#119:相伝の、マーシュローズ
▽
眩い光が、暗闇に包まれ始めていた青白い砂漠の景色を一瞬、白に染めた。
「……くっ」
それもかなりの刺激的な、目に来る閃光だった。僕は、何とはなくの嫌な予感が先刻からやばいレベルのインフルエンザ時のようにぞんぞん背中辺りに感じていたから、素早く顔を背け砂の上に倒れ伏すという退避行動が、コンマ3秒くらい早く取れたのだと思う。
それでも固く閉じ切る前の瞼の隙間から、眼球を貫かんばかりのホワイトアウトな光が射しこみかけていた。あぶないって。これやる前に言わないと。
しかし他のアクスウェルの皆さんは慣れているかのようで、各々バイザーやらゴーグルを手早く既に装着しており、この戦いの推移を遠巻きに見守っているのであって。
ともかく、アルゼ(+オミロ)の渾身の連携技が、機先を制してぶちかまされたようだ。相変らずの次元が半歩ずれたようなその行動だったけど、初手から全力、っていうのは理にかなってはいる。
光が止んで一瞬、恐る恐る目を開いて鋼鉄兵機の背中越しに、お相手……「骨鱗」がどうなったのかを確認しようとする僕。しかし、
「!!」
黒い不気味なてかりを帯びたその「鱗」を、自らに向けられている照明装置の光に晒しながらも、そこに損傷らしきものは毛ほども見受けられなかったわけで。ただ、先ほどまで体の各所を覆っていた「羽毛」は全て失われていた。しかし、何度も言うけど無傷。骨鱗は腕組みをしたまま、先ほどまでと同じ立ち位置で、静かに相対するジェネシスを睥睨している。
かなりの威力だと思われたあの「ビーム」……アルゼもおそらく必殺のつもりで撃ち出したんだと思うけど……効か……ないのか? それはやはり、ヤバい事態なんじゃあ……
その時だった。
「……!!」
骨鱗が正面を向いたまま、その左手を軽く掲げる。次の瞬間、その掌が受け止めたのは、巨大な金属の「銛」のような物だった。激しい衝撃音。
<……呆けてるヒマはない。アルゼ、手を、頭を止めるな>
噛んで含めるような言い方だったから、僕にもその言葉は聞き取ることは出来たし、意味も分かった。ミザイヤさん……誰もが驚愕と自失で動きを止めてしまっていた中、この人だけは自分の愛機を作動させ、目標の死角から次手となる攻撃を始めていたのだ。さすがベテラン。落ち着いている。
<……はぁい!!>
その言葉に我に返ったかのようなアルゼの馬鹿でかい声が響き渡ると共に、ジェネシスの機体も滑らかな挙動を始める。その欠けた右腕部分には、上空に高く飛んで「ビーム」の直撃を何とか交わしていた金属生命体が落下してきつつ再び「合体」すると、今度はやけに細長い形状にと変わっていくけど。
「鞭」のようなフォルムだ……それを肘辺りからだらりと下げているという、ちょっと見慣れない感じだ……そしてあまつさえその先端の少し膨らんだ部分をひゅんひゅんと唸らせながら回転させ始めたぞ……何だ? 何をしようとしているんだ……ッ!?
<いくぞぉぉぉぉぁぁぁぁあああっ!!>
そしてそのままアルゼの搭乗機は、骨鱗との間合いを詰めていくけど。ええー、大丈夫?




