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#125:非情の、アティックローズ


 下着姿で操縦席に収まっているアルゼをなるべく見ないように注意しながら、何故か上着とズボンを言われるがままに脱ぎ置いて、その傍らに阿呆のようにランニング+トランクス姿で佇む僕がいる。何だろう、この状況は。


 雑多な感じで組まれた機械に囲まれているこの狭い空間は、じんわり汗ばむほどの熱気がこもっているがそれだけじゃなく、内から湧き上がってくる熱が僕の顎から上を茹で上げるかのように苛んできている。


「……奴の体が変化シている……『鱗』を……全部『羽毛』に変化させてイくみたい」


 じ、と前方のモニター越しに、倒すべき相手、「骨鱗」の様子を伺っていたアルゼが、押し殺した声でそう告げて来る。思わず僕もモニターの方を振り返ると、拡大された「奴」の肩口付近が大写しになっていて、その全身を覆う黒くぬめりを帯びたような硬貨くらいの大きさの「鱗」ひとつひとつが意思あるように蠢いているのが見えた。非常に、精神にくるおぞましさだ。でも目は離せなくなっている。


「……!!」


 ずっと見ているわけにはいかなかったけど、「鱗」のひとつが早回しで見る細胞分裂の動画のように縦横に割れ、次の瞬間、柔らかな質感へと変化しつつ、いわゆる「羽毛」の形を成していくのは確認できた。


 「奴」は「変化それ」待ちってことだろうか。なら、全身を羽毛に変えるまで、あと数分……くらいの猶予はある、はず。こちらになす術が無いと向こうが思っているんなら、「変化」を全て終えてからでも余裕、と踏んでいる、はず。


 はずはずだらけで自分でも呆れてしまうけれど、僕が今やること、やれるべきことと言ったら「これ」しか無い。だったらもうそれをかましてやるだけだっ。


 両手からグローブも抜き取っていたので、今の僕の掌からは、湯気が如く謎の光力「ブルーワイトJET」が立ち昇っているままだ。黒い「羽根」を、「分解」させる謎の力。アルゼは僕の「覚醒」によってそれがもたらされたと言っていたけど、そんなきっかけがあったかな? むしろ今現在叩き込まれた状況の方が、何かが覚醒しそうなんだけど。


「……奴に油断のある、『初発』でキメるしかナい。『共振』なんてあんマり得意じゃないんだけど……ジンとなら、ジンとだったラ、うまく出来そう……」


 ところどころの言葉のチョイスが意識的なのか無意識なのかあざとさを僕にもたらしに来るけど、アルゼの表情は真剣なままだ。僕ももう肚は決めている。でも、


後方バックから、付いて」


 ……操縦席のアルゼの後ろにタンデムで座れと、そういう解釈ですよね? うーんうーんなかなかそんな表現にはならないとは思うけどなあ~、と逆に真顔になってしまう自分を叱咤し、シートから背中を浮かせて前のめりの姿勢になったアルゼの後ろに、座席をまたぐようにして着座する。


 背もたれには今しがたまで密着していた彼女のぬくもりと残り香がまだ明確に宿っているわけで。前方約15cmくらいのところに、肩下までの黒髪が割れて覗いた、少し汗ばんで見える白いうなじが見えるわけで。


 平。常心。を。保。つんだ。


 さくりと何処かに意識を持っていかれそうなそれらから、視覚・嗅覚・触覚を、鋼の意志でシャットアウトしようと渾身の大脳演算力をつぎ込む僕だったが、そんなばくばく血液を送り続ける心臓辺りを押しつぶさんばかりに、いきなりアルゼがその華奢な全身をもたれかかせてくるわけで。


「……なるべく接する面積を増やシて。でないと、『共振』は出来ない……」


 何故か熱っぽい口調で、そんなコト言われても、なんかもう全部の知覚がごいんごいん縦横に激しく揺さぶられるかのようで、


 Nooooooooooooooooooooooooっ!!



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