#118:昂然の、ミスルトー
「随分と威勢の良いお嬢さんだ……なるほど先だっての『アヴェンクア』の時も搭乗していたか……『適合者』。この時代にはそんな形態で顕現しているわけか……面白い。貴様も『進化』を続けていた……」
身体の各所に生やしている黒い羽毛を風にたなびかせながら、骨鱗はアルゼの剣幕にも全く動ぜず、そのような周りの者には理解しがたい言葉を落ち着いた低音で紡ぎ出すばかりであった。図らずも、風音だけが強さを増していく。
<パッシィちゃんもいてはりますさかいに!! 久しぶりに顔みたらえらい不細工に仕上がりはってまあブヘェぇぇぇぇぇっ、笑かしよりはんにゃ~>
一方、鋼鉄兵機の右腕と化している金属生命体は、そんな挑発まがいの耳障りな声を上げるものの、
「『オミロパシィタ』!! ……久しいな。貴様の見てくれも随分と珍妙になったものだが……それも時代の要請なのかな? 面白い。まったくもって面白い」
骨鱗に軽くそういなされると、ぐぬぬとアルゼと共にそんな歯噛みをすることしか出来ないでいる。はっきりと異質な空気がこの場には流れていた。
(……何だろう、この感じ……口の中がざりざりするような感覚。あいつは……)
砂地を尻でにじり下がりながら、その骨鱗と充分な距離を取っていたジンがそんな思考を頭に浮かべるものの、自分との繋がりという点では皆目見当がつけられないでいる。
何とも言えない断続的に来る重力のようなプレッシャーが、この骨鱗と対峙する者たちには一律与えられているような、そんな状況。誰もが動きも思考も止めていた。そんな中、
「いくよ! オミロ! 先手を取ぉるっ!!」
<アイサイ!>
いい加減、この場の雰囲気に耐えられなくなってきているようなアルゼとオミロは、まさしく一心同体といった体でジェネシスの機体を始動させると目の前の目標に躍りかかっていく。
「眠てえこと言ってんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
こと戦時になるとどうしても好戦的な感じになるアルゼの裂帛の気合いと共に、鋼鉄兵機の右腕と化していたオミロが、その己の身体の形態をぐにぐにと不気味な動きで変えていく。
「!!」
瞬時に極限まで細り尖っていくジェネシスの「右腕」。突き出された勢いも足され、それは槍のような直線的な動きで目標……骨鱗に到達しようとしていた。
が、
「……なるほど。見事な連携攻撃というわけだ。ふたつの力を足し、ふたつの思考で翻弄する。なかなかのもんだよ。なかなかの」
その「槍」の先端部は、軽い感じで挙げられていた骨鱗の右手に捉えられていた。相当な握力と見え、捕まえられた穂先を押し引きしようとしているジェネシスだったが、槍は微動だにしなくなっている。まったくの余裕の言動に、カァージ以下、戦闘の推移を見守ることしか出来なくなっている面々は驚愕の余り言葉を失う。しかし、
<……賛辞は、みなまで喰らってから言いなはれや>
その静寂に響いたのはオミロの何とも落ち着いた声だった。瞬間、その掴まれた先端から広がるようにして、骨鱗の体向けて、己の金属の体を「投網」のように広げ覆いかぶさっていく。
「……!!」
骨鱗の体に絡みつくようにして展開したオミロのボディは、引き絞られるようにして収縮すると、相手の体の自由を奪ったようだ。骨鱗が身じろぎしてみるものの、その細かな網状のものは緩んだり切れたりの気配は見せない。
その眼前にドンと足を叩きつける人型の鋼鉄兵機。
「前腕部の断裂箇所にッ!! 直で「増幅水晶」を取り付けたッ!! だから今のジェネシスは、『腕から直にビームが撃てる』ッ!!」
アルゼが鋼鉄兵機の右の二の腕辺りを左手で支えながら構えを取る。言う通り確かにその断面の中央部には透明で巨大な「宝石」然とした物が取り付けられており、それが今まさに火を噴かんと輝きを増していっているのであった。
「オミロ……うまく避けてね」
<ちょちょちょちょ!! そな聞いてへん!! どのタイミングで? カウント取ってぇな!>
意思の疎通が全く取れていない二人だったが、その「連携」は確かに骨鱗を追いつめているように見える。そして、
「……『せーの』で」
<いやわかりませんて!! 『せー』の長さ、うっとこ初めてやから推し量りようもあらしまへんがな!! せめて『いち、にの、さん』とかで……>
「『せーの』っ!!」
有無を言わさないアルゼの掛け声と共に、凝縮されたような強い輝きを持った光線が、ジェネシスの右腕部から弾け飛んでいく。




