第三話 変身シーンは短いほうが有利だよね
「お兄ちゃんそれって……」
「隼人、お前のその鎧騎士姿は……」
「隼人兄、おめでとう! 密かに憧れて変身ポーズまで練習してた変身ヒーローになったんだね!」
「おいこら、他はともかく駿介はふざけるな」
鎧姿となった隼人に対して驚きの色を隠せない女性陣をよそに、こんな場面でもボケることを忘れない駿介の頭に軽くげんこつを落とす。
まあもちろん本気ではなく冗談半分の軽い突っ込みだから、隼人にしてみればかなり手加減したこつんという感覚で荒っぽく頭を撫でるのとほとんど変わらない。
だが拳からは彼の想像よりずっと大きく鈍い音がした。
その音の発生源である駿介の頭は落とされたげんこつとほぼ同じスピードで沈んでいく。
元々が隼人に比べると低い位置にあった彼の頭はかなりの速度で地面に向かって一直線だ。
――この音はマズイい! 力加減を間違えてしまった。
カーペットもない固い床へ倒れたら怪我をしてしまうと隼人は冷や汗を流すが、ダウンを拒否するボクサーのように駿介は膝をつきかけながらぎりぎりで踏ん張った。
「さ、さすが隼人兄。世界を狙えるいいパンチじゃないか」
「す、すまん」
だがまだダメージが残っているのか不敵な笑みで立ち上がった彼の膝はがくがくと笑いっぱなしで、その場に仁王立ちしているつもりなのだろうが微妙にふらついている。
「だ、だがこの程度の攻撃では僕を倒せないぞ!」
「いや不敵な笑みを浮かべて熱血しているところ悪いが、倒すつもりなんて毛頭なかったんだ、本当にすまん。自分の拳までが鎧――ガントレッドって言うんだっけ、これ? に覆われているのを忘れてた。金属で殴られたんだからかなり痛かっただろう?」
「あ、本当だ。駿の頭に大きなこぶが出来ちゃってるよ! 痛いの飛んでけ、早く良くなーれ、治癒」
よしよしと駿介の頭を撫でていた千鶴がその手に感じるふくらみがみるみるふくらんでいく。
予想より大きく成長しそうなたんこぶに驚き、彼女の手がまたも輝く。
柔らかな光はそのまま駿介の頭へと吸収されていった。髪に隠れてたんこぶの有無は判然とはしないがげんこつで受けたダメージが抜けていってるようだ。
ただ癒されているはずの駿介は「ああ、たんこぶ分だけ伸びた身長が戻っていく」とかえって悲しそうだった。
いくら身長にコンプレックスがあるとはいえ、ダウンしかけたほどのダメージを受けてすぐ軽口が叩けるとは結構タフな少年である。
いや、おそらく回復が早い理由はそれだけではない。駿介の耐久力も本人が気付かない内に上がっているのだ。
しかし千鶴の回復魔法があって助かったなと隼人は胸をなで下ろす。
彼の装備しているガントレッドはあまりに軽く動きやすくて、薄い手袋をはめた程度にも違和感がなかったのだ。
だからついこつんといつもの感覚でツッコミを入れたのだが、予想以上に与えたダメージが大きかった。ダウン寸前にまで追い込んでしまってはやりすぎだと冷や汗が出てしまう。
だがよく考えてみればこんなのは予想してしかるべき危険である。
今隼人が身にまとっている最高級の鎧には、力を増加させたり速度を上昇させる加護がてんこ盛りしてあるからだ。
これは戦闘状態でもない日常生活の時には、身につけているのは危険だと慌てて装備を解除する。
「あら隼人、もう鎧騎士姿は終わり?」
「ん、なんかあの装備は祝福がかかりすぎて日常生活には不向きだな。F1マシンで狭い路地裏や渋滞を走るのと同じだ。かえって危ない」
そこでふと思いつく。治癒魔法でたんこぶなどの怪我が治るならこれはどうだ?
