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#088:流星の、白銀

「あなタ、何を知ってルの」


 鋭い目つきと口調で、アルゼが「玉座」に優雅に腰かけているファミィさんを詰問するかのように言う。後ろでミザイヤさんが制止するような言葉を放ったけど、全く意に介していない様子だ。


「……」


 しかしそれに相対する美麗な女性は、穏やかな余裕のある笑みを浮かべたまま、何も言葉を発しない。場に何とも言えない緊迫感が満ちていくように感じる。


「知りたいと、思っているのです。ジンさんの事を。そして『ここ』までたどり着いたその経緯についても」


「ジンは覚えテなイ。だから教えルこともナい。あなタたちに情報が無いノなら、もうここにイる理由も無イ」


 ひんやりとすら感じさせる迫力が、華奢な少女の体から漏れ出てきているようで……僕はただただ泡食ってその動向を傍観することしか出来ないけど。


「でもジンさんは『地球』から来られたのでしょう? でしたら私たちと一緒、ということになります」


 艶然とすら感じさせる微笑を顔に貼り付けたまま、ファミィさんはついにその言葉を僕に突きつけてきた。「地球」……やはりここは、僕が生まれ育った青い惑星以外の地であるのか。


「『チキュウ』……ってなに。どコ?」


 振り返ったアルゼは、硬く厳しい表情のまま僕に聞く。でも僕にもまともには答えられないんだ。この「星」ではない別の星、だなんて言って、果たして信じてもらえるかどうか。口ごもってしまう僕。でも、


「お願イ、教えテ」


 柔らかくて熱い掌に、僕の冷えた手指が包まれる。僕が答えられない理由を、自分たちに本当の事を隠そうとしているという態度と取られてしまったのだろうか。少し悲しげな大きな瞳で見つめられてしまった。


 「地球人」であるファミィさん、そして「ここ」の住人であるアルゼ……「現実」に帰れる一縷の望みが出て来た瞬間、僕の思考は揺らぎっぱなしだ。ファミィさんにおもねれば、僕は「元いた世界」に戻れるのかも知れない。


 いや、そうじゃないだろ。僕は隣でぎゅっと口を引き結んだ少女を見やった。いつもの天真爛漫さは影を潜めてしまっているその顔に、僕はゆっくりと頷いて見せる。僕はこの人たちに救われた。迷うところじゃあない。僕は肚を決めて、正直に事実を述べることにした。


「『チキュウ』……違ウ、星……」


 一瞬固まってしまったアルゼだったけど、すぐに、ワかったアリがと、と囁くと、にこりと笑ってみせてくれた。そして改めてファミィさんに向き直って言葉を発しようとする。その時だった。


「お嬢、あいつの体からも微量だが『光力』が出ている。値がはっきり……感知されているぞ」


 驚きを含んだ野太い声は、ファミィさんの傍らに立っていた屈強な男から発せられたものだ。手にした薄い機械のようなものを操作している。「あいつ」というのは僕のことだろう。ここ何日かの「修行」で「光力」をわずかながら体内で練ることが出来るようになったこと、それは確かに僕も驚きだったけど。


「……で、あればますます興味は尽きないところですね。アザーとアナザーを結ぶ、輪廻の螺旋……光と光の『ハイクロスブリッダー』」


 ファミィさんが歌うように紡いだ言葉の意味は全く分からなかったが、嫌な予感だけはさらに大波のように押し寄せてきている。


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