小鬼退治だ 突撃だ
「やぁやぁ!悪霊大鬼よ!我こそはグリムホルン伯嫡子オウドリヒト!いざ尋常に勝負だ!!」
立派な名乗りをあげてゴブリン上位種であるオルクに突っ込んでいった若君。
しかしオルクは若君を一瞥するとすぐに農民たちのほうに振り向いた。
「……後ろを向くとは卑怯なり!風の刃よ敵を切り裂け!風刃!!」
何が卑怯なのかはわからないが、若君の放った風の刃がオルクの皮膚を切り裂く。
背面に無数の傷が浮かんだが、流血とともにすぐ消えてしまった。
オルクやゴブリンは土属性であり、若君の魔法は風属性。
空を吹く風が大地を動かすのは至難であり、相性が悪いのだ。
「グググ……」
しかし、オルクの気を引くには十分だったようだ。
攻撃が痛かったのか、魔法使いを脅威と認識したか。
オルクは若君に向き直って棍棒を振り上げた。
「グワアアアア!!」
「風よ我が背を押したまえ、加速!」
棍棒が唸りを上げて若君のほうに伸びてくる。
若君は騎馬ごと風で押され辛うじて避けることができた。
鎧の上からでも食らえば骨ごと砕けそうな威力だ。
「……あれ?」
気が付いたら逃げ腰だった村人たちが棒を構えて再度列を組み始めている。
「む、村人たちよここはボクに任せて逃げ……」
「グオオオオン!!」
さらに次の棍棒の一撃が襲ってくるのを何とか避ける。
さっきより振りが弱い?
若君が怪訝に思ったとき、オルクに矢や石がバラバラと打ちかけられた。
「若君から離れろこのバケモノ!」
「くらえ!」
村人たちが遠巻きにしながら手あたり次第にモノを投げつけているのだ。
もちろんそれらにオルクの纏う毛皮や分厚い筋肉や脂肪を貫くだけの威力はなかった。
「グワアアア!」
余計に怒り狂うオルク。
「まって逆効果だから……」
村人を何とか遠ざけようと若君が口を開いた瞬間。
「うおおおお!!!!若君を討たすなあ!!!!」
「この遅れは我らが名折れぞ!!」
ゴブリンを蹴散らした騎士たちがオルクに向かって殺到してきた。
「各々方!撃ちませぇ!」
「氷槍!」 「風刃!」 「土牙!」 「火球!」
「グオ?!」 「グッ!」 「ハァ!」 「グアアアアア?!」
氷の槍が。
風の刃が。
土の牙が。
火の球がオルクを襲う。
氷の槍と火の球が特に効いているようだ。
「騎士諸君!風と土は効きにくい!火球に絞って!」
「かしこまったぁ!」
岩は火に溶かされ、土の生む植物は火に焼き払われる。土の弱点は火である。
若君の指示で騎士たちが再度詠唱に入る。
火魔法が使えない騎士たちはランスを構えて突撃の構えを取った。
「グアアアアア!」
オルクの眼が紅く染まる。
筋肉が一時的に膨れ上がり、魔力の波動がほとばしった。
「さぁ、こい!オルク!悪霊大鬼よ!」
若君もランスと盾を構えてオルクに向けて馬を駆る。
「グォオオオアアアアアアッ!!!!」
オルクは咆哮と共に魔力を込めた棍棒の一撃を若君に振るった。
「いかん、あれは?!」
「若!お避けください!」
あのように魔力のこもった技を食らえば若君は盾ごと吹き飛んでしまう!