「千鶴、俺の虫歯にも治癒をかけてくれないか?」
「え? うん、いいよー」
素直に頷いた彼女が背伸びをして隼人の顔の前に手をかざす。
口を開いて待つ彼の前でむにゃむにゃと呪文を唱えると、数日前から疼きだして隼人が悩んでいた奥歯におかしな感覚がおこった。
歯茎がぐねぐねとうねっているように頬の内側にある肉が波打つ。
痛みはないのだが勝手に痙攣する顎に隼人は眉をしかめてしまう。すると異物感が彼の舌の上に転がり落ちた。
――しまった、虫歯には怪我を癒す治癒ではなく病魔回復の方だったのか。
「げ、治るどころか歯が抜けちまったじゃないか。何してるんだ千鶴」
「ご、ご免なさい。でも、わざとじゃないよぅ!」
歯が抜けるという予想外の展開に頼んだのは自分のくせに、つい責任転嫁をして妹を責めてしまう隼人。
ところが、隼人が口から吐き出したのは虫歯ではなくそこに被せていた金属だけだった。
――あれ? じゃあ今歯が抜けた場所はどうなってるんだ?
慌てて鏡へ振り向いて口を開き、目だけでなく舌と指で違和感があった辺りを確かめる。
「あ、歯はちゃんと残ってるのか。しかも削って金属を被せていたはずなのに穴が埋まって健康な姿に戻っているじゃないか。凄えーな千鶴、お前の治癒はちゃんと虫歯にも効くんだ」
「ふふふーそうなんだ、凄いでしょー。はっ! じゃなかった。お兄ちゃん、最初文句言ったよね! ちゃんと治ったんだから謝ってよね」
「ああ、悪かったな。永久歯だったから抜けたら入れ歯かと思って、動揺して八つ当たりしてしまった」
子猫が威嚇する程度の迫力しかないが、眉をつり上げている千鶴。
その「ふしゃー!」と毛を逆立てた妹に、ごめんなさいと隼人は腰を九十度曲げて頭を下げる。
「すまない、今度ケーキを奢るから許してくれ」
「ふーん、ケーキの一個や二個じゃこの心の痛みにはつりあわないね! ああ、心の傷には治癒魔法が効かないのが無念だよぅ」
「そ、それじゃホールで買ってくる」
「私だけの分だけじゃなく、妹や弟達の分もだよ!」
孤児院にいる弟分達のケーキまで買ってくるとここのバイト代は吹っ飛んでしまう。だが、隼人には他の選択肢はない。
「分かった、分かった」
「わーい、隼人兄。僕はチョコレートケーキね」
「私にはレアチーズタルトね」
「駿介や冴月にまで買うと予算オーバーだ。それにおまえ達には関係ない……んだけど、いやまあ分かった」
二人にじっと見つめられてつい承知してしまう。
駿介にはさっきたんこぶを作ってしまった負い目があるし、そうなると冴月一人にケーキなしというのも寂しい。
食い物の恨みは恐ろしい上に、彼女達なら買っていったとしてもそれを独り占めにする性格じゃない。ちゃんと孤児院にいる弟・妹分達と分け合うのを理解しているのだ。
そんな幕間劇でちゃっかり自分のチーズケーキタルトを確保した後、何かが閃いたのか俯いて考え込む冴月。
その華奢な背中を隼人は元気づけるように軽く叩く。
「千鶴の高レベル治癒魔法については深く考えるな」
「あ、やっぱり隼人も気がついていたのね」
ほっとしたように彼女の顔のこわばりが緩む。
「職業が違うから治癒魔法に詳しくはないが、虫歯まで直るならほぼ怪我に対しては万能だろう。高レベルの回復役になれば手足の欠損どころか、死者を蘇生させる呪文まであったのだけは覚えてる。でもこればっかりは実験はできないからな」
「ええ、そうね」
何度も小さく頷く冴月。千鶴のどんな怪我でもなおせる能力がバレれば大騒ぎになるのは間違いない。だがそれ以上に権力者やマスコミなどを刺激してしまうのは死者を蘇らせることだ。できるできないではなく、現実ではやらないのが一番である。
「千鶴のこともあるけれど、まずは自分の能力を把握するのが先決かしら」
冴月が小さく「装備」と呟く。直後に彼女の姿が一瞬ブレたと思うと、もうそこに立っていたのは黒尽くめの魔女だ。
