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第十九話 五秒間の死闘

 

 例えば、エルザ=グリードの所有魔法の一つである念話魔法。思考を接続、他者との言葉を介さない意思疎通を可能とすることで邪神に気づかれることなく情報共有や作戦会議を行うことができる。


 例えば、純白の女の子からの情報提供。生きている者の負の感情の『総量』が邪神の糧となり、力と変わる。つまり王都に侵攻している百を超える魔物を放置しておけばその分だけ負の感情が促進されるとなれば、放置していてもいいことはないだろう。


 例えば、アンジェ=トゥーリアを救う手段。呪縛・心にしろ体にしろ、救済方法はステータスに示されている。呪縛と同等、あるいは凌駕するレベルの浄化魔法。つまりは『模倣』と『レベルアップ』、二つの因子を掛け合わせることでアンジェを蝕む異変は取り除くことができる。


 だから。

 だから。

 だから。



 だんっ!! と。

 瞬間、フィリをはじめとしたほとんどのエルフが王都全域に散らばっていった。



 一つは魔物によって王都の住人の負の感情が促進、アンジェに憑依している邪神の力が増すことを阻止するために。


 もう一つの理由は──


「おおァアアアッッッ!!!!」


「あは」


 アンジェ=トゥーリアだった何かとティナが真っ向からぶつかり合う。拳と拳。音速さえも超えた激突は周囲に余波という形で影響を及ぼしていた。


 衝撃波。

 それ自体が一種の魔法のように、炸裂した衝撃波は地面をめくり上げ、建物を砕き、僅かに残ったティナの味方さえも吹き飛ばしかねなかった。いいや、咄嗟にクリナが精霊魔法を発動、緑の風の障壁を展開しなければ僅かに残った味方さえも吹き飛ばしていたことだろう。


 これがもう一つの理由。

 そもそも生半可な力の持ち主では此度の戦闘にはついていけない。適材適所。個人個人の力を最大限に発揮するには『この場に留まらない』ことも重要なのだ。


 ぶっぢゅ、と嫌な音が響く。

 青い肌の女から、ではない。ティナの拳、正確には左の手首が激突の衝撃に耐えられず肉や筋が千切れ、血が噴き出した音である。


「あはははははは!! 上限突破魔法(ブレイクスルー)で身体強化魔法をレベル100まで増幅したから勝てるとでも思ったか? これは女神の寵愛受けし生命にして予が直々に利用せんと呪ってきた肉体だ。たかが精霊の力でもって『世界の深奥』を垣間見たからと太刀打ちできるような貧弱なつくりをしてはいない!!」


 漆黒の暴風の槍という『単体の』レベル99の魔法はその拳で破った。だというのに今回は押し負けたということは、


「魔法の重ね掛け、ですか……っ!!」


「ご名答だ。わざわざお前と同じ土俵で戦ってやる義理もなし、99にも及ぶレベル99の魔法を好きなだけ使い、不遜にも予に楯突いた報いを受けさせてやるよ!!」


 言下に複数の魔法陣が展開される。

 極大の炎の剣が振り回され、戦場を埋め尽くす勢いで水の矢が降り注ぎ、足場から天を穿つ勢いで土の槍が突き出され、全方位より圧殺せんと風の壁が押し寄せて、光が乱舞する勢いで雷が殺到する。


 その他にも、その他にも、その他にも。

 際限なく、多種多様な魔法が戦場を席巻する。


 そのどれもがレベル99。

 カンストに至った魔法である。


 ティナが扱っていた身体強化魔法や風属性魔法は単体ではカンストにすら至っていない。それでも最高峰ランクの冒険者として数々の偉業を乱立してきた。それこそ聖女のもとに駆けつける最中にいくつかの脅威をいとも簡単に退け、多くの命を救ってみせた暴力なのだ。


 それよりも上に位置する魔法がまるで投げ売りでもするように放たれる。全力全開の切り札なんかではない。様子見や牽制のごとく気軽さでこの世界の生命が到達できる限界ギリギリを連発してくるのだ。


