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不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?  作者: 木山楽斗
本編

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第23話 元婚約者との対峙

 私とマグナード様は、ミレリア嬢の元を訪ねていた。

 アークウィル伯爵家は、私達のことをそれ程歓迎はしていないような気がする。

 しかし、それは仕方ないことなのかもしれない。私はムドラス伯爵との間に色々とあったし、今回の事件の原因の一端は、私にもある訳だし。


「事情はわかりましが、それはイルリア嬢に原因があるという訳ではないと思います。例えば仮に、ストーカーがストーキングしている人のために何かしたからといって、ストーキングされた人が悪くなるなんてことはないでしょうし……」

「でも、一応元婚約者である訳だし……」

「今婚約していないというなら、それこそ関係がないことです」


 ミレリア嬢は、私に責任がないと何度も言ってくれた。

 それはとても、ありがたいことである。ただ、私はどちらかというと責任を感じている。

 ロダルト様とのことは、もう終わったことだと思っていた。もう少し彼に気を払っていれば、これは防げたことである。


「まあ、そういうことなら僕にも責任の一端があります。ロダルト子爵令息を追い詰めたのは、他ならぬ僕ですからね」

「マグナード様……」

「とはいえ、彼に関して僕は対応を間違ったとは思っていません。彼の狂気を見抜けなかったことは、もちろん未熟だったとは思いますが……」


 私の側に立ちロダルト様と敵対したマグナード様も、気持ちは同じだったようだ。

 予想できるようなことだったかは微妙な所ではあるが、気にしないなんてことはできない。それが私やマグナード様の結論ということになるだろう。


「お二人は責任感が強いですからね。仕方ないことなのかもしれませんが……あまり気にしてはいけませんよ。大体、ムドラスやヴォルダン様なんて、こんな目に遭って当然の人達ですからね」

「ミレリア嬢……」


 ミレリア嬢は、嫌らしい笑みを浮かべていた。

 あの二人に散々煮え湯を飲まされた彼女からしてみれば、今回の件もすっきりしたくらいにしか思っていないのかもしれない。

 もちろん、あの二人には私も思う所はある。しかし、それとこれとは話が別だと考えている。


「ああ、それで、そのムドラス伯爵令息はどうなんですか?」

「まあ、意識は取り戻しました。ずっと文句を言っているみたいです。お世話してくれている使用人の人達が可哀想で仕方ありません」

「元気そうで何よりです……」


 ムドラス伯爵令息のことを聞くと、ミレリア嬢は不快そうな顔をした。

 なんというか、私も彼に対する同情する気持ちが薄れてくる。やはりムドラス伯爵令息は、どうしようもない人かもしれない。


「一応、ムドラスから話は聞いています。といっても、私が聞いた訳ではなく、使用人さん達を通じて聞かせてもらったということですが……」


 ミレリア嬢は、忌々しそうにしていた。

 長年苦しめられてきた弟に対して、やはりまだまだ嫌悪感があるのだろう。それがその表情からよく伝わってきた。

 しかしそれでも、彼女は使用人達から話を聞いてくれていた。それは恐らく、私達のためだろう。彼女はこちらの状況はわからなかっただろうし、少しでも情報を集めようとしてくれていたのかもしれない。


「ロダルト子爵令息は、突然ムドラスの前に現れたそうです。彼は、ムドラスのことを罵倒しながら痛めつけました。油断していたこともあって、ムドラスは成す術もなかったようです。不意打ちに対応できる程に、ムドラスは格闘技に精通している訳ではないですからね」

「それでも、ムドラス伯爵令息は喧嘩慣れしているはずですから、驚きですね。ロダルト様に武術の心得があるなんて、聞いたことはないのですが……」

「まあ、躊躇いがなかったということですかね? 彼はもう後先を考えていなかったとか……」

「それはあり得そうですね……」


 ミレリア嬢の説明に、私はゆっくりと頷いた。

 ロダルト様は、恐らく私を刺した後のことなど考えていなかっただろう。考えていたら、あのようなことはできない。衆人環視で、私を刺すことになる訳だし。


「まあ、ムドラスはそもそもそんなに強いという訳でも、ないと思うんですよね。あれも躊躇いがないのが恐ろしいだけで……ほら、ブライト殿下に簡単に取り押さえられたとも言いますし」

「そういえば……」


 私は、学校の裏庭での出来事を思い出していた。

 あの時のムドラス伯爵令息は、いとも容易くブライト殿下に取り押さえられた。今思い出しても、みっともないくらいに弱かったのである。


「ムドラスからしてみれば、ロダルト子爵令息が誰かわからず、混乱していたということもあるでしょう。まあ、何にしても情けない弟です。普段はあれだけ息巻いているのに、いざとなったらこうなのですから」