「ふう、やっぱり私もゲームで装備している物を着るのは可能みたいね。これではっきりしたわ、なぜかは分からないけれど今の私達は全員がゲームキャラクターのスキルと装備を現実世界でも使えるのよ」
キャラクターへの変身をこの場で実践してみせた冴月の言葉は重い。だがその重みを歯牙にもかけない者たちもいた。
「あ、じゃあ私も装備してみる」
「僕もこのノリには逆らえないね。いくよー! へ・ん・し・ん!」
ケーキの取り分の交渉を終えた千鶴と駿介の二人も目を瞑って身構えた。
駿介の方は変な節回しで叫び千鶴は「うるさいなぁ、もう」と頬を膨らませたまま、ゲームキャラの格好である白いローブの修道女とコバルトブルーの忍者姿へと瞬時に変身する。
千鶴のローブはどこかダボっとして、袖口から指先が見えるほどで裾は引きずりそうだ。まるっきりワンサイズ上のものを身にまとってよろこんでいる子供である。
駿介は明らかに発行している素材がその細身の体をタイトに覆っている。中にいて眩しくないのかなと不思議なくらいに存在感を主張している忍者装束である。
顔立ちや背格好は少年少女ままであるからゲーム内と同じでも、現実世界では衣装とはミスマッチでコスプレじみている。
こんなふうにゲームキャラの装備への変更はやってみると意外と簡単である。
最初に試した隼人にしても冴月も、一回変身できると理解すればリモコンを操作する程度の手間でしかない。
無意識のうちに頭の中にスイッチのようなものが出来ていて、それをオン・オフにするだけなのだ。
隼人は装備を着て無邪気に騒いでいる二人を横目に原因を考える。
「ふふふ、やってみたかったんだ三重分身!」
「うわぁ、ただでさえ鬱陶しい駿が目に痛い服装で三人に増えちゃったよ!」
「……しくしく、千鶴姉ひどくない?」
「さっきお兄ちゃんがダウン寸前に追い込んだげんこつでも泣かなかったのに、このぐらいで涙を流さないでー!」
「駿介も狭い部屋で邪魔になるから分身は止めとけよー。しかし、なんでゲーム世界の装備やスキルが現実世界でも使えるようになったんだろうな」
盛り上がっている年少組について「元気だなぁ」と微笑ましく思いながら疑問を冴月にぶつける。
彼女は「そう不思議よね」と細い眉を寄せて俯くがすぐに顔を上げた。即断即決がモットーでほとんど悩まない冴月は相談相手にはもってこいだ。
「勝手な推測でなら幾つかの仮説は立てられるわ。でもまずはこれが私たちにどう影響を与えるかを考える方が先ね」
「ん? さっきの言った千鶴の治癒魔法についてかの続きか?」
隼人が首を傾げると、冴月は「ええ、私たちがこの装備やスキルを使えるようになったのを他人に打ち明けるかどうかの話よ」と続ける。
「この装備については……あまり気にしなくてもいいと思う。他人の前で今みたいに変身したり身に付けなければいいだけ。でもスキルの方は違うわ。私達の魔法や技、特に千鶴ちゃんの回復スキルは使ったらかならず相手に分かっちゃう。そしてバレたら確実に厄介事を招くはずよ。良くて新興宗教の教祖扱いで悪かったら頭のおかしい科学者にモルモット扱いにされるわね」
容易に他人を寄せ付けない冴月らしい用心深い意見に隼人は頷く。
「ああ、しかも気をつけなければならないのはそれだけじゃない」
「え、他にもあったかしら?」
自分の細い顎に人差し指を付けて考える魔女に隼人はさっさと答えを告げた。
「どうやらキャラクターのスキルだけでなくステータスまでもが変身する前の俺たちに加わっていたみたいだ」
「あっ……」
これまでの隼人がスチール缶を中身ごと握り潰した事件や、それを神業的な反応でかわした駿介のことを思い出したのか冴月はすぐにその意見に納得したようだった。
「普段の姿のままでもキャラクターの力や速さなどが完全に反映されているのかしら?」
「ん? そうだな一応確かめてみるか」
隼人は鏡で自分の姿をチェックして装備が完全に外れているのを確認する。
いつも通りの鋭い眼光で他人からは少年よりも成人男性と間違われる顔立ちだ。
