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126/128

#126:御座の、アウタスペースブルー


 もうだいぶ、のっぴきならない戦場にて、のっぴきならない煽情の只中に放り込まれている。


 脳髄が今にもバーストしそうな状況で、僕は自分でもこれほどまでによくも耐えてこなしているとさえ思う。


「ジンからも……私に……触れて……」


 相変わらず熱っぽく、艶っぽいアルゼの吐息混じりの囁きに(普通に喋ろう?)、ドキドキの閾値までおそらく達してしまった僕は、却って冷静に、自分の両手で操縦桿を握るアルゼの両手を握り込むようにするわけだけれど。


 僕の掌からずっとドライアイスの煙のように湧き出ていた「謎光力」が、アルゼの手の甲へと染み込むようにして伝わっていくのを、確かに感じた。アルゼの波長と「繋がった」、そんな感覚。


 「共振」……と言っていた。この身体密着状態で、お互いの呼吸を合わせることで、「光力」を増幅するということなのだろう。何となく想像は出来たけれど、いざそれをやろうとすると、もう何というか、いろいろなことが限界だ。


 アルゼの体温を全身で受け止めている……背後から覆いかぶさるように密着している極限状態にありながら、僕は次第にアルゼと呼吸だけでなく、光力の波形、果ては鼓動までもが同一になってきたような感覚を受け取っている。


「……」


 アルゼにもそれは「共有」出来ているのだろう、満足そうな、そして何故か艶っぽい目で僕を軽く振り返って微笑むと、次の瞬間、のけぞりつつぐいぐいとその柔らかな頬を僕のそれに擦りつけてくるわけで。甘い香りが大脳に直で突き刺さってくる。


 大脳の演算能力が時間も空間も超越したと感じた瞬間、僕の頭の中で何かが弾けた。



 「骨鱗コツリン」はおおよそ、満足していた。自らの身体に、ドラスティックな変化を及ぼしてくれた事象に、少なからず満足していた。


 全身を覆う黒い「鱗」が全て「羽毛」へと変化を遂げた時、「骨鱗」は確実なる「一歩」を踏み出せたと、その細胞のひとつひとつで感知そして確信できたような、そんな奇妙でありながらも深い理解の只中にあり、そのため恍惚すら覚えるほどだった。


―遥かな昔、「私」はこの惑星の中心で自我を持った。


 「骨鱗」は細胞の核に刻まれていた、過去の事象を脳内に再生させる。


―母なる大地。常にそれは私をあたたかく包んでいてくれたものの、私は「進化」の過程の中で、孤独というものを学び、感じ取ってしまった。その時から、私の「旅」は始まった。


 「骨鱗」の表情の無い爬虫類然とした片目は、いまだ視界を埋め尽くさんばかりに空を舞う自らの黒い「羽」を通し、直下で動きを止めている鋼鉄兵機ジェネシスに向けられていた。


―何を求めていたのか、何故求めていたのか、それは今となってはもうよく判らぬ。膨大なる時間をかけ、進化に進化を重ねた果てに、私はこの「地表」へと辿り着いた。そしてそこで出逢ったのだ、私たちは。


 「骨鱗」の視線は、ずっと静かに落とされている。


―「聖剣アヴェンクア」。土くれより生まれしこの私が、金属で出来た貴様に惹かれた。始まりはそのような、陳腐とも言うべき、私の核の中に眠っていた、そのような未知の、表現するのは難しいが、「感情」……それだったのかも知


 「骨鱗」の思考はそこで中断される。


「……!!」


 下方より突如放たれた、青白く、そして黄金のような輝きをも持つといった、形容しがたい色の「光力」の束のようなものが、その左腕をもぎ取るようにして跳ね飛ばしたからである。


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