(諸)『打つ』 〜慣用句で遊びたい
慣用句・・・習慣として広く使われる、ひとまとまりの言葉や文句や言い回しのこと。
今回は「打つ」の慣用句を沢山使って小説にしました。とても品の良い上質な言葉あそびになったのではないでしょうか。
宇都宮にある高級料亭で古い友人と食事をした時のことだ。
「僕は流行り病に伝染らないように、ワクチンを打つ」
などと友人は、私に向かって説教のような演説を打つ。
なかなか筋道の立った彼の考えには、しばしば膝を打つ。
さらに彼は「人の集まる所へ行く奴なんてうつけ者だ」とも言い、私はひとまず相槌を打つ。
だが、心の中では舌を打つ。
なぜなら私はゴルフも打つし、パチンコも打つ。
面倒なので、「当然、他人との接触は控えているさ」と返し、芝居を打つ。
彼の言い分には非を打つ所がないのだが、こういう正論がときに出る杭を打つ。
考えの違いは、仲の良い私達の隙間に楔を打つ。
波を打つように延々と続く彼の説教に飽きてしまい、私の心はだんだんと鬱。
それでも我慢して相手をしてあげようと、虚ろな意識に鞭を打つ。
が、遂には「ちょっとトイレに……」と私は逃げを打つ。
しかしトイレから戻って来ても話は止まず、打つ手なし。
我慢できずにスマホを取り出し、俯きざまにLINEを打つ。
ようやく店員が料理を運んで来て、熱心に話す彼の不意を打つ。
目に映る鱓料理と豪華な器の美しさは水を打つように私達を黙らせた。
それにしても……
店には先手を打つべく料理を早く出すよう伝えていたのだが、どうやらここは彼のような成金野郎に心移ろい寝返りを打つ店らしい。
いつか敵を打つ。
料理をスマホのカメラに写す私に対して、彼は「鉄は熱いうちに打つべきだ」と早速料理に手を付ける。
私達は現を抜かすほどの美食に舌鼓を打つ。
話を聞いてやったんだから奢らせようと思っていたが、食事には満足だ。支払いは割り勘で手を打つ。
ふむ。
それにしても我ながらウマい事を言う。まるで真を打つ落語家のよう。
さて沢山「打つ」を並べてみたが、そろそろアイデアが頭を打つ。
ならば、このあたりで終止符を打つとしよう。
次はもっと良い小説であなたの胸を打つ。
(おわり)
いつもの作者の作風と違うので誰かと入れ替わっているのでは?と疑われそうですが、決してそんな事はありません。↓の作品を参考にさせていただきました。
『遊びたい欲は涸れない』鈴木結七
https://book1.adouzi.eu.org/n6051hu/
こちらはより格調のある作品ですね。(実はツンデレ作者という噂も……)




