#079:根底の、ヘンナ
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ミザイヤはその「金属の棘」のような物と相対し、先ほどからの胸騒ぎを抑え切ることが出来ていないような表情を見せている。
黒い金属の質感を持つ「棘」は、まったくの無生物ですよ、みたいに沈黙し、鎮座している。が、そのわざとらしいまでの「静寂」さが、逆にこの百戦錬磨の強者/曲者であるミザイヤにとっては、うすら怪しくてしょうがないのであった。
(一発ぶっ放してみるか……?)
腰だめに構えた小銃の銃口は、先ほどからその物体にぴたりと向けられている。何か挙動があったのなら即応で撃ち込んでやろうと身構えていたのだが、この手ごたえの無さに、却って行動を制限されてしまった感があった。それでももう一度気合いを入れ直すと、腰をさらに落として射撃の姿勢を取る。
や、やるの……? と小声で背後のフォーティアが訊いてくるものの、もうそれに応対することも出来ないほどに、自身が緊迫していることを悟るミザイヤ。無言で頷くと、バックアップは任せたぜ、というようなことを背中で語り、自分の中でタイミングを計っていく。
傍から見たら、何かのオブジェみたいなもんに銃を向けてるアブない奴と思われるんだろうな、みたいなことを無理やりにも考えつつ、緊張を解き和らげようとするも、ミザイヤは何故かこの物体に得体の知れない恐怖を感じてしまっているのであった。
意を決し、射撃を始める。
「……!!」
撃ち出されたのは、硬質加工を施された、「光力」の銃弾である。火薬の爆発力によって鉛の弾丸を撃ち出す機構と、原理的にはほぼ同じと言っていいが、「火薬」も「弾丸」も、同じものを原料としているというところが異なるところと言える。
「光力爆発」により勢いよく射出された「光力の塊」は、回転も伴って、目標物に衝突する。先端は鋭利になるように「調整」されており、柔い鉄板くらいであれば、容易に貫通することが可能。だが、
「……」
目の前の「物体」は、近距離からの「銃撃」を、その表面を滑らせるようにして軌道を変えてしまう。まるで意志を持って「いなした」かのように。
「撃て、フォーティアっ!!」
ことここに至り、完全に「敵」と認識したミザイヤは、鋭く背後にそう指示を飛ばすと、自らは左に数歩ずれて違う角度から再度の射撃を試みた。
「……!!」
しかしその銃弾も、フォーティアが撃ち出した拳銃からのそれも、その「棘」は同様に表面を「使って」、うまく散らしてしまう。
(……別方向からの弾丸も、同じような角度で弾いてやがる……つまり、動いている)
ミザイヤが最大連射に移ろうと、引き金を引き絞ろうとした、その時だった。
ぱらり、とその円錐状の形をした「棘」が、まるで皮を剥くかのように、表面がつるりと螺旋状に解離していく。はじめて見せたその能動的な動きは、生物的というか、何というか物理的に起こった事象、のような趣きがあって、それに目を奪われたミザイヤは、しばし硬直してしまう。
丸めていた紙が元に戻ろうとするかのように、シルシルと音を立てながら、その「棘」は一枚の、それこそ「紙」状の薄っぺらい形へと変貌する。
その何とも言えない動きに絶句するミザイヤ。しかし、変容はそれだけにとどまらなかった。「紙」の中心が、不規則に波打つかのように動き始める。




