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不憫な妹が可哀想だからと婚約破棄されましたが、私のことは可哀想だと思われなかったのですか?  作者: 木山楽斗
本編

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第12話 警戒しながら

「安請け合いしたものだな」

「……そうでしょうか?」


 ミレリア嬢から話を聞いたマグナード様は、ブライト殿下の元にやって来ていた。

 大まかに話を聞いたブライト殿下は、呆れたような笑みを浮かべている。彼はマグナード様の判断をそこまで指示しているという訳ではなさそうだ。


「僕やイルリア嬢に危害が及ぶ可能性がある以上、その二人に対する対処は必要だと思うのですが……」

「それはそうかもしれないが、だからといってそのミレリア嬢を助ける意味があるのか」

「ブライト殿下、それは紳士的な言動ではありませんね」

「いいように利用されているというだけじゃないのか? まあ、お前がそう判断したなら、止めようとも思わないが」


 ブライト殿下は、ミレリア嬢に対していい印象を持っていないのだろう。

 それは仕方ないことかもしれない。彼女は、偽装してマグナード様に自分の敵対者を排除して欲しいと頼んでいる。それだけ聞けば、あくどいといえるかもしれない。


 ただ、実際に彼女と接したマグナード様の判断の方が、この場では正しいと、ブライト殿下も思っているのだろう。

 彼はそこでため息をついて、少し表情を変えた。


「実際の所、その二人を排除することはそこまで難しいことではないだろうな。俺とお前の権力があれば、そんなことは容易い。ただ問題は、当事者の一人の身内を助けようとしていることだ」

「ええ、その点について相談したくて、訪ねさせてもらったのです」


 ブライト殿下が挙げた問題点は、私も思っていたことだった。

 ミレリア嬢の弟であるムドラス、その人物の存在はやはり気になる所だ。


「アークウィル伯爵家の側で、ムドラスを追い出すという措置はできないのだろうな。ああいや、それができるなら、婚約者であるヴォルダンも含めて、ミレリア嬢が対処しているか」

「はい。ムドラスは、アークウィル伯爵家の男子ですし、婚約の話も苦労してまとまったものです。よって彼女の両親は、その二人を排斥するなんて考えないでしょうね」

「娘の事情よりも、家のことを気にしている訳か。まあ、他家のことに口出しなんてあまりしたくはないが、気に入らないな」


 ブライト殿下は、その表情を歪めていた。

 彼も心の中には優しさと正義感を持っている。故にこの件に関して、憤りを覚えているのだろう。


「仕方ないな。俺もできる限りのことをするしかないか」

「ありがとうございます。ブライト殿下の助力は、非常に助かります」


 ブライト殿下の言葉に、マグナード様は笑顔を浮かべていた。

 結局、ブライト殿下も手を貸してくれそうだ。その表情を見て、私はそんなことを思うのだった。




◇◇◇




「なるほど、イルリア嬢も色々と大変だったのですね。まあ、噂くらいは私も耳にしていましたけれど……」

「ええ、そうなんです」


 夕方、私はミレリア嬢とそんな会話を交わしていた。

 私達の後ろには、マグナード様とブライト殿下もいる。


「でも、私には助けてくれる友人がいましたからね。それもとても心強い人が……」

「公爵令息や王子が味方なんて、頼もしい限りでしょうね。私も協力が得られて安心しています」

「ええ。でも、流石に今は気が引けますけど……」

「……まあ、そうかもしれませんね」


 私の言葉に、ミレリア嬢は苦笑いを浮かべていた。

 後ろにいる二人は、私のことを守るために同行してくれている。一人で寮に向かうと、ヴォルダン伯爵令息やムドラス伯爵令息に襲われるかもしれないからだ。


 もちろん、その可能性はあると私も思っている。ミレリア嬢から聞かせた二人の狂暴性に誤りがないなら、あり得そうだ。

 ただ、そのために公爵令息や王子が下校について来てくれているという事実には、流石にやり過ぎるような気もしてくる。


「別に僕は、そんなに大そうなものではありませんよ。まあ、ブライト殿下はそうかもしれませんが……」

「いや、俺とお前の価値は同等くらいだろう。王子と公爵令息に、そんなに差がある訳ではないさ。俺は、王位継承の筆頭者という訳でもないしな」

「でも、いざという時は王位を継ぐでしょう?」

「それを言うなら、お前だっていざという時はその可能性がある」

「でも、それはブライト殿下よりも後でしょう」


 私達の会話を受けて、マグナード様とブライト殿下はなんだか不毛なことを話し始めた。

 改めて考えてみると、この二人と知り合いになっているという現状は、すごいことだ。子爵令嬢である私が、この二人と仲良くしているなんて、本来ならあり得ないことである。


「さてと、流石にここまで来れば大丈夫だと思います。というか、これより先は男子禁制ですからね」

「そうですね。まあ、寮の管理は厳重ですから、流石に件の二人もここまでは入って来られないでしょう」

「まあ、私もいるからご安心ください。イルリア嬢のことは、責任を持って部屋まで送り届けますから」


 学園の寮は当然男女で別れており、そこに異性が入ることは禁じられている。

 その辺りは学園も徹底しているので、例の二人が寮まで来ることはあり得ない。つまり、ここまで来られれば一安心なのである。

 とりあえず、今日はこれで安心していいだろう。そう思いながら、私はマグナード様とブライト殿下と別れるのだった。




◇◇◇




「不謹慎ではありますが、この状況はなんというか楽しいものでもあります」

「楽しいもの?」


 朝、私はミレリア嬢とともに歩いていた。

 向かっている先は、私の教室だ。ミレリア嬢は、朝丁寧にも私の部屋を訪ねて来て、一緒に登校しようと誘ってくれたのである。


「お友達と一緒に登校するなんて、随分と久し振りのことなんです。以前も話した通り、妹が流した噂のせいで、孤立していましたから。唯一の友人といえるマグナード様は、男性でしたし」

