表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?  作者: 木山楽斗
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第29話 彼と隣で

「さて、僕達もそろそろ戻るとしましょうか」

「ええ、そうですね」


 マグナード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。

 ベルダー様の試練は終わった訳だし、そろそろ落ち着いていいだろう。

 今日はこのまま、ビルドリム公爵家に泊まらせてもらえることになっている。婚約者の相手の家ではあるが、一番の憂いはなくなったし、なんだかゆっくりと休めそうだ。


「……うん?」

「マグナード様、どうかされましたか? ……え?」


 そこで私とマグナード様は、動きを止めることになった。

 私達の目の前に、二人の男女が現れたからだ。


 その片方は、私もよく知っている。ブライト殿下だ。

 そしてもう一人の女性も、知らない訳ではない。その人は、この国の第一王女であるハルーナ様だ。


 どうしてその二人が、こんな所にいるのだろうか。

 そう思って、私とマグナード様は顔を見合わせる。


「よう、マグナード。どうやら色々と終わったようだな」

「え、ええ、終わりましたが……どうしてブライト殿下がこちらに?」

「うん? ああ、姉上がな」


 近寄ってきたブライト殿下は、自分の後方にいるハルーナ様の方を見た。

 私達よりも年上の綺麗な女性は、優雅に私の方に近づいている。


 会話からして、ブライト殿下は付き添いなのだろう。主体はハルーナ様と考えるべきだ。

 その彼女が、私の前に立っている。それに対して、私は少し面食らってしまう。私と彼女は、面識がないはずなのだが。


「イルリア嬢、ですよね? 初めまして、私はハルーナと申します。一応、この国の第一王女です」

「あ、えっと、イルリア・ルヴィードと申します……」

「お話はかねがね聞いています。お会いできて嬉しいですよ。王城に泊まっている時に会いたかったのですけれど、気付いたらいなくなっていて……」

「そ、そうだったのですか……」


 ハルーナ様は、私に手を差し出してきた。

 私は、それをゆっくりと取る。すると、ハルーナ様は力強く握りしめてきた。

 どうやら彼女は、友好的ではあるようだ。それに私は、少し安心する。


「イルリア嬢、姉上がすまないな」

「い、いえ……」

「ブライト、あなただってマグナードのことを心配していたでしょう? 様子が気になるって言っていたじゃない」

「まあ、それはそうなんだが……」


 ハルーナ様の言葉に、ブライト殿下は目をそらしていた。

 なんだかんだ言って、彼はいとこの危機にかけつけてきたということらしい。

 それを理解した私やマグナード様が笑っていたからか、ブライト殿下は少し不服そうにしていた。


「ブライト殿下は、なんだかんだ心配性ですよね……」

「……まあ、身内の一大事だからな」

「ありがとうございます。その気持ちを嬉しく思います」


 ブライト殿下に対して、マグナード様はお礼を述べた。

 それにブライト殿下は、少し照れている。なんというか、彼はここに来てからずっとそんな感じだ。


「実の所、マグナードのことは私も心配していたの」

「……そうなんですか?」

「あの人が色々と言ったのでしょう? 大丈夫だったの?」

「ええ、それに関しては兄上の狂言みたいな所がありましたから」

「……何? そうだったのか」


 マグナード様の説明に対して、ブライト殿下は少し驚いたような顔をしていた。

 彼の方は、ベルダー様の意図などはまったく気付いていなかったのだろう。

 一方で、ハルーナ様は特に驚いていない。ということは、彼女はベルダー様の意図に、ある程度気付いていたということだろうか。


「昔から、ベルダー様のそういう所は変わらないわね」

「まあ、それが兄上ですからね」

「難儀な人と思う所もあるけれど……」


 ハルーナ様は、非常に微妙な表情でベルダー様のことを語っていた。

 二人は、いとこ同士である。そして、婚約者同士でもある。

 いとこという身内と婚約しているということは、その関係性に色々な影響を与えているのだろう。それが、ハルーナ様の表情から読み取れた。


「イルリア嬢、マグナードのことをよろしくお願いしますね。彼も私にとっては、弟のようなものですから」

「あ、はい。それはもちろんです」

「まあ、実の所そこまで心配はしていないのです。あなた達二人は、愛し合って結ばれている訳ですから……これはいささかロマンチスト過ぎますかね?」

「いいえ、そんなことは……」


 ハルーナ様は、苦笑いを浮かべていた。

 それはきっと、自身の婚約が望んでいるものという訳ではないからだろう。

 貴族や王族の婚約というものは、どちらかというとその方が一般的だ。そういう意味でも、私とマグナード様は特殊であるといえる。


「ブライト、せっかく来たのだし、ベルダー様にも挨拶しに行きましょうか。あなたも付いて来て」

「姉上だけでいけばいい……訳ではないか」

「ふふ、流石にあなたもそこまで鈍感という訳ではなかったみたいね」

「それじゃあ二人とも、また後でな」


 それだけ言って、ブライト殿下とハルーナ様は家の方に向かって行った。

 その背中を見届けた後、私はマグナード様の顔を見る。そして私は、彼と結ばれるということの意味を、改めて考えるのだった。




