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#076:高覧の、コルク


 一方、アクスウェル地区自警内、「ジェネシス」のハンガー。


「……」


 整備士たちに囲まれるようにして鎮座しているのは、大人が五人横に並んで両手を広げたくらいの長さだろうか、大人の腕の太さほどの、長い棒状の物であった。


「……『エスドネ鋼』の中でも縦方向の強度が最高のものを、苦労して削って削って仕上げましたぜ。単に硬いだけじゃなく、粘りのような柔軟性も兼ね備えてやすから、折れたり曲がったりの心配はほぼほぼ不要の逸品でさあ」


 年配の白髪白髭の整備士の一人が、そうどこか誇らしげに言う。その長い「棒」は黒く鈍く磨き上げられており、その表面だけでも丁寧な仕事が為されただろうことを伺わせた。わずか半日あまりで調達から加工まで終わらせたその手腕に、カァージは脱帽の思いでいる。


「……要望通りだ。さすがは班長」


 間近で見て、そして手触りも確認し、その仕上がりに充分満足しながら、カァージは二日前の出立時にアルゼに頼まれたことを思い出していた。


……ひとつ、お願いがあるんです。


 黒赤髪の少女は、そう前置きをしてから、またしても第一印象は突拍子もなさそうな「提案」をしてきた。


……ジェネシスのですね……『しっぽ』を作ってもらいたいんです。


 思わず顔を顰め「しっぽ?」と聞き返してしまったカァージだったが、それに頓着する様子も無く、アルゼは畳みかけるようにしてこう続けたのであった。


……ジェネシスの正にお尻の……ええと、穴くらいの所からですね、こう、斜め下に向けて、ぴん、と伸びた感じの、まっすぐな奴を、取り付けておいてもらいたいんです。いけますでしょうか……


 正直、アルゼの奔放な発想について行けてはいないカァージは、もはや理由を問うこともせずに了承したのであった。何か「策」があるのなら、それはこの兵機の扱いに天賦の才を持つこの少女に委ねた方がいい、と自分の中の直感にも似た感覚に押されたというところも大きい。


……とびきり頑丈な奴を。思い切り突いても曲がらないのを。


 とにもかくにも、言われた通りのものを、事細かにここの「専門家」たちと密に相談して作り上げた。


(アルゼはこれが強力な『武器』となると見ている……失った『右腕』の代わりとなると見ている。しかし……やはり謎だ。どう使うと言うんだ?)


 カァージの脳裏に、この「鋼鉄の尾」を尻につけた人型兵機が、高速スピンをして敵を吹っ飛ばしている姿や、天高く跳躍して敵の直上から尾を刺し貫いている姿が浮かんでしまうものの、いやいや流石にそんな奔放ではないだろ、とそれらを頭の片隅に追いやる。

 

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