 はっきり言おう。

 アンジェ=トゥーリアだった何かはこの世界における最強だ。それも二位に位置する者が足元にも及ばない絶対強者である。


「う、お……ァァああああああああ!!!!」


 できることなんて限られていた。

 そもそもティナは困難を閃きや知識で打破できるような柔軟な頭脳は持ち合わせていない。両の拳を握りしめて真っ向からぶつかる、それしかできないのだ。


 だから、今回もまた拳を握りしめて。


 だから、迫る脅威に二つの魔法を掛け合わせてレベル100に至った拳を叩きつけて。


 だから、がむしゃらに生き残るために足掻くしかなかった。



 ゴッッッドォン!!!! と。

 一つ一つが伝説に等しい暴虐が無数に合わさり、ティナに襲いかかったどうしようもない轟音が炸裂した。



「……ほう」


 小さく。

 嘲るように浮かべた笑みの先には赤黒い塊と化した少女が立っていた。そもそも人の形を保てたこと自体が奇跡であった。


 左の腕はかろうじて原型を留めているくらいで、右の腕は肩から先が消失していて、左の足は内側なら弾けるように抉れていて、右の足の肉は溶けて骨がむき出しになっていた。


 抉れて赤黒いぶよぶよとした肉が垣間見える脇腹を手で押さえることもなく、出血するに任せて、ティナは静かにかろうじて残っている左の拳を握りしめる。


「がっ、ばうは……ッ!! ごぶべぶっ。かひゅっ、ぐぶっ、がぶべぶっ!? はっ、ハァ、がっば!?」


「で、拳を握りしめて、どうするというのだ? レベル100の身体強化魔法一つでどうにかできるほどアンジェ=トゥーリアという金字塔は軟弱にあらず。たった一のレベル差など連射でもって覆すことができる程度のものでしかない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そうなのだ。模倣魔法(リプリケーション)によってアンジェの浄化魔法(レベル99)を模倣し、上限突破魔法(ブレイクスルー)(レベル6)によってレベル100の大台を突破、もってアンジェを蝕むレベル99の呪縛を祓うには超えなければならない関門が二つある。


 一つは模倣魔法(リプリケーション)上限突破魔法(ブレイクスルー)の同時使用は多大な魔力を消費すること。山脈地帯にて瘴気を浄化した際は長時間身体強化魔法を使っていたとはいえ模倣魔法(リプリケーション)『だけ』で魔力切れ寸前となった。それだけ魔力を消費する魔法に上限突破魔法(ブレイクスルー)も同時使用しないといけないことを考えると、一度の合わせ技で人間一人分の保有魔力のほとんどを消費すると考えていい。つまりすでに一度『模倣』した浄化魔法を放っている以上、短期間での二発目は魔力の観点から不可能なのだ。


 もう一つは模倣魔法(リプリケーション)上限突破魔法(ブレイクスルー)の合わせ技を行う際には他の魔法を併用する余裕はないこと。そもそも一年前までは身体強化魔法と風属性魔法しか覚えていなかったティナには三つ以上の魔法を同時に扱う経験が乏しい。ここ一年で模倣魔法(リプリケーション)上限突破魔法(ブレイクスルー)を覚えたとはいえ、その一年の間はレベル上げに専念しており、魔法の同時使用に関してはそこまで鍛えていなかった。だからこそ、最初の最初、アンジェを救わんと呪縛を祓おうとした際には身体強化魔法まで使う余裕がなく、ろくに抵抗できず胸に風穴をあけられたのだ。身体強化魔法を使っていない、素の身体能力でどうやってティナと同じく音速超過さえも可能なアンジェ=トゥーリアだった何かに浄化魔法を叩き込む?


