101 修道院の調査へ③
しばらく飛んでいった先で、ようやくエルトが率いている一団を見つけた。
「ルーナ様ー! エルトー!」
「ああ……やっと見つけましたか」
「おい、このお嬢ちゃんに計画性ってもんを叩き込んでおけよ」
「なんで暗殺者に説教されないといけないのでしょうかね……しかも正論」
「フフン!」
「褒めてませんよ?」
相変わらずリンディスは素直に褒めないわね!
クインが翼をはためかせながら降り立ち、エルト達と合流したわ。
「エルト!」
「クリスティナ。早いな」
私は駆けよって彼の胸に飛び込んでみたわ!
「っと」
「ふふふ!」
けっこう勢いよくぶつかったけど、まったくフラつく事なく私の身体を支えてくれるエルト。
「流石に鍛えているだけあるわね!」
「ふむ……? ありがとう、クリスティナ」
「いや、意味が分かりませんよ、お嬢」
リンディスが遅れて駆け付けてくる。
そして彼の前で礼をしたわ。
「ベルグシュタット卿。クリスティナ様の従者、リンディスです。以前、一度だけお目に掛かりました。この度のご婚約、誠におめでとうございます」
「ああ。久しぶりだな。貴公とは言葉もろくに交わせていなかった。だが、クリスティナとの婚約を貴公に祝福して貰えるのは……何より彼女の喜びとなるだろう」
「そうね! リンディスが祝ってくれるのが一番嬉しいわ!」
「ありがとうございます、お二方。……で、ですが」
リンディスは雰囲気をがらりと変えたわ。
「婚約にまつわる話について、深く聞かせて頂いてもよろしいですか?」
「うん? 構わないが」
「ありがとうございます。あの日、お嬢が朝にラトビア嬢に会いに行くと言って飛んでいったかと思うと帰ってきたら婚約してました、でしたからね。未だに事態を正確に掴めていないのが正直なところです」
「そうか」
「説明はちゃんとしたわよ!」
「……してないですね」
「していなそうだな」
「してねぇだろ、このお嬢ちゃん」
どうしてほとんど会った事ない筈の3人が一致団結しているのかしらね!
「あ、ルーナ様」
「はい。クリスティナ様」
「彼がリンディス。私の従者よ」
「リンディス様ですね。よろしくお願いします」
「それと、こっちがナナシね。カイルの師匠。夢の世界、『オトメゲム』の中でルーナ様を殺した事もあるわよ」
「どういう紹介の仕方だよ!? 感じ悪ぃな!」
「あは、はは……。クリスティナ様らしいですね……」
ルーナ様が、すすっとナナシから距離を取ったわ。
フフン! ざまぁないわね、ナナシったら!
「エルト。マリルクィーナ修道院に向かってる途中?」
「そうだな。神殿からは正式な通達をして貰っている。監査の権限が正式に俺達にあるワケではないが……。魔物の氾濫という王国を襲っていた災害の元凶が邪教かもしれず、そこに証拠があるかもしれない……となれば無視するワケにもいかないだろう。大きく任務を外れるワケでもない」
そう。災害と邪教を結びつけていいのかは微妙だけれどね!
でも私はアマネがそれと結びついていると思っているから。
「でも、あくまで私が夢の中で見たってだけだからね?」
「クリスティナの夢は特別だろう。天与を持つ者の夢だ。ラトビア嬢も直観のような才能を持っている」
「うん。私やルーナ様は特別かもしれないわ。でも、予言で罪人を決めつけてはアマネと同じになるの。だから証拠が必要よ」
一線を越えるか否かの線引きが重要よね。
何より私は自らの天与も疑っているし。
「出来れば隠し階段をこの目で確かめたいわ。そこに何もなかったのなら……私の見る夢は『ただの悪意』だって分かるから」
悪役令嬢なんて存在しない。
私が、そんな未来を歩むことなど最初からありえなかった。
そう思えるでしょう。
逆に隠し階段が確かに現実にもあったのなら……この夢は、ただしく天与でもあるという事。
数多の『エンディング』は確かに存在しえた未来だわ。
「ふむ……。その件だがな、クリスティナ」
「うん」
「邪教が女を生贄に使うらしい、というのはヘルゼン領でもあった事だ」
そうね。フィリン達が捕まっていたわ。
「あの修道院が、その場所と同じ状況になっていると危惧しているのだな?」
「そうよ」
「修道院である以上、連れられてくる女に事欠きはしないだろう。だが、そういった事をするには管理者が事情を理解していないと無理だ。それから……同じ意思の元で動く者達も」
「うんうん」
「……もし修道院が本当にそういう集団であれば、時間を掛ければいずれ証拠を掴めるかもしれない」
「うん」
「だが、その場合は犠牲者が余計に増える。クリスティナの見た夢が真実なら、だが」
「……そうね」
夢の世界の隠し地下。そこには地下牢があって死臭がした。
死人まで確認はできていないけど。
声が聞こえた以上、まだ生きている子がいたかも。
……それもまぁ夢の世界の話なんだけど!