彼らはテスターとしてゲームキャラクターを作る時に、できるだか現実とゲーム世界との齟齬を少ない状態で感覚を試するためにそのままの自分のデータを取り込んでプレイしている。だから外見は装備を脱いだいまは普段の彼と何ら変わりはない。
「よし、じゃあさっきみたいに握力から試してみよう」
握力を試す道具を探して首を巡らすが、体力テストでもないのにそう都合良く握力計なんて転がっているはずがない。
スチール缶にしてもここにあるのは飲み終えて空になっているのと、さっき駿介の技で切断されて二つになったものだけだ。
「あ、それならこれでいいんじゃないかしら?」
何かを思い付いたのか冴月が指で弾いてよこしたものを空中でキャッチすると、そこにあったのは十円硬貨だ。
「さすがに五百円を曲げちゃったらもったいないし、それだって一般人には十分硬いでしょ」
確かに普段の隼人ならば十円玉でも指の力だけで曲げるのは不可能だろう。だが今なら――
「ふん」
彼が十円玉を摘んだ親指と人差し指に力を入れると、始めは微かな抵抗を示したがすぐにくにゃりと二つ折りになる。
おおっと目を丸くするコインを渡した冴月だけでなく年少二人組にウインクをすると、隼人はさらにもう一度曲げて四つ折りにする。
「ふふん、これぐらい軽いな」
得意げに胸を張る隼人。
「お兄ちゃん凄い力持ちになったんだね!」
「昔のプロレスラーにこんなパフォーマンスする人いなかったっけ?」
「二つ折りならともかく四つ折りは無理だよぅ」
騒がしい二人を前に冴月は「計算通り」といった風ににやりと白い歯を見せる。
「あら隼人ったらコインを故意に曲げるなんて軽犯罪法違反よ。悪い見本を年下に見せないでちょうだい」
「お、お前がこれを渡したんじゃないか!」
冴月は欧米人のように肩をすくめると両手の平を上にするポーズで鼻で笑う。
「ふふっ、確かに渡したけれど一度もそれを曲げるように言った覚えはないわね。なのに渡されただけなのを勝手に解釈して勝手に曲げたのは隼人でしょ。私のことを無理矢理共犯者に引きずり込まないでほしいわ」
黒い魔女の装備を身につけているせいか、いつもよりブラックな冴月節が絶好調だ。
「お兄ちゃんを苛めないで!」
小さな背に兄を隠して子猫が毛を逆立てて威嚇するように魔女に立ち向かう千鶴。この場面だけ切り取れば明らかに冴月は悪役だ。
「あら、私はむしろ隼人のためを思って言ってるのよ?」
「え?」
しかし対面しているのが隼人から千鶴になると、急に語調と物腰が柔らかくなった冴月に簡単にペースを握られてしまう。
「過ちを犯した人間は、その罪を自覚して償うことで成長するのよ。むしろ犯罪を見て見ぬ振りをする方が、教室での苛めに自分は関係ないと目を逸らすのと一緒で無責任なんじゃないのかしら?」
「え、そ、そうかなる……のかな?」
「まだ隼人に更正の余地のある今、罪を償うよう言ってあげるのが優しさじゃないかしら」
真剣な表情の冴月に簡単に論破され、次第に涙目になっていく千鶴。
「お兄ちゃん……千鶴はお役目を終えて出てくるのをずっと待ってるからね」
いつの間にか妹の中では自分が刑務所で臭い飯を食べることが確定しているのに隼人は頭痛を覚えた。
「冴月姉、千鶴姉を苛めるな!」
「あら、私は自首を促して隼人の罪を軽くして上げようとしているのに、千鶴ちゃんが兄妹だからって犯罪を隠蔽しようとするからいけないんじゃない。むしろ千鶴ちゃんが事後共犯にならないように注意してあげてるのよ」
「千鶴姉が犯罪を隠蔽……隼人兄の共犯……」
何とか千鶴をフォローしようとする駿介だが、そこにさらに追い打ちをかける冴月。共犯扱いされてショックだったのか「がーん」と自分で効果音を付けてしくしく泣き出す千鶴。
いや今は遊んでいる場合じゃないだろうと精神的再建を果たした隼人は手を叩く。
「おい、今はそんなことよりこれから俺たちがどうするかを話し合わなきゃいけないだろう」
