#115:裂帛の、ファイアーブライト
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「ふうううう……」
またも奇天烈な格好へとなった鋼鉄兵機は、まるで人間のごときの素振りで、すっと膝立ちの姿勢へと移行する。
その右腕の先端には、細い針状のものが四方八方に飛び出している、巨大なハリネズミのようなものが付着しているように見えた。
「人型」を操る少女―アルゼは、その狭く暗い操縦席で軽く息を吸って吐いてと、いったん整えてから、左右の手に握った操縦桿を微細な角度を付け、引っ張り持ち上げる。
その動きに呼応するかのように、ジェネシスの両腕もゆるゆると動き始める。辺りを埋め尽くさんばかりに舞い踊っている謎の「黒い羽根」にまとわりつかれながらも、先ほど予備の「エネルギーパック」から、動力源である「光力」を補給しており、少しは動けるようになったようだ。「ハリネズミ」状の右腕を地面と平行に伸ばし、それを支えるように、左手でその肘辺りを支持する。
(このままじゃジリ貧の、時間の問題。ここは全力でいくしかない)
鋭い目つきに変わっているアルゼは、いま一度、操る機体に齟齬が無いか、自身の神経を尖らせて確認に入る。
ライフルを構えていた時と同じく、隙やブレの見えない、見事な射撃姿勢である。しかして狙うべき目標が見当たらない中、どこを照準をつけているのかは、指揮車内で見守ることしか出来ていない上官のカァージには見当がついていないのが実状であった。
(ここはもう……任せる。任せるとしか……情けない話だが)
しかし反面、頼もしく誇らしげな感じも覚えている彼女であって、自然と表情は落ち着きを保ち、わずかな笑みさえ浮かべている。
<ジン!! 伏せてッ!!>
いまだ砂塵の中を駆けまわり、負傷者の収容に尽力していた少年に、ひときわ通る声でアルゼは叫ぶ。慌てた様子で両肩に担いでいた屈強な男たちの身体をトレーラーの荷台に押し込むと、扉を身体でぶつかるようにして閉め、自分はその傍らにうつぶせになる。
「……」
その様子を確認しつつ、アルゼは集中力が極限まで研ぎ澄まされた感覚を頭ではなく、肌で受け止めている。
(ジンがみんなを助けて出してくれなかったら、この『方法』は使えなかった……うふふー、みんなには普段は頼りなく見られているらしいけどー、どうよ? やっぱりいざという時に活躍してこそでしょ)
と頭の方ではそんな風に思考が迷走し始めるアルゼではあったが、
<アルゼはん? タイミングはお任セしまっさカい、頼んマすよって>
右腕の「ハリネズミ」に擬態している金属生命体から、そんな不安げな声が漏れ出てくるものの、
「おっけーおっけー……おーるおっけー」
割と軽いノリながらも、しっかりとその目は「目標」を捉えているようである。ぐいと顎を引き、
「撃ェッ!!」
短い裂帛を発すると、右手操縦桿を握り締める。
「!!」
瞬間、鋼鉄兵機の右腕に展開した数万はあろうかという「針」のそれぞれの先端に、球状の紅色に近い、輝くエネルギーの光が溜まっていくのが視認される。そしてそれら「球」は豆粒くらいに膨らんだかと思うやいなや、爆ぜるようにして周囲あらゆる方向へと、次の瞬間、エネルギーの微細な「弾」を撒き散らしていた。
「……!!」
ジェネシス本体にもそれら「弾」は撃ち込まれていくものの、それを物ともせずといった感じで、機体も操縦者も、その「放射」をやめようとはしない。
「弾」は無秩序に、ムラはあるが漏れは無く、「黒い羽根」を撃ち貫き、それらを吹き飛ばしていっている。