騎士たちは慌てて魔法を一斉に放った。
「火球っ!!!!」
しかし魔法が届く前に棍棒が若君の頭上を襲い。
若君は盾を構えた。
「若ぁ!!!!!!」
大爆音とともに火球がオルクを包み込む。
一拍遅れて馬の勢いを乗せた騎士たちの槍が何本もオルクの身体を刺し貫いた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ドシン……
オルクが断末魔とともに倒れこむ。
火球の煙が晴れた時、そこには。
「はっはっは!悪霊大鬼討ち取ったりー!」
真っ二つに割れた盾を抱えて、自慢げに槍を振り回す若君の姿があった。
- - - - -
「若君!なんで突っ込んだんですか!危険ですよね?!」
ゴブリンたちを掃討し、勝利に沸く戦場だったが、若君はルーク書記官に問い詰められていた。
いつもの自信満々な姿に似合わず、若君はうなだれている。
「ルーク、実はボクは君に謝らないといけないんだ」
「そうです!死ぬかも……何をです?」
若君は割れた盾とぼろぼろに砕けた首飾りのようなものをルークに見せた。
「盾と貴重な土の護符を壊されてしまったんだ……」
「は?」
話が呑み込めないルークにしょんぼりとしながら若君が続ける。
「ああ、銀貨1枚も使わないと約束したのに。金貨100枚はかかるよねこれ」
「……そんなのお命に比べたらどうでもいいですよね?!」
「えー」
「えー、じゃないです!」
なぜかまた怒りだしたルークに戸惑う若君。
それを見て騎士たちがポンと手を叩く。
「おお、なるほど。オルクの魔力撃は土属性だったのですな」
「盾に護符をつけて敵の魔力撃の威力を護符に吸収させたと」
「さすがは若君、魔物にお詳しい」
ルークに怒られている若君を横に盛り上がる騎士たち。
「しかしなんでこんな大型のオルクがこんな小さな群れに……むぅ?」
「こやつ、魔石食いじゃないか??」
騎士の指示で郎党たちがオルクの心臓を切り裂くと人間の握りこぶしほどの魔石が姿を現した。
「おお!どこで拾ったか魔石を食ったのだな!ならば凶悪な魔力もちのオルクに育つのも納得だ」
「若君!これなら護符分ぐらいにはなるのでは?」
騎士たちは大喜びで魔石を持ってきて若君に捧げた。
魔石というのは迷宮などに潜む凶悪な魔物が体内に保有している魔力の塊である。
魔導士の使う上級魔法の触媒や、魔道灯などの魔道具に広く活用されており、需要が高い。もちろん属性護符の材料でもある。
迷宮から算出される最大で最重要の資源となっている。
「はーっはっは!これですべて解決したね!これもみんなのおかげだよ!」
「……解決してません!大将が一人で突撃しないっ!!」
「えー」
元気を取り戻して胸を張る若君にルークはしつこく噛みついていた……。
- - - - -
グルル、オレ様はゴブリンたちの英雄だ。
運命により強力な力と素晴らしい知恵を手に入れた。
ゴブリンどもの群れを強く大きく導けるのは英雄たるオレしかいない。
なのにどこでかぎつけたか、ニンゲンどもが数えられないほどの大群で攻め寄せてきた。
これは英雄たるオレ様を恐れて攻撃してきたに違いない。
気が付けば完全に我が大要塞が包囲されていた。
こうなったからには偉大なるオレだけでも生き延びなければ。
役に立たないクズどもを正面から攻撃させ、その間に我が大要塞の裏から逃げる作戦だ。
オレはなんて頭が良いのだろう。
それなのにその裏口にもニンゲンどもが大勢いやがった。
しかし、弱そうなやつらで棍棒で脅したらすぐ逃げだした。
気持ちよく蹴散らしてやろうと思ったら、後ろからニンゲンの魔法使いがやってきた。
大した威力ではないが、魔法使いは危険だ。先に殺しておこう。
と思ったら無駄にすばしっこい上に、弱いほうのニンゲンどもも小石や枝をなげつけてきやがる。
気に入らん。
食い殺してやろうかと思ったらニンゲンの魔法使いが火をなげつけてきた。
火はダメだ。痛い。
もはやオレ様の最大最強の技でこのニンゲンを殺すしかない!
グオオオ!この技を食らって粉みじんにならなかったイノシシはいないぞ!
食らえ……え、なんで効かないんだ?!ズルいぞ?!
ぐはぁ……




