肉とビールが配られ
肉とビールが配られ、ゴブリン討伐の土産話に場が沸き立つ中。
村長につれられた若者たちがおずおずと若君の前に進み出た。
包囲陣に参加し、オルクに襲われて殺されそうになっていた村人たちだ。
「若君、こやつらが命を救われたお礼を申したいとのことです」
「あ、ありがとございます!若君!」
並んで頭を下げる若者たちを制して若君が立ち上がる。
「うん、皆が無事でよかったよ。でも救われたのはボクさ!
君たちが踏みとどまってオルクの気を引いてくれたからこそ勝てたんだ。
なんという勇気、鎧もないのにオルクに立ち向かうなんて。
これぞ古き詩に歌われるものたち!」
というと若君は突然手を舞わせ。
「勇気あり誇りあり、薄布一枚あれば我は恐れじ。
心ただしく直ければ、悪霊悪鬼なにものぞ」
と歌い上げた。
「まさしく君たちのことだ!」
びしっと手を広げる若君。
「えええ……そんな」
「オレらは若が戦ってたからこそなんとかしなきゃって」
うろたえる村人たちに対し、若君はさらに追撃をする。
「なんと立派な心掛け、英雄と呼んでいいだろう!」
「まぁ素晴らしい!ご立派ですわ!」
と姫君まで乗ってくる。
なんかお礼を言いに行ったのに、若者たちは逆にほめ殺されて真っ赤になって帰っていった。
「素晴らしい村人さんですね!」
「そうだね!自慢の村人たちだ!」
誇らしげにうなづく若君ときゃいきゃいと喜ぶ姫君。
このお子様方を何とかしないと村人たちが全員照れて死ぬんじゃないか。
とそばに控えるルーク書記官が考えていたころ。
「若さまはこちらかい?」
と冒険者風の男女を引き連れた一人の初老の女性が若君の前に進み出た。
足が悪いのか杖をついているが、丸っこい体つきに似合わず軽やかにヒョコヒョコと歩いてくる。
「若さま、オルクを討ち取ったってねぇ?おめでとうございます」
「あ、ギルド長!ありがとう!」
若君に軽く頭を下げたのはグリムホルン冒険者ギルドの長だ。
長年の冒険者生活で片足と片手を失っている。
それでも本人は構わず現役を続けていたのを、迷宮伯が説得してギルド長にしたのだ。そして今回はゴブリン狩りに際して実経験からいろいろと助言をしてもらっていた。
「ああ、美しく聡明なるレディ。
貴女の素晴らしい助言のおかげで無事に討伐成功できた。
感謝を!」
「美しいとかやめとくれ、こんな傷だらけの顔。
うちの冒険者たちみたいにビア樽ババアでいいんだよ」
「そんなこと言わないさ!
その傷も経験と勇気の証だから美しさしかないよ!」
「……まったくこの子ったら誰に似たんだかねぇ」
真顔で褒め上げる若君にちょっと照れ気味のビア樽ばあさん。
後ろで護衛の冒険者風の男女が笑いをこらえている。
若君は懐から破砕された護符を取り出した。
「その、実は謝らないといけないんだ。
お借りした護符が壊れちゃって……」
「おー、あの護符をここまで砕くとは大物だったんだねぇ。
良いよ良いよ、若さまが無事ならあたしゃそれでいいんだ」
「というわけで、代わりにこの魔石を受け取ってほしいんだ」
「良いって言ってんのに、記念に取っときな」
「金額的には同じぐらいのはずなんだ。償いになるだろうか」
「……話を聞かない子だね、まったく」
無理やり押し付けられたオルクの魔石をまじまじと見つめるギルド長。
「うん、上物だねぇ。これならお釣りがくるぐらいだよ」
「良かった!」
「昨年まではね」
「昨年まで?」
大きな疑問符を浮かべながら首をかしげる若君。
姫君もつられて首をかしげる。
「ご存じのように不景気だろ、商人がカネもってなくてね。魔石の値段も下がってるんだ」
「そんな!ボクだけじゃなくて商人もカネがないなんて……なんで?」
またもや首をかしげる若君。
ギルド長は優しく微笑むと指を立てて説明する。
「商人はほら、大都市の魔道品や工芸品をこっちに持ち込んで、その売り上げでグリムホルンで魔石やダンジョン素材を買って帰る。それが大都市で魔道品や工芸品に加工されてまた来る」
「うん」
「なのに、いままで魔道品や工芸品を買ってた人が買わないから、在庫が売れなくて魔石を買うカネがないんだよ」
「じゃあその人に魔道品や工芸品を買うようにお願いしよう!誰?」
「領主さまだね」
「えー」
正確には伯爵を含む騎士たち富裕層になるが、騎士たちの収入ももちろん召し上げ済みである。
「だからこれじゃあ受け取れないから若さまが持っておくといいよ」
「うーん……じゃあ大都市で売ればいいのか。ルーク、帝都でこれ売ってこれない?」
突き返された魔石を眺めながら、若君が書記官に話しかける。
「いや、私は帝都のビザも商業権も持ってないので持ち込んで売るだけですごい税金を取られますよ?」
「帝都のビザと商業権を持ってるのは?」
「帝都から来た商人ですね、いま安く魔石を買いたたいてる」
「えー」
えー、ではない。
それぞれの領主が土地の商人に便宜を図って囲い込むのは当然だからよそ者が飛び込んでも課税されまくるだけだ。
じゃあこっちが魔石を売り渋って値上げしたところでそもそも商人たちに仕入れのカネがないし、他の迷宮町に流れるだけだろう。
「えっと、ボクの留学ビザはまだ有効だったはず……」
「往復一か月も領地を留守にされるのですか?!旅費は?!」
「えー」
おとなしく経費を使わずにお留守番するという本来の任務を忘れないでほしい。
ルーク書記官がじとっと若君を見つめていると、
腕を組んでうーんと考え込んでいた若君はが突然拳を掲げて宣言した。
「これは難題だね!ワクワクしてきた!
ルーク、一緒になんとか魔石を高く売って土の護符を買う方法を考えよう!」
「私ですか!?」
ルークの肩を抱いてキラキラと目を輝かせて前を指さす若君。
「だからあたしゃ要らな……はぁ、なんか楽しそうだから頑張りな」
そんな二人を優しく見つめるビア樽ばあさんであった。
第一章おわりです。
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