「ミレリア嬢……」

「すみません。日頃からあれには色々と迷惑をかけられているので、つい……」

「いえ、構いませんよ。それに関しては、仕方ないことですから」


 ミレリア嬢は、とても饒舌になっていた。

 鬱憤が溜まっていた彼女にとって、ムドラス伯爵令息が襲われたということは、むしろ嬉しいことであるのだろう。

 その笑顔を見ながら、私は苦笑いを浮かべるしかないのだった。




◇◇◇




 王国の犯罪などは、騎士団が取り締まっている。

 その騎士団も、流石に第二王子や公爵令息の要請は断れないようだ。少なくとも、人を刺した男とそのターゲットが対面できているのは、二人の影響があるからだろう。

 何はともあれ、私はロダルト様を訪ねていた。彼から、色々と聞いておきたいことがあったからだ。


「……」


 牢屋の中で拘束されているロダルト様は、そのままの状態でこちらに視線を向けてきた。

 その目には驚きがある。それは当然だ。彼の方も、私に会えるとは思っていなかっただろう。

 それからすぐに、ロダルト様は笑顔を浮かべた。私と会えたことを、喜んでくれているということだろうか。


「イルリア、来てくれたのか?」

「ええ、来ましたよ。それで喜ばれても、困りますが……」

「やはり君は、僕のことを見捨ててはいかなかった、ということか。ははっ、はははっ……」


 ロダルト様は、虚ろな目でそんなことを言ってきた。

 その様に、私は少し引いてしまう。なんというか、とても怖い笑みだったのだ。

 そんな私を見かねてか、マグナード様がこちらにやって来てくれた。彼は、私の顔を心配そうに見つめている。


「イルリア嬢、大丈夫――」

「お前はっ!」


 マグナード様の言葉は、ロダルト様の言葉によって遮られた。

 彼のその怒気を孕んだ大声に、周囲から騎士達が集まって来る。彼らは、ロダルト様のことをかなり警戒しているようだ。


「イルリアに近づくなあっ!」


 するとロダルト様が、また大きな声を上げ始めた。

 どうやら彼は、私に男性が近づくことが気に入らないようだ。それはつまり、独占欲ということなのだろうか。


「……落ち着いてください」

「イルリア……」

「私はあなたから色々と聞きたいと思っています。周囲のことは気にする必要はありません。二人で話しましょう」

「そうか……」


 私が声をかけると、ロダルト様は一気に落ち着いてくれた。

 正直な所、彼から好意を向けられているという事実は気分が悪い。このような人に好かれても、まったく嬉しくはない。ただ、今はその好意を利用できそうだ。


 私は、彼から話を聞きたいと思っていた。

 それは、真実を知りたいという個人的な想いがあるからだ。ただ、実の所それだけだはない。


 ロダルト様は、これまでずっと黙秘しているらしい。

 様々な証言から、彼が犯人であることは間違いないのだが、それでも証言が取れないというのはまずいそうだ。


 故に私は、騎士団からも話を聞くように頼まれている。

 王子や公爵令息の力もあっただろうが、騎士団が私をこの場に立たせているのは、それも理由の一端であるだろう。

 だから私は、その役目をきちんと果たすつもりだ。私は今回の事件の全てを、ロダルト様から聞き出すのである。


「さて、どこから聞こうかしら? そうね……あなたが学園から去った時から、話してもらってもいいかしら?」


 私は、ロダルト様にそのように問いかけた。

 その辺りは、正直聞く必要があること、という訳ではない。ただ話のとっかかりとししては、そこが一番いいと思ったのだ。


「学園を退学してから、僕はひどい目にあったさ。そこにいるマグナードとかいう奴のせいでね」

「マグナード様のせい……ね」

「ビルドリム公爵家を敵に回した。その事実には父上もご立腹だった。家も追い詰められたし、その追い詰められた家に、僕の居場所はなかった」


 ブライト殿下から、マグナード様が容赦ない人であるとは聞いていた。

 その言葉に、嘘偽りはなかったようだ。きっとマグナード様は、公爵家の権力の諸々を使って、ラプトルト子爵家及びロダルト様を追い詰めたのだろう。


「しかし、そんな中でも君のことを忘れたことはなかった。あの頃は、君のことを恨んだりもしたよ。だが、これは惚れた弱みなのかもしれないが、君への想いがどんどんと高まっていった」

「そう……」

「そんな時に聞いたのは、学園で起こった新たな事件だ。ヴォルダン伯爵令息とムドラス伯爵令息、あの二人は君にひどいことをしたみたいじゃないか」


 例の二人が起こした事件は、結構な話題になった。

 その結果、ロダルト様の標的が決まったのだろう。学園の外まで話題になることがなかった、そもそもの発端であるナルネア嬢の事件などは伝わっていないのかもしれない。


「僕は、あの二人のことを調べて襲撃した。幸いにも、二人とも簡単に襲うことができた。軟禁されていたみたいだったが、二人が懇意にしているというナルネア嬢の名前を使ったら飛んできた。後は簡単だ。後ろから襲ってしまえばいい」


 ロダルト様は、得意気に自分の犯行を語っていた。それを騎士達は、必死に書き留めている。

 私はそれを見ながら、ため息をついていた。ロダルト様が、私に褒めてもらいたそうにしているからだ。


「……それで、どうして私のことを襲ったの?」

「こちらの世界は、僕にとって暮らしやすい世界ではないからね。君と一緒に、新しい世界に行こうと思ったんだ」

「無理心中、ということね……」


 ロダルト様が私を襲った理由は、至極わかりやすいものだった。

 どうやら、彼は本当にどうしようもない人である。私はそれを改めて認識していた。


「ロダルト様、あなたに一つ言っておきたいことがあります」

「ほう?」

「私は、あなたのことが嫌いです。大嫌いです。まあ、もう二度と会うことはないでしょうが……」

「なっ……!」


 私は、ロダルト様にゆっくりと背を向けた。

 これから彼は、犯した罪に対する罰を受けることになる。その過程において、彼が自分を省みてくれるといいのだが。

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