「あら、そうだったわね。あんまり隼人と千鶴が可愛い反応見せてくれるからちょっとお遊びがすぎたみたい。二人をいじるのはまた今度にしましょう」
状況をわきまえず悪のりをし過ぎた自覚があったのだろう、冴月もすぐに表情を真面目なものに切り替える。
だが年少の二人はそう簡単にはいかない。
「えっ今のはお遊びだったの? うう、千鶴は弄ばれちゃったよ……」
「大丈夫! そんな千鶴姉もお馬鹿で可愛いかったから!」
「そうなんだ、可愛いんだ。えへへ」
「うん本当にお馬鹿可愛いな~」
と間の抜けた会話をしていた。
――まあ気落ちしてないようだし、この分なら大丈夫か。
身内贔屓かもしれないが、隼人はこういったお馬鹿だが他愛のないやりとりで雰囲気を柔らかく出来る仲間の個性が大好きだ。彼は孤児院で長く生活していたせいか、兄貴肌な所があって年下の――特に妹の無邪気な行動に彼の心は癒されるのだ。
そんなゆったりとした時間はまたテレビからの凶報によって破られた。
「……まだはっきりとしていませんが、地震による被害だけではなく未確認の動物によって一般人に死傷者が出ている模様です。動物が襲撃した瞬間はさきほど流した映像のように、監視カメラなどによって多数記録されているのですが……。
しかし襲って来るのは専門家もこれまで発見されたことのない新種の動物――少なくとも日本国内には動物園にすらいない生物だと驚いていました。
その未確認動物による襲撃の映像を見る限りでは、映画やゲームで見るゴブリンや空を飛ぶドラゴンだったと話す被害者の証言通りと言うしかありません。地震を期に何か被災地には異常事態が起こっているようです。津波や余震の心配は低いですので、震源地近くの住民のみならず国民全体に対して自宅や安全な場所から外へでないよう各自治体が呼びかけています」
ニュースキャスターの沈痛な口調にこの部屋にいる全員の視線がテレビへ集まった。
その焦点が無言のまま移動して、パーティーのリーダーである隼人へと集中する。
――どうするの?
そう問いかけている瞳に囲まれた隼人はいったん目を閉じて考え込む。
彼が瞼を閉じていたのはほんの一秒間だけだった。
現在、危機に晒されている人間がすぐそばにいるのだ。保身と正義感を比べると、心の中の天秤はどうしたって正義の味方をしたいと傾く。
赤の他人だとしてもそれを無関係だと見捨てるほど心は枯れきっていない。何しろまだ隼人はすれていない若者なのだから。
ただ、この時の決断には、せっかくゲームキャラの力を手にしたのだから思う存分使ってみたいという感情も無縁ではない。
もちろん突如手にしたスキルや装備なんかがばれないようにしなければならないが、忍術や魔術があれば人助けをしたのが隼人達なのも隠せると判断していた。
力がなぜ彼らに備わったのかは分からない。だがもしそれに意味があるのなら今この時に使うためなのかもしれない。
「――外へ人助けに行こう」
瞬間彼を見つめていた仲間全員の唇が嬉しそうに綻んだ。
「うん、お兄ちゃん! 私がみんなの怪我を治して上げるね!」
「ふふっ、攻撃魔法を堂々と使う大義名分ができたわね。モンスターは私に任せなさい」
健気な千鶴の後に物騒な冴月の言葉が入り、しかもその後バリバリとほっそりとした掌に小さく放電して音を立てるのだから相当気合いが入っている。
「まあ仕方ないか。忍者というからには目立ってなんぼだからな」
「目立ちたがり屋の忍者って……いやまあこのぐらいが俺達にはちょうどいいか」
問題が有りすぎる仲間にどこからツッコミを入れようか悩みかけた隼人は頭を振ってそれを止める。
ゲーム内で強敵と謳われるレッドドラゴンを討伐にいく前もこんな緩い雰囲気だった。それで勝利したのだから無駄に緊張するより彼らはこんなお気楽なテンションの方がいい結果が出るだろう。
ゲーム世界の冒険者たちは、こうしてリアル世界での冒険に踏み出すこととなった。