「お友達、ですか?」


 ミレリア嬢は、私の言葉に驚いたような顔をしていた。

 そこで私は、彼女に対して失礼なことを言ってしまったと気付いた。よく考えてみれば、伯爵令嬢である彼女に友人なんて言っていいはずがない。

 マグナード様と友人関係になったことによって、私は少し無神経になっているようだ。それについては、気をつけなければならない。はっきりと差というものがあるのだから。


「申し訳ありません。失礼でしたね」

「いいえ、失礼だなんてとんでもありません。ただ、少し驚いていただけです」

「ですが、私の方が地位が下な訳ですし……」

「そんなことはお気になさらないでください。この学園では、皆平等なのですから」


 私の言葉に、ミレリア嬢はゆっくりと首を振った。

 なんというか、少し嬉しそうに見える。もしかして彼女も、友達が少なかったりするのだろうか。


「とにかくそういうことなら、今日から私達はお友達であるとしましょう」

「いいんですか?」

「ええ、もちろんです」


 ミレリア嬢は、笑顔で私の言葉に頷いてくれた。

 本当に友人になれたという事実には、私も笑みを浮かべてしまう。


「さて、ここまでですね?」

「あ、はい。ミレリア嬢、ありがとうございます。とても心強かったです」

「いえ、それについてもお気になさらないでください。私の身内から出た種ですからね」

「それこそ、お気になさらないでください。ミレリア嬢には、何の責任もないのですから」

「ありがとうございます。それでは」


 ミレリア嬢は私に一礼した後、自分の教室の方に向かって行った。

 その背中を見届けた後、私は教室の方を見る。既に、マグナード様は登校してきている。彼の方も無事に登校できたらしい。


「おはようございます、マグナード様」

「ええ、おはようございます、イルリア嬢。無事で何よりです」

「マグナード様も、ご無事で何よりです」


 私はマグナード様と、朝の挨拶を交わした。

 最も危険なのは、恐らく登下校だ。それを乗り越えたため、とりあえず安心できる。

 これからは一度意識を切り替えて、学業に専念するとしよう。そちらも当然、大切なことではある訳だし。




◇◇◇




 放課後、私は寮に帰る支度をしていた。

 結局、今日一日も特に何もなかった。なんというか、少し拍子抜けである。


「……下の学年の知人から連絡がありましたが、どうやら二人とも特に今日は何もしていなかったようですね」

「そうなのですか?」

「ええ、いつも通りだったようですね」


 マグナード様の言葉に、私は少し考えることになった。

 ヴォルダン伯爵令息とムドラス伯爵令息、その二人は本当にナルネア嬢の仇討ちなどを考えているのだろうか。

 もしかしたらそれは、ミレリア嬢の勘違いなのかもしれない。ここまで何もないと、流石にそう思えてくる。


「案外、私達のことを気にしてはいないのかもしれませんね?」

「そうですね……いや、どうなのでしょうか?」


 私の言葉に、マグナード様は少し困惑していた。

 それはなんというか、珍しい反応だ。彼はいつも、冷静で飄々としているというのに。


「まあ、ミレリア嬢の見込み違いであるというなら、それはそれで構いません。どちらにしても、二人のことはなんとかします。ナルネア嬢の取り巻きに紛れ込ませた部下から聞きましたが、件の二人は危険なようですからね」

「そうなのですか?」

「ええ、といっても、言われてみれば、というような反応でしたね。どうやらその二人に関しては、ナルネア嬢の方が抑止力になっていたようですね。彼女は、相手を肉体的に痛めつけるというようなことはしない人だったので」


 ナルネア嬢の信奉者であるということは、彼女の意向に従うということになる。

 彼女は私のことも、精神的に追い詰めることしかしてこなかった。だからこそ、二人の令息は手を出したりはしてこなかったということだろう。


「ナルネア嬢の影響で、丸くなったとか?」

「その可能性もあるのかもしれませんね。それでもあくどいことには変わりありませんが」

「まあ、暴力に頼らないだけましとしておきましょう」

「うん?」


 そこでマグナード様は、教室の入り口の方を見ていた。

 そこには、見たことがない男性がいる。もしかして、あれが件の二人のどちらかだろうか。よく考えてみれば、私はまだ二人の顔を知らない。


「マグナード様、申し訳ありません」

「……どうかしましたか?」


 しかし私は、すぐにその人物が誰であるかを理解した。

 彼は恐らく、マグナード様の知人だ。その知人は、明らかに何かあったという顔をしている。

 私とマグナード様は、顔を見合わせた。なんだか、嫌な予感がする。一体どのような問題が、起こったというのだろうか。

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