11 騎士エルト・ベルグシュタット(アマネ視点+α)
「エルト。もう王都から離れるのかい?」
レヴァン王子は長年の友人である騎士に話し掛けていた。
レヴァン王子に負けないぐらいの美形な顔立ちの男性。
金色の髪の毛は無造作に整えられ、王子よりも少しだけワイルドな印象を与える。
翡翠色の瞳は、美しいとしか表現できない。
(私には彼もイケメンな王子様って感じだけど)
彼の名前はエルト・ベルグシュタット。
ベルグシュタット伯爵家の長男にして騎士。
第3騎士団をまとめているのが、このベルグシュタット伯爵家だ。
この騎士団は王都から離れた自国内の問題の解決をする為に動く事が多い。
遠征用の騎士団ってところね。
そのせいか、リュミエール王国で起きる問題を解決に向かう時は決まって、彼らと共に行く事になる。
──お察しの通り、彼も乙女ゲーム『リュミ恋』におけるルーナの攻略対象。
ヒーローの1人にして、レヴァン王子の親友ポジション。
ああ、もうそれだけでルーナとレヴァン、そしてエルトの三角関係の泥沼が起きそうよね。
彼には更にキーパーソンとなる人物が居るんだけど。
「マリウスの令嬢との婚約を破談にしたと聞いた。本当なのか、レヴァン?」
彼が自国で報告された魔物の討伐へ向かうより先に王都に現れたのは、突然の王子の婚約破棄騒動を受けてのことだ。
「……事実だ。クリスティナとは……破談となった」
「何故だ? 俺は会った事はないが、レヴァン。お前は随分と彼女を気に入っていた筈だろう」
「……うん」
エルトに王都で起きた騒動の顛末はレヴァンの口から説明される。
こと細かにだ。
「傾国の悪女……。それに救国の乙女か」
エルトは、その端正な顔立ちで傍に控えていた私達3人……私、ルーナ、ミリシャを見た。
「聖女様の予言はきっと真実です。私の姉は必ずそうなる事でしょう。同じマリウスの名を持つ者として、とても恥ずかしいです」
ミリシャがそう口添えしている。
私は、会話に参加せずにルーナに耳打ちをした。
「彼、どう思う? ルーナ」
「え? どうって」
「ほら。顔がタイプとか。あるじゃない?」
「ええ? どうしてアマネ様は私の恋愛事情にそんなに熱心なんですか……」
それは当然、この世界が貴方の恋愛事情を中心にして回ってるからよ……とは言えないわよね。
マルチエンド型シナリオのリュミ恋。
つまり、私の予言力はルーナの色恋問題によって大きく左右されてしまうのだ。
ここまでの予言は共有ルートや『リュミ恋歴史年表』に沿って出来てきたけど、ここからは既に原作本編がスタートした後の時系列。
どんなイベントが起きるかは、ルーナ次第なところがあるわね。
「だが【天与】を授かり、その力を見せたマリウス令嬢は王命でアルフィナに向かったと」
「……そうだ」
「ふむ。だが、どこの騎士団を連れて行ったんだ? 俺の所にその報せは来ていないぞ」
「い、いや、それが……」
悪役令嬢であるクリスティナには1人で旅立って貰った。
同行者が死んでしまうと分かってたからね。
無双モードなクリスティナなら余裕の旅路だろう。
問題は彼女の【天与】である『毒薔薇』の覚醒がいつかって事なんだけど。
あの状態のクリスティナって、どういう状態なんだろ。
災害を未然に防ぐなら『毒薔薇』を咲かせる前にどうにかすべきだけど。
でもそれで『オマケモード』で溢れて来る予定だった魔物の群れを無視するワケにも行かないし。
やっぱりクリスティナにある程度、アルフィナの魔物を退治させた後で……倒すとか?
どの道、クリスティナのアタック値は『カンスト』してるみたいだし……。
本編で起きる問題を片付けながら最強状態のクリスティナ対策も整えていかなきゃいけないとか鬼畜ゲーと化してるわね。
でもここが現実だとしたら……こう、絡め手というか。
何もわざわざ正攻法でクリスティナを倒さなくても良いかもしれない。
ほら、毒殺とか暗殺とか。そういうので傾国の悪女を何とかするのはどうかな?
実はルーナの攻略対象には『暗殺者のエリート』も居たりするから、彼と親しくなったら頼んでみようか。
「1人……で? ……お前の婚約者、……元・婚約者は王妃となるよう教育を受けてきた女性に過ぎないだろう。それに1人での魔物の討伐を命じられたのか?」
エルトが驚愕している。
まぁ、パラメータ強化されて無敵なんですって言っても通じないわよね……。
実際はパラメータを極振りしてるだけだから、無敵じゃないし、付け入る隙とかある筈だけど。
ゲームでだって魔物の強力な攻撃の直撃を喰らったら死ぬ時は死ぬものね、クリスティナ。
そうなったら苦労せずにハッピーエンドだったりして?
流石に騎士団が居れば魔物の群れを対処できると思う。
「……すまない。事情をよく理解し難いのだが。陛下もお前も、それで良かったのか?」
「…………うん。分かるさ。だが、先の災害を予見してみせたアマネの力を疑えという方が困難なんだ。現に各地で上がる報告と照らし合わせても……彼女の予言の力は本物だと言わざるをえない」
ふふふ。伊達にリュミ恋オタクやってないわ。
「……そうか。……お前も辛いだろう。しばらくは休むといい」
「レヴァン様の事なら私に、私とルーナ様にお任せ下さい!」
ミリシャがここぞとばかりにレヴァンの正妻然として自己主張する。
嬉しそうよねー。
ミリシャって、小さい頃からレヴァンに憧れてた設定なのよね。
「…………」
反面、ルーナは、あんまりレヴァンルートに乗り気じゃないみたい。
てことは創作投稿サイトで2番人気 (私調べ)のエルトルートを選んだりして?
