#085:隘路の、アリスブルー
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体感一時間が経つか経たないかくらい。湿度は無いけど汗ばむ陽気なので、そろそろへばり始めてきた僕だったが、アルゼに腕を引っ張られる感じで、慣れない山道を何とか歩き通すことが出来た。
「……」
他の方々の様子から、目的地に到着したということは分かったものの、そこには丸太で組んだ櫓、みたいな趣きの「門」らしき物が木々に紛れるようにしてあるだけだった。大きさも僕の背丈の約2倍、くらいであまり頑丈そうにも見えないわけで、これで外敵から中を守れるのかな、と要らん心配をさせられてしまう。
「おっと~、迂闊に触らねえ方がいいぜぇ兄ちゃん。『銀糸』を張り巡らせてある。『光力』を帯びさせてあるから、素手で触れたら指くらいは吹っ飛ぶってなもんよぉ」
無造作にその門の「扉」に手をかけにいこうとしたミザイヤさんに、長髪男がケケケと笑いながらそう忠告をする。それをジカルさんが通訳したのを聞き、ミザイヤさんは何事か言葉を返した。
「『サッさと開けロ』とノことネー。これ以上引き延バすんなら、お前ラの首を飛ばサセるそうヨー」
ジカルさんの言葉に、やべっ、と焦り始めた長髪と丸男は、懐から小さな金属質の掌に収まるくらいの丸い何かを取り出し、その尖った部分をいきなり口に当てた。
「!!」
ぷひょろ~みたいな、何とも脱力を促す音が鳴り渡る。笛だったのそれ、オカリナみたいな音質だ、と僕が余計な事を考えている間にも、その「門」の扉の中心が円状に、回転扉のようにギリギリと回り始める。どういった仕組みかは全くもって分からないものの、とにかく「中」への道は開かれた。
とは言え、円形の「窓」から覗く風景は、あまりこちら側と変わらないように見える。山の斜面と青い木々。人の姿は確認できなかった。でも門をくぐり抜けて分かった。ここは採掘場だ。
右手の方は崖になっていて、見下ろした所はすり鉢状に掘られた巨大なクレーターのような人為的な「穴」がかなりの直径を持って展開している。所々に人影が動いているのが見受けられ、今も正に「発掘」中なのだろうという事はすぐに分かった。人の数はでも数えるほど。20人くらいだろうか。
「……『最王斎』様への謁見は、そっちの入り口からだぁ。てめえらの要求は知らねえが、粗相すんじゃねえぞ」
長髪の男が顎をしゃくり、左の斜面を示す。そこには先ほどの「門」と同じくらいの古びた丸太で組まれた「入口」があるわけで、僕ら一行はその薄暗いトンネルへと進む。
緩やかな下り坂になっているその暗い道を、申し訳程度についている壁面のランプのような灯りを頼りに一列で降りていく。灯りの色は青白く、これも「光力」を利用した物と思われる。
「!!」
体感5分くらいで突き当たったそこは、ちょっと予想していなかった物で遮ぎられていた。
「……コれ……変わッた金属のコとねー」
ジカルさんが思わずそう漏らしたように、トンネルの行き止まりには巨大な金属の「扉」が鎮座していたわけで。その表面はゆっくりと動いてでもいるのか、ほのかな青白い光の反射が見ている内にどんどん変わって見える。どんな材質だよ。




