#065:不動の、千歳緑
#065:不動の、千歳緑
「『ジェネシス』初陣の情報とかは、もう行ってるとみていいわけね」
エトォダが挙げたその鋼鉄兵機の名に、カヴィラは何かを悟ったようだった。うん、と首を回しながら伸ばすと、少し浅く、椅子に座り直す。
「あんたが目ぇ付けたって言うじゃない。そりゃあこっちの興味も湧くってもんよ」
ベンロァも、エトォダ同様、人型鋼鉄兵機「ジェネシス」に興味を持っているようだ。そしてその機体が現時点で謎の挙動を示したことも。
そんな旧友の様子を見やり、カヴィラはふぅ、と鼻から一息つく。
「……私は『人型ロボット』に目が無いだけ。今回のもまあ、言ってみれば職権濫用のゴリ押し採用ってだけよ」
殊更におどけた風で肩をすくめてみせるものの、古くからの「戦友」にはその真意が見透かされているようだ。ベンロァはしかし含み笑いに留めて、それ以上の追求はやめて再び煙管を吹かし始める。
「もう! お二人とも。私の話を聞いてくださいませっ」
エトォダの甲冑の隙間辺りから漏れ出てくる声は、本人は非難の意を込めているのだろうが、やはり耳に柔らかく、心地よく響くな、とルフトは思う。
(それにしても……)
「中身」が若い女性だということにも驚いたが、先ほどエトォダが、ベンロァの事を「お母様」と呼んでいた事を思い出し、えええという気持ちになるルフト。自らの組織の中枢にいる、エドバ-エディロア親娘のことが想起されるが、
(ベンロァ総司令の弟が、エドバⅢ督。エトォダさんとエディロアⅠ騎が従姉妹ということか。あとはフォーティアさんも姉だか妹だかがいるって言ってたな……割と、血縁関係多いんだ、うちと、ソディバラは)
頭の中を整理するかのようにそう思うと、気持ちを瞬間切り替えて、す、と自らの上官に向き直る。
「僭越ですが、こちらのエトォダ様のご案内を私にお任せいただけませんか。ジェネシス含め、こちらの設備等をご案内できればと思いまして」
そう申し出たのは、先ほどのエトォダの自分に対する言葉の内に、何かしら「知られている」というようなニュアンスを感じたからであった。
(それにこの『甲冑』……もしかして)
気になることは、即解析・解明がルフトのモットーでもあり、強みでもあるのだった。その意志ある目と向き合ったカヴィラは、何か含ませたような目つきで頷く。
「では、エトォダさんの案内をお願い致します。ホーミィさんにも付いていただくので、女性専用のところは彼女にお願いして」
カヴィラの言葉に敬礼をしてみせると、鎧甲冑のエトォダを扉の方へと誘うルフト。扉を出たところで待機していた銀髪の少女、ホーミィに旨を伝えると、改めてエトォダの方へと姿勢を正して向き直る。
「アクスウェル地区自警、ルフトーヴェル=カーンⅤ士です。まずは事務所の方からご案内させていただければと思います」
敬礼をしつつ、そう告げたものの、
「不要ですわ。私はジェネシスさえ見られればそれでいいですの。さっさと、案内いたしなさいな」
甲冑から出て来た声は、威圧的で高飛車な響きを宿していた。ええー、そんななのー、わかりやすいのきたー、と傍らのホーミィがその大きな青い瞳を見開いて絶句する。
しかしルフトは、そういった輩たちには(含む上官)、常日頃から対処を迫られているのであって、別段動じる素振りも見せず、ではハンガーにご案内します、と、柔らかな微笑みを浮かべつつ先導し始めるのであった。




