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【書籍化決定】天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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三章*悪妻、推しを退職させる(5)


 *****


 屋敷へ戻ってくると、なんだかとても騒がしい。


(そういえば、漫画では婚約破棄のあとルピナがエリカを拉致監禁して、ローレンス殿下が取り戻しに来るエピソードがあったわね)


 私がシオン様を拉致したせいで物語補正が入ったのだろうか。エリカの代わりにシオン様を取り戻しに来たのかもしれない。


 悪い予感が当たってしまった。


「お嬢様、ローレンス王子殿下がおいでです。応接室にお通ししておりますが……」


 執事が困り果てた顔をしている。


 私は肩をすくめた。迷惑だが、それを執事に言ってもしかたがない。相手は、元婚約者であり王子なのだ。


「わかったわ」


 私はそのまま応接室に向かった。


 ドアを開けると、ローレンス殿下とエリカが駆け寄ってくる。


「ルピナ! シオンを退職させるとはどういうことだ」


「先生は宮廷魔導師なんですよ」


「さすが、先触れもなくいらっしゃるだけあって、マナーもなっていないのね」


 私が微笑むと、エリカはビクリと震える。


「お前にマナーを指摘されたくない!」


 ローレンス殿下が吠えてくる。


「あらまぁ。王子ともあろう方が、悪女ルピナと同じレベルでよいのですか」


「ああいえばこういう! そんなことはどうでもいい、シオンを返せ!」


「返せとは? シオン様は私の旦那様ですのよ。神殿も国王陛下の許可も得ていますわ」


 私はシレッと答える。


「っ! 結婚の許可と、退職の許可は別だ! 本人の意思を無視して退職させるのは認められない!」


「あら? 本人の意思を無視してる証拠は?」


 私が問うと、エリカが左手を私に見せつけた。


 中指にシオン様の贈った指輪が輝いている。


「この指輪は、シオンさま……、いえ、シオン先生からいただいた通信用の魔導具です。いつでも困ったときは連絡してきていいといただきました。それなのに、連絡がつかないんです!」


 エリカの言葉にローレンス殿下が動揺した。


「その指輪……そんな魔法がかけられていたのか! そんなものすぐ外せ!!」


「ロー! 今はそんな話をしている場合ではありません。これでは、先程と同じ。ルピナ様の思うつぼです!」


 エリカはキッと私を睨み上げた。


 どうやら先程の痴話げんかで学習したらしい。


「連絡が取れないように結界を張るだなんて、きっと後ろ暗いことがあるはずです!」


 私はギクリとした。


(攫って監禁、さらには騙して結婚、勝手に退職させたんだもの。今、エリナたちにあったら心が揺らいでしまうかも。まだ、シオン様をエリカたちに会わせるわけにはいかない! でもどうしたら……)


 反論できずにいる私を見て、ローレンス殿下がここが好機と目を光らせた。


「そうだ! 本当にシオンが納得しているなら、俺たちに会っても問題ないはずだ!」


「そうです! 先生に会わせてください!」


 ふたりに詰め寄られグヌヌとなる私。


「先触れもなく来るだなんて」


「それはもう聞いた! 同じネタをこするなんて怪しいな!」


「! シオン様はお疲れなんです、日を改めて……」


「一週間も公に出ず、疲れているとはなにをさせているんだ? あの怪しげな魔塔でシオンを酷使してるんだろう!」


 絶好調のローレンス殿下だ。


「どうやら、魔塔とやらを強制捜査する必要がありそうだなっ!」


「そんな勝手は許されません!」


「宮廷魔導師の脅迫拉致監禁、加えて公文書偽造容疑となれば話は別だ」


 ふんぞり返るローレンス殿下を惚れ惚れとした目で見上げるエリカ。


「さぁ! シオンを出すか、俺たちを魔塔に入れるか! どちらを選ぶ!」


 嬉々とするふたりに対して、私は窮地である。


(シオン様をふたりに会わせたくない。でも、魔塔の中に入られたら困るわ。きっと孤児も魔獣たちももとの場所に返される。ドラゴンだって殺されちゃう)


 困り果てる私を前に、ふたりは詰め寄った。


「ルピナ様、シオン先生を連れてきてください」


「そうだ、自分が選ばれる自信があるなら、抵抗する必要はないだろう!」


 私は唇を噛みしめた。


(私が選ばれる自信なんかあるわけないじゃない!! シオン様はエリカを愛しているんだから!!)


 でも、それでも、私はシオン様が大切なのだ。


 私のことを憎んでいてもいい。生きていてさえくれればいい。私はシオン様を守りたいだけだ。


(でも、どうしたら……)


 困り果てる私の前に、ブワリと黒い闇が降ってきた。


 驚き目を見開く私たちの前で、その闇の中からシオン様が現れる。


「シオン……!」


「先生!!」


 喜ぶエリカたち。


 私は顔面蒼白である。


(ああ……。シオン様はきっとふたりのもとに帰るわ……。全部、無駄になってしまった)


 エリカたちと私のあいだに立つシオン様の背を見て私は絶望した。


(やっぱり、エリカたちのほうに向くのよね……)


 当たり前だ。彼らは古くからの親友で、私とシオン様にはなんの絆もないのだ。


 私は俯き、捨てられる覚悟を決めるしかない。


「シオン! 大丈夫だったか! 悪女に攫われ大変だったな」


「シオン先生! 私たち、助けに来たんです。もう大丈夫です。一緒に帰りましょう」


 ローレンス殿下とエリカが微笑み、シオン様に駆け寄った。


 シオン様は緩く頭を振る。


「私はルピナ嬢と結婚した。ここが私の家だ」


 シオン様の言葉に、ふたりはピタリと固まった。


「は?」


「……うそ……」


 私はシオン様の言葉が信じられず、マジマジと広い背中を見つめるだけだ。


 シオン様は振り向くと無表情で私の隣に並んだ。



「シオン様……?」


「なにを驚いている? わが妻よ」


 イケボで確認され、私は思わず失神しかける。


(シオン様が……わが妻、……わが妻? は?)


 シオン様は崩れ落ちそうになる私の背を支える。


(は? は? はぁぁぁぁ? 妄想? 幻影? こんな都合のよい現実ありえなくない??)


 パニックに陥る私をシオン様が窘める。


「しっかりしろ」


 私はハッとして、ローレンス殿下に立ち向かった。


 シオン様が私の味方なら百人力である。


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