◇◇◇




 私とマグナード様は、ビルドリム公爵家の客室で二人きりになっていた。

 色々とあった訳ではあるが、やっとこうして二人で落ち着けている。そのことが何ともいえないくらいに、幸福であった。


「……不思議な縁だったと思うんです」

「不思議な縁、ですか?」

「ええ、私とマグナード様は、少し前までは単なるクラスメイトで、話したこともありませんでしたよね。そんな私達が、こういう関係になるなんて思ってもいませんでした」

「……それは、そうかもしれませんね」


 私は、マグナード様と結ばれることになった経緯を改めて思い出していた。

 クラスメイトで、決して手が届かないような地位にいる人、私にとってマグナード様はそのような人だったのだ。

 そんな彼に助けてもらって、最終的には愛してもらえている。少し前までの私は、まったく想像していなかったことだ。


「ですが、僕はイルリア嬢に会えたことを幸福に思っています。婚約というものに対して、それ程考えたことはありませんでしたが、あなたとこうして婚約者になれてよかったと、あなた以外はあり得ないと、そう思っているのです」

「ええ、愛している人と結ばれるということは、本当に幸福です。この愛をこれからも育んでいきましょう。時間はたっぷりとありますから」


 貴族の中には、望まぬ結婚をする人達もいる。私達のように思い合っていても、私達のように結ばれることができない人もいるのだ。

 だからこそ、この幸福を大切にしていきたいと思っている。これから続く一日一日を、しっかりと噛みしめていきたい。


「まず、その手始めとして、一つお願いしてもいいですか?」

「手始め、ですか? なるほど、そういうことなら、皆まで言う必要はありません」

「そうですか。それなら、よろしくお願いします」


 私がゆっくりと目を瞑ると、マグナード様がそっと口づけをしてきた。

 一瞬の触れ合いであったが、それだけで火が出そうな程に体は熱くなっていた。これでも色々な危機を乗り越えてきたつもりなのだが、かなり動揺してしまう。増してや、自分から提案したことであるというのに。


「……ふう」


 動揺しているのは、私だけではなかったらしい。目を開けてマグナード様の顔を見て、私はそのように思った。

 そこで私達は、ほとんど同時に噴き出した。恥ずかしさと幸福と、愛おしさが溢れ出してきて、もう笑うしかなかったのだ。

 それから私達は、二人で穏やかな時間を過ごした。きっとこれからも、私はマグナード様とそういう時間を過ごしていくだろう。




◇◇◇




「おはようございます、イルリア嬢」

「おはようございます、マグナード様」


 私とマグナード様は、朝の挨拶を交わした。

 隣の席で、彼は背筋を伸ばして座っている。そういった仕草は、一学期の時と何ら変わらない。


「今日から二学期ですか。なんというか、少しやる気が出ませんね」

「マグナード様がそのように言うなんて、驚きです。まあ、その意見には同意しかないのですが」

「イルリア嬢と過ごす時間が、とても楽しかったですからね。魔法学園では、こうして教室で顔を合わせることしかできません。それが今から、少し億劫です」


 私とマグナード様は、夏休みをそれなりに長い時間一緒に過ごした。

 しかし、魔法学園ではそういう訳にはいかない。寮暮らしであり、異性の寮に入ることができない以上、会えるのは学び舎の中だけになる。


「放課後もぎりぎりまで一緒に過ごしましょう。もっとも、それでも一目はありますから、大胆なことはできませんが……」

「いいえ、それでもイルリア嬢と一緒に過ごせる時間が今は欲しいですね。まだ夏休みの気分が抜けていませんから、少なくともこちらの生活に慣れるまでは、そういった時間を増やしていくとしましょう」


 私達の気持ちは、概ね同じだといえるだろう。

 夏休みという時間を一緒に過ごせたことは、幸せなことだったといえる。

 だが、その時間は幸せ過ぎたのかもしれない。このままでは、学園生活に支障が出てしまいそうだ。


 ただ、それではいけないことは、私もマグナード様もわかっている。

 私達はルヴィード子爵家を背負うためにも、この学園でしっかりと学ばなければならない。決して、恋愛にうつつを抜かしてばかりではならないのだ。


「……まあ後は、今学期を平和に過ごせることを願うべきでしょうね。ただでさえ、私とマグナード様の関係が公表されたことによって、鋭い視線を感じますし」

「イルリア嬢……あなたのことは、僕が守ります」

「ええ、特に心配はしていません。マグナード様のことは、信頼していますから。でも、何もないにこしたことはないですからね」

「それはまあ、そうだとしか言いようがありませんね」


 一学期の時から考えて、今後私の身に何かしらの火の粉がかかってくる可能性はあるだろう。

 そうならないことを祈っているのだが、それは中々に難しいことなのかもしれない。恋愛的な事柄から貴族としての事柄まで、敵を作る理由がいくらでもあってしまうからだ。


 しかしそれでも、きっと大丈夫だろう。

 隣にいる彼は、私のことを必ず守ってくれる。これからも、ずっと。



END

最後までお読みいただきありがとうございます。


よろしかったら、下にある☆☆☆☆☆から応援をお願い致します。


ブックマークもしていただけるととても嬉しいです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