 アンジェを救う手段『は』ある。

 だからといってそれが果たせるかどうかは別問題なのだ。


 だから。

 しかし。


 情報共有に作戦会議。

 双方ともにすでに言葉を交わすことなく終えたティナは今にも倒れそうな有様だというのに、血に塗れた口元に笑みを浮かべていた。


 全てを諦めた、ズタボロのそれではなく。

 希望に満ちた、真っ直ぐな笑みを。


「いまの、うちに……好き勝手言っていれば、いいですよ。単なる暴力しか振るえねー雑魚に『私たち』が負ける道理はねーんですから」


「気に食わないな。もう全部終わっているというのに、ここから先逆転できるようなチャンスはどこにも転がっていないというのに、なんでお前は絶望しない?」


「絶望する理由がねーですからね」


 直後、舌打ちをこぼしたアンジェ=トゥーリアだった何かは魔法陣を展開。


 放たれるは魔法の嵐。連射でもって一レベルの差を覆す物量の暴力。それは、ティナでも抗えない絶対的な壁であった。押し負けることはすでに示されている。


 だから。


 着弾。

 膨大な物量と威力を兼ね備えた連射はティナを呑み込み、轟音と衝撃波と粉塵を撒き散らした。


 アンジェ=トゥーリアだった何かが追撃を仕掛けようとしたところで粉塵に覆い隠されたティナを庇う形でギルドマスターが飛び出してくる。


 人間の中では間違いなく上位に位置する実力者ではあるだろうが、


「身の程知らずめ。レベル60だの70だのの魔法で太刀打ちできると思ったのか!?」


 一秒経過。

 腕の一振りで十分だった。土が唸り、巨大な鞭のように放たれた。レベル99、カンストに至った土属性魔法である。いかに武具や防具を強化しようとも、触れたものを粉砕できる魔法を纏ったとしても、流石に30も40も離れたレベル差は覆せない。


 そのはずだった。

 横に薙ぐ形で振るわれた巨大な土の鞭がギルドマスターに当たったかと思えばぐにゃりとその軌道を曲げ、あらぬ方向に逸れたのだ。


「ティナのような大抵のことはどうとでもできる天才じゃねえんだ。馬鹿正直に真っ向勝負なんてするわけねえだろ」


 大剣、その一撃。

 真っ向からぶつかることなく、側面へと適切な力を加えることで鞭の動きを歪め、受け流したのだ。


 とはいえ、いくら衝撃を受け流したとしても限度はあり、先の攻防で大剣はもちろんギルドマスターの両腕もへし折れていたが。


「まあ、瘴気蠢き、魔物が跋扈する戦場を生き抜き、相応の経験を積んでいる聖女相手じゃこう簡単にはいかなかっただろうがな」


「こ、の……人間風情が!!」


 二秒経過。

 怒りに任せて右手を向け、そこから新たな魔法を放とうとしたアンジェ=トゥーリアだった何かの周囲に四色の光が舞う。


 クリナの精霊魔法。

 炎、水、風、土の四つ、すなわち世界を構築する最も小さな属性を司る精霊の力を現世に出力する秘奥である。


 魔法が直撃すればどうしようもないかもしれない。カンストに至った魔法を受け流すなんてものは何十年も戦場を生きてきた生粋の戦士が培った技術がなければ不可能だし、そう何度もできるほど簡単でもない。


 ならばどうするか。

 魔法を発動させない、あるいは発動しても直撃しないよう整えればいい。


 赤の光が灼熱の猛火と共に、青の光が絶対零度の吹雪と共に、緑の光が荒々しい暴風と共に、黄の光が獰猛な土砂の勢いと共に、アンジェ=トゥーリアだった何かの集中を乱す。


 視界を潰す、足場を崩す、出力口を逸らす、他にも様々な要因を組み合わせて絶対的な暴力を不発に終わらせる。


 三秒経過。

 ザザッ、とギルドマスターとクリナが粉塵の中にいるティナを庇うように前に出る。


 その背に粉塵を携えて。

 挑むように、だ。


「魔法の威力に惑わされたが、てめえは大したことねえな。聖女の力に頼りきりのクソ野郎らしいっちゃらしいがな」


「あっはははあ! 昔から裏で全てを操る黒幕野郎ってのは自分が弱っちいからこそ裏に潜るしかないってのが相場で決まっているものだからねえ。こんなものじゃないかなあ?」


「……ッッッ!!!!」


 瞬間、アンジェ=トゥーリアだった何かは無理矢理に魔法を振り回す。いくら受け流されようが、発動を妨害されようが、圧倒的な物量と威力で押し流す。


 そこで、だ。

 粉塵の中から飛び出したティナが左の拳を握りしめてアンジェ=トゥーリアだった何かへと突っ込んでいく。


「この死に損ないが! そんな拳は通用しないと散々思い知らせたはずだぞ!!」


 ゴッッッ!!!! と、強引に押し通した魔法が放たれる。真っ直ぐに、真っ向から突っ込んでくるティナに直撃し、そして()()()()()


