#069:収斂の、ホリゾンブルー
#069:収斂の、ホリゾンブルー
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「……あの『少年』はここの所属か? 何というか……異質な感じを受けるが」
エトォダは今までの怪しげな目つき顔つきを改め、すっ、と総司令直属のガードとしての自分に戻ると、鋭い眼光を目の前の車椅子の少年に注いでいた。
軽い前傾姿勢で、今にも腰に差されていた「拳銃」状の「兵機」を抜き合わせそうな、のっぴきならないオーラを醸し出している。
「っとととと! エトォダさん! 待ってくださいって!」
慌ててその前に立ちはだかるルフトだったが、このごつい「銃」からぶっとい光線でも射出されようものなら、自分の薄い体なんてあっさり貫通するよねーと、その聡明な脳で瞬時判断すると、心持ち体を斜めにずらして射線になろう角度から身をかわしつつ、何とか説得に当たろうとする。
「……『アソォカゥ』の者たちに、どことなく似ている。なぜ、ここの場にいる?」
「少年」も、そのただならぬ雰囲気に車椅子上でのけぞり始めるものの、エトォダは視線を切らずに、右手の力を抜いてだらりと下げていく。
まずい、即応で撃っちゃうよ! と腰が引けつつも何とかエトォダの構えを解きたいルフト。せめて視線を自分で遮れれば、と思うも、目ぇ合ったら瞬間撃ち抜かれるんじゃ? みたいな恐怖に横隔膜あたりが震え出すのを止められないのであった。
と、その時だった。
「ああー、違うのねー、ジンさんは私が助けたのことよ。リヒ川沿いで」
車椅子の後ろから、ジカルがそんな呑気そうな声を上げてそれを制止しようとする。先だってジンと「日本語」に近い言語で会話をしていた時と同じくらい訛っているが、もしかしたらこれが彼女の喋り方なのかも知れない。
「だからどうした? そいつが『アソォカゥ』でないことにはなるまい?」
もはや大概のことでは、スイッチの入ったエトォダを抑え込むことは難しいようだった。張りつめた空気は一向に収束する気配がない。
「うーん、でも自分で『アソォカゥ』じゃないみたいなコト、言ってたと思うね。まあ、『アソォカゥ語』に似た言葉でだったけど」
頼むから刺激しないで! と、真顔と懐柔笑みの中間くらいの表情で固まりながら、ルフトは両掌を前に出して、ゆっくりと、落ち着いて落ち着いてのサインを出すくらいしか出来なくなっている。
エトォダの右手が、ついに銃把に触れようとした、正にその時だった。
「……いや、そいつ、『アソォカゥ』じゃねえな」
えっ、と驚きを持ってその声の主を見やるルフト。エトォダの細身の体の向こう側で、腕組みをしながらミザイヤがそう言い放ったのである。
「……何故わかる? ミザイヤ氏」
エトォダは構えの姿勢を保ったまま、自分の背後へと声を投げかける。
「……眼の色が青く無えし、髪も金色じゃねえ。明らかに見た目が違うんだ、俺が実際に会ってきた『アソォカゥ』の奴らとは。種族間でそこまでの差異って、考えられねえだろ」
珍しくまともな事を言ったけど、それは理由にはならない、とルフトは思う。
種族でくくればそうかも知れないけれど、現に自分たちも異種族同士が共助しながら何とか生存しているわけで。
と考えつつも、どうにかミザイヤの言に乗っかってこの場を収めたい、と切に願いつつ、大脳をフルで回していくが、うまい事が思いつかないまま絶望的な顔つきになってしまうルフト。
しかし、
「……なるほど、ミザイヤ氏の推測……一理ある」
あっさりエトォダはそう認めると、ふい、とその殺気やら戦闘雰囲気を解いた。
ねーよ! と突っ込みたくなる自分をどうにか抑えるルフトであるものの、
「だろ? そんなことよりも早く俺のストライドを見てもらいたいもんだぜ。巷じゃなかなかお目に掛かれないほどのピーキーなチューンになってんのを、エトォダになら分かってもらえるんじゃねえかと、さっきからうずうずしてんだからよぉ」
兵機の事になると、うだうだとよく喋るな! とこれまた突っ込みたい自分を殺して、ルフトは、何やらぐふぐふと気持ちの悪い笑い声を立てながらハンガーの方角に歩み去る兵機ヲタの二人の後ろ姿を、生温かい目で見送る。そして、
(絶対、エディロアさんに言いつけて、フォーティアさんに言いふらす)
固くそう誓うのであった。




