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【書籍化決定】天才魔導師の悪妻~私の夫を虐げておいて戻ってこいとは呆れましてよ?~  作者: 藍上イオタ@天才魔導師の悪妻26/2/14発売


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三章*悪妻、推しを退職させる(3)

 人事部門の長官は私の兄である。


 人事部門のドアは礼儀正しくノックする。メイドが扉を開き、兄のもとへと案内してくれる。


「ああ、ルピナ、よく来たな」


 お兄様は一番奥にある立派なマホガニーのデスクから立ち上がった。


「お兄様!」


 私はにこやかに微笑むと、小走りで駆け寄った。


「コラ! ルピナ、はしたないぞっ!」


「だって、お兄様に早く会いたかったんだもの」


 答えると、お兄様はデレリと相好を崩した。


(お兄様、チョロすぎるわ。こんなんじゃ悪い女に騙されるわよ)


 私は内心心配である。


「……ルピナ嬢はこんなにかわいい人なのですか? 噂では悪女だと……」


 ボソリと先輩役人に尋ねる新人役人がいて、お兄様は眉をつり上げる。


「ルピナはいつもかわいいが、勝手に見るな。噂に惑わされるとはまだまだだな」


 ピシャリと言い放ち、私は思わず噴き出した。


 新人役人はきつく目を瞑り、ピシリと居住まいを正すと、直角に礼をした。


「申し訳ございませんでした!」


 ほかの役人たちは目を泳がせている。


「さて、なんのようだ、ルピナ」


「結局、お兄様のお手を煩わせることになってしまいましたの……。力不足で申し訳ございません」


 私はしおらしく俯いて、シオン様の退職届をお兄様に差し出した。


 お兄様は中を確認すると、静かに頷く。


「間違いなくこの退職届はこちらで受理した。あとの手続きは任せてくれ」


「ありがとうございます。お兄様」


「予想どおり、魔術部門は受理しなかったか」


「ええ、大切な魔導師とおっしゃっていましたわ」


「ならば、サッサと階級を上げ、役職につければよかったのに。在籍五年でまだ下級魔導師なのは彼だけだ。俺からは勧告を何度もしたぞ」


「お馬鹿なのですわ」


 私が答えると、お兄様は苦笑いした。


「おかげで我が公爵家に有望な人材を引き抜くことができたんだ。礼でも言っておかねばな」


 お兄様は余裕の笑顔である。


「ところで、ルピナ、例の件は考えてくれたか?」


 お兄様が尋ねた。


「あの店の者をこちらに寄越す件ですか?」


「ああ。あの店は便利なんだが、毎度出向くのも面倒だからな」


「駐在できるように、支店を開設させてくださればよいですわよ」


 私は軽く答えるが、王宮内に支店を開設させるなど、無理筋だとわかっている。


 しかし、要求せずに諦める必要はない。断られたとしても、特に損はないのだ。


 お兄様は少しだけ考えるそぶりを見せた。


「わかった、ひと部屋手配しよう」


 簡単に了承し、私のほうが呆気にとられる。


「本当ですの?」


「ああ、効率化を考えればそちらがいい」


 お兄様はサラリと答えた。


「ところで、駐在の責任者はルピナか?」


 私はお兄様の唇に人差し指を当てウインクをする。


「一応オーナーの名は秘密ですの。それに、王宮で働くなんてまっぴらごめんですわ。家には愛しのシオン様がいるというのに」


 私が答えると、お兄様は肩をすくめた。


「だいぶご執心だな。小さなころは姿を見かけるだけで失神していたくせに」


「あれは感激の失神でしたのよ! それをお父様もお兄様も誤解して、私とシオン様を遠ざけようとなさるんですもの!」


 ふくれっ面を見せると、お兄様はニコニコと笑う。全然反省などしていないのだ。


「悪かったよ。だから今は協力しているじゃないか。許してくれよ」


「冗談ですわ」


 私は笑う。


「では、責任者を一度こちらに寄越してくれ」


「承知いたしました」


 商談成立である。


 私は人事部門のドアを閉めた。


「この部屋で見るルピナ嬢はかわいいですね」


 ドア越しに声が漏れてきて、私はビックリした。


「勝手に見るな」


 お兄様がすぐさま一喝し、同時に窓際のカラスが飛び立つ。


 盗み聞きしていた私は、おかしくて笑った。



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