#067:適格の、タン
#067:適格の、タン
「……ソディバラの奴はクズ鉄みてえな兵機でえいこらしてる印象があったが……こいつはなかなかスマートなのがあったもんだ。『乗る』というよりは『着る』といった感覚……面白え、まったくもって面白え」
「……要人警護や隘路強襲、さらにこれに乗り込んだ上で、『大型』に搭乗も可能という……正に兵機の未来を変える兵機なのだ……しかし一見でこれを兵機を見抜くとは……さすがアクスウェル一の兵機マスター、ミザイヤ氏だけのことはある……」
もはや二人のマニア同士の会話に、割って入ることなどできないルフトなのであった。見目麗しき金髪の美少女が、薄気味悪い笑みを浮かべながら常人には理解できないことを低い声でつらつらと述べているさまは、どう控え目に言っても薄ら気持ち悪いのであるが……
しかし。と気を取り直す。
(これは好機。うちのマニアと波長がシンクロするというのなら! ひとまずお任せすることにしよう。厄介事は……これ以上抱え込みたくないし)
生温かい目で、目の前で理解不能の蘊蓄を垂れ流し合う二人を見やりながら、ルフトは後ろ手でホーミィを呼び寄せる。
「……手っ取り早くジェネシスを見てもらって、それでお引き取り願おう。いいね。何かいやな予感がするから」
ルフトの穏やかだが有無を言わさないその調子に、こくこくと必要以上に頷くと、ホーミィは銀髪をなびかせて、兵機ハンガーの方へ様子を伺いに走る。
「……盛り上がりのところ恐縮ですが、ジェネシスの所に案内いたします。エトォダ様、こちらへ」
作り笑い以外の何物でもない表情筋の収縮を顔面に貼り付かせたまま、ルフトは話し込んでいるエトォダの意識をこちらに引き戻そうとする。
「おお。肝心なことを。いやーしかしミザイヤ氏。『ストライド』にかける氏の情熱、しかと伝わったぞ。そうだ、先にそちらを見せてもらうとしよう。断裂した部分、もしかしたらスペアがあるかも知れない」
しかしルフトそっちのけで、エトォダは何とも形容しがたい表情で、本人たちだけの楽しさを振りまきながら、ミザイヤと談笑を続けるのであった。
「……」
何となくの疎外感を感じつつも、まあこれで何事もなく過ぎ去ればいいのだと自分に言い聞かせるルフト。
しかし自覚は無いものの、その人畜無害な人となりに反比例するかのようなトラブル呼び込み体質である彼に、安寧は訪れないのであった。
「あれ。珍しい組み合わせですねー。そちらはソディバラの……?」
背後からそう声を掛けられ、振り向いた先にいたのは、褐色の肌に紅色の瞳、先日、バイクで大立ち回りを繰り広げた、ジカルであった。平時は外回りの多い彼女だが、今日はなぜ……と思う間もなく、その前方の車椅子に目が行く。
(彼が……『少年』)
曰く、リヒ川のほとりに倒れていたところを拾ってきたという、その黒髪の少年のやけに小さな瞳とのっぺりとした顔を見ながら、これがまた思わぬ火種にならなければいいのだけれど、と、半ば自分でフラグを立てるかのような思考に陥ってしまうルフトだったが、
残念なことに、その予想は見事に的中するのであった。