でもそうすると新たな火種がこのグループに舞い込む事になる。
「……お兄様! エルトお兄様、いつまで時間を掛けているの!?」
ほら来た。
バン! と音を立てながら扉を開いた先には……これまた美しい金髪と翡翠の瞳という、1発でエルトの血縁と分かる女性が居た。
「ライリー。王太子の前だ。不敬だぞ」
「今更だわ。レヴァン王子とは私も前から親しいのに」
ライリーと呼ばれた女性。
彼女の本名はラーライラ・ベルグシュタット。
エルトの妹であり……ブラコンだ。
かつ『姫騎士』とまで呼ばれていて、普段はツンツンとしている。
兄にだけデレデレ。ルーナのライバル令嬢ね。
ちなみにそのデレはその内にルーナにも向く事になるわ。
そうして呼び戻されたエルトは、騎士団の遠征へと戻る事になった。
◇◆◇
「予言の聖女アマネ・キミツカよ」
「へ?」
イケメン騎士がルーナではなく、私に話しかけてきた。あれ? ここで私なの?
「【天与】に等しい力を持っているようだが……レヴァンの婚約者を奪ったその予言。そこに他意など無いと誓えるか?」
「他意って……」
あ、ミリシャが私を睨んでる。
これはアレよね。私がレヴァン王子狙いでそんな事したのかって事よね。
「──他意なんてありません。私は、私の知っている知識を王子に伝えただけです。誓ってそれはこの国や人々、それから友達のルーナの為に過ぎません」
私は胸を張ってそう答えたわ。
だいたいレヴァン王子は私の推しじゃないし。
「……そうか。そうであれば、むしろ良かったのだが。……その言葉、偽りであったなら承知しないぞ」
「え、はい」
あれ? エルト、怒ってるわね。
いつもはルーナ視点で見ているものだから、何だかその好感度の差でびっくりしてしまうわ。
こういうの、ルーナ自身に転生とかが分かりやすくて良さそうだけど……それだと、私はルーナになりきれそうにないからダメね。
「それから救国の乙女よ」
「は、はい」
まだ人々に呼ばれてない愛称なんだけどね、それ。
「これから先、第3騎士団と共に国内を巡る事も多くなるだろう。今日は機会がなかったが……また後日、よろしく頼む」
「は、はい! 精一杯がんばります!」
「ああ」
「……エルト兄様! もう行きますよ!」
ラーライラの嫉妬シーンを挟みつつ、ベルグシュタット兄妹は王都を旅立っていったわ。
◇◆◇
(エルト・ベルグシュタット視点)
◇◆◇
「何? 既に魔物を討伐した後だと?」
騎士団を要請した街に着き、用件を確認するとそんな報告を受けた。
馬を走らせれば王都からそう時間は掛からない街だ。
ゆっくりと移動したつもりはなかったが……。
「衛兵の手でどうにか出来る程度の魔物だったという事か?」
「いえ、それが……」
部下からの報告で驚くものがあった。
件の魔物を討伐したのは……なんと見目麗しい赤い長髪の令嬢であったという。
市井の者に【貴族の証明】こそ見せたが、名は名乗らず、魔物の死骸と討伐報告だけを残してすぐ街を去っていったらしい。
「クリスティナに間違いないだろう」
「そうですね、お兄様」
まさか王妃候補に過ぎなかった女性が1人で魔物を倒したのか。
話には聞いていたが【天与】を授かっただけはある。
「……傾国の悪女か」
残された死骸も見たが、かなり大型の魔物だった。
衛兵達の手には余った事だろう。
……それを一刀両断している。
見るからに一撃で葬ってしまったらしい。
「ふっ……」
「お兄様?」
自然と興味が湧いた。どんな女なのだ?
レヴァンの婚約者であった時は、見目の美しさ以外は悪評が聞こえる事もあった。
だが当のレヴァンからはそのような話は聞かなかった為、何とも思っていなかった。
しかし聖女曰く、彼女は国に仇なす悪女となるらしい。
「クリスティナ。この目で見てみなければ気がすまんな」
「えっ」
聖女は自信に満ちていたが実際はどうなのだ?
彼女が見出した新しい【天与】持ちも何か思うところがありそうだった。
……国王陛下と王太子が、聖女の予言に振り回され、次代の王妃となる筈だった女を謂れなき罪で流刑に処した状態だ。
もしも聖女こそが悪ならば……或いは。
「ラーライラよ。俺はこのままクリスティナの足取りを追おうと思う。お前は騎士団を率いて王都へ戻れ」
「そんな! 何故ですか!?」
俺は大事な妹の目を見つめ、諭した。
「聖女はクリスティナだけは悪女と断じて裁きを与えた。そのような女の言葉だからこそ、真実が見えて来ることもあるだろう。……特に王や王子の目が曇っているのなら……それを正す責任が俺にはある」
レヴァンとは長年の友だ。
それに自らの恋人を手放させた事実は見過ごせまい。
「じゃあ私もお兄様と一緒に行きます!」
「……いや、それは」
「お兄様がただ1人の女を追い掛けるなんて見過ごせませんから!」
……俺はこうなると聞き分けの無い、大事な妹と共にクリスティナを追う事にした。
良ければブクマ・評価お願いします。




