下からの空気の流れを受けて頼りなく揺らめいているものの、破れるといったことは無く、効率的に空気を巻き込んで上昇力へと転化しているようだ。坂道の途中からは遂に地面にほど近い所を滑空し始め、あっさりと僕を追い越していった。


 結局、このコティローを訪れた成果と呼べるものは、ほぼ無かった(オミロが同行するようになっただけかも)。新たな火種をわざわざ撒きに行っただけのような、何とも言えない気分のまま、僕らはアクスウェルへと戻るのであった。


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