「ッ!? 幻覚かっ」


 四秒経過。

 クリナの隣にそれこそ虚空から浮かび上がるように姿を現したのはリーゼ。その姿を今まで幻覚でもって隠していたのだ。


 幻惑魔法(ファンタジーワールド)(レベル69)。対象の五感に干渉、術者が望む幻影や幻聴を埋め込む魔法である。それも幻惑だと理解していても脳が騙されては幻惑のダメージが肉体に刻まれることもあるほどの、だ。


 ……後、エルザ=グリードもこの場に残っていたようであり、リーゼと一緒に出現していたが、両足を失っている彼女は戦線に加わる余裕はなく、少し離れたところで戦況を見つめていた。


 術者の出現に合わせるように、幻覚だと誤魔化すことなき光景が広がる。無数の武器や怪物の群れ、極大の自然災害、現実には存在しない空想の脅威などが一斉にアンジェ=トゥーリアだった何かへと殺到する。幻覚を本物だと信じ込ませ、肉体にダメージを刻むために。


「それがどうしたあ!!」


 だが、それはあくまで魔法。30も40もレベル差があれば真っ向勝負しても敵わないことに変わりはない。


 魔法解放。

 幻惑魔法(ファンタジーワールド)のレベルを超える魔法の奔流が幻覚を強引に打ち破る。


 キラリ、と。

 幻惑魔法(ファンタジーワールド)が完全に破られたこのタイミングで足手まといだからと捨て置かれているのだろうエルザ=グリードの手元から赤い光が漏れていたが、そんな些事にアンジェ=トゥーリアだった何かは気づくことすらない。


 頭に血が上っているのもあるだろうが、何より敵を観察するとは警戒心の現れ。絶対強者たる存在にはそんなもの必要ないのだから。


「あは、あはははははは!! あははははははははははははははははははははは!!!! これが現実だ、当然の結末というものだ!! レベル99、カンストに至った暴力に敵う生命などこの世界には存在しない!! どれだけ努力しようとも、どれだけ命を賭けようとも、最強という金字塔を越えることはできないんだよお!!」


 だから。

 だから。

 だから。



 五秒経過。

 その直後、ゼロ距離より純白の拳がアンジェ=トゥーリアだった何かを打ち抜いた。



「……は……?」


『模倣』、そして『レベルアップ』した浄化魔法。


 すなわち模倣魔法(リプリケーション)上限突破魔法(ブレイクスルー)の合わせ技である。


「聖女様」


 ティナ。

 そう、ティナなのだ。『模倣』や『レベルアップ』はこの場ではティナしか扱えないのだから。


 だから現象そのものに不思議はない。

 問題はこのタイミングで、一切の隙もなく、どうやって浄化魔法を発動、直撃させたか──


「遅くなって申し訳ねーですよ」


 疑問は尽きず。

 しかし、そもそも赤い糸のような光が左の腕に絡みついているティナは邪神など気にしてすらいなかった。


 呪縛が祓われ、憑依が引き千切られる中、ティナはアンジェしか見ていなかったのだから。



 ーーー☆ーーー



【名前】

 アンジェ=トゥーリア


【性別】

 女


【種族】

 人間


【年齢】

 十五歳


【称号】

 女神より祝福されし聖女


【所有魔法】

 浄化魔法(レベル99)

 炎属性魔法(レベル99)

 水属性魔法(レベル99)

 土属性魔法(レベル99)

 風属性魔法(レベル99)

 雷属性魔法(レベル99)

 身体強化魔法(レベル99)

 転移魔法(レベル99)

 収納魔法(レベル99)

 重力魔法(レベル99)

 ・

 ・

 ・

 ※全所有魔法を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル11)以上を使用してください。

 ※詳細を表示するには能力知覚魔法(ステータスオープン)(レベル20)以上を使用してください。

 ※レベルは99が上限です。


【状態】

 未取得

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「不遜にも予に楯突いた報いを受けさせてやるよ!!」 「あは」「あはははは!」 「……へえ」 邪神のセリフは荘厳さがあるので、こちらのセリフは少し変えた方がいいかもです。 「~やるよ!…
[一言] 力を合わせてやっと届いた一撃.... なんか泣きそう. やっとティナの思いが届いたんですね. 身体はボロボロだけど.......
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