「クリスティナはどうするべきだと思う? お前が言うように、これだけの情報で相手を責め立てるのは予言の聖女の非道なやり口と同じだ。調査を進め、怪しい・疑わしいと分かれば、それは正しい行為に出来るだろう。……だが、そうすると今、救えた筈の命が救えなくなるかもしれない。なにせ天与が見せる夢なのだ。通常の手段では救えない運命だった筈の命を救えるかもしれん。時間を掛ければ助かる者も助からなくなるだろう」
んー……。
「じゃあ、強行突破? 人の命が掛かっているかもしれないのなら四の五の言ってられないわ。間違ってたらゴメンナサイよ」
「ふっ……。それもクリスティナらしくて悪くないんだが。クリスティナ」
「なぁに?」
「……俺は、お前を、他の貴族令嬢のようには思っていない」
「うん?」
「俺が惚れたお前は、天与を振るったとはいえ、俺に勝つ程の女だ。そして、野に咲く薔薇のような美しさと『棘』がある事だ」
「棘」
あるかしら? フフン?
「今の俺は、まだお前の望む事が何かを知らない。……だから、これは俺が勝手にお前に期待する理想の姿でしかないんだが……」
「うん」
「俺と共に『囮』になる気はないか?」
「……おとり?」
何の囮かしら。
「騎士団で出向けば相手は怯むだろう。戦える人間が多く居た方が安全に事は進められる。……だが、正攻法の手順も強行手段もどちらも問題がある」
「うん」
「だから3つ目の策だ。……相手にボロを出して貰う」
「ボロ?」
「そうだ。クリスティナ。お前を『囮』にして相手の出方を窺う。向こうに戦力が居るのなら、それを炙り出す。先に相手に手を出させ、こちらの大義名分を確保する」
「それで私が囮?」
「ああ。連中にとって天与を有するお前は味方ではない。殺すべき敵なのだと俺は思っている。だから、お前が『餌』になれば、連中は動くだろう」
「うんうん」
予言と現実の折衝案っていう所ね。
「婚約者を死地に送るの?」
「俺が惚れて、信じた女は、これしきの事を死地とは呼ばない。勿論、これはあの日の決闘から俺がクリスティナに見た理想でしかない。現実のお前が、今の俺の言葉に傷つくのなら……二度とこんな事は言わないさ。理想と違ったからとて愛想を尽かす程、俺のお前への気持ちは軽くもない」
まぁ! 告白だわ。これも告白よね。
「……淑やかな令嬢達は、この俺に『守る』と言わせれば胸を高鳴らせるのだろう。籠の鳥のようにすべてからお前を庇護すると誓ってみせれば。だが、クリスティナ。俺はお前にこう言いたいのだ」
「なぁに?」
「──俺と一緒に戦おう。隣で、共に。剣を掲げ、勇ましく、優雅に。これからもずっと。お前に俺の剣を預けたい。そして俺はお前の剣となろう。俺は、お前に、ただ家で待っていて欲しくはない。対等に隣に立ちたいのだ。お前はそれが出来る女だとそう思っている。お前の強さを信じたからこそ俺自身でアルフィナに足は向けなかったんだ」
「エルト……」
まぁ、まぁ、まぁ! 何かしら?
むず痒い気持ちだわ!
「だからだ。俺とお前が2人きりで奴らを誘き出す『餌』になろう。たったの2人など取るに足りぬと思わせて襲わせる。……そして連中をすべて返り討ちにしてしまおう。それが新たな手掛かりだ。俺とお前なら出来ると思うが……どうだ?」
「……悪くない計画ね!」
「そうだろう?」
つまり天与を使って大暴れすればいいのね?
私に向いた作戦だわ!
「私、ナナシやカイル、セシリアから教わってきたからね。襲撃者を全員生け捕りにする薔薇を出せるわよ!」
「……そうなのか?」
「うん! 暗殺者は貴重な情報源だから、もしも襲われた時は簡単に殺さないように心掛けてるの! 毒で自殺とかもさせないように『解毒薔薇』で口を塞いで生け捕りにしてやるわ!」
これから私を襲ってきた相手は誰も殺してあげないのよ。
ナナシみたいに情報を搾り取れるだけ搾り取ってアルフィナで働かせてやるんだから!
「では俺の計画に乗るか? 今度はお前と共に戦ってみたい」
「ええ! 私、囮になってみるわ! だって楽しそうだもの!」
「ふっ……。そうこなくてはな」
私とエルトは微笑み合いながら、修道院の手先を釣り出して返り討ち計画を話し合ったわ。
何故か、その間にルーナ様とリンディス達、それと騎士団の人達が、引いた顔をしていたけど、気のせいだと思うわよ!




