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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第三章 カネがないので無料で内政

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酒クズのエルフ

角笛の迷宮の町、グリムホルン市冒険者ギルドは本日も多くの人で賑わっていた。

木造の大きな広間には、クエストを受注したり、完了報告をする冒険者たち。魔石やダンジョン素材の買取に訪れる商人。また松明や護符などを売りに来る商人などが引っ切り無しに訪れている。


そんな中、迷宮伯の嫡子であり、領主代理であるオウドは冒険者のいでたちでそこにいた。硬革を中心にした動きやすい服装だが、急所を中心に要所要所に補強がしてある。母である迷宮伯が自ら拾ってきた魔物素材で固めた特注品だ。


広間の隅のテーブル席に座って回りを眺めているオウドの隣に、同じく革のドレスに水源の杖を持っている妹のドルミーナ。彼女のドレスも魔物素材をふんだんに利用してあり、鉄製の鎧に近い性能を持っている。


そして上級斥候の犬獣人、レニが黒装束に身を包み、オウドを警戒しながら少し離れて座っていた。


「うんうん、皆続々と依頼をやるようになってるね!」

「お兄様のおかげですわ!」


カウンターで次々に報告される冒険の成果をそれとなく聞きながら、オウドとドルミーナの兄妹は上機嫌だった。もちろん迷宮伯の家族として冒険業が賑わえば税収に直結するのもそうだが、やはり冒険者の子供である二人は冒険の話が好きなのだ。


今日はこのような魔物が居た。あそこではこんな素材が採取できる。

そんな話を聞くたびに二人とも目に見えてワクワクしている。


そんな中でふと広間の逆側にいる冒険者がオウドの目についた。

長い金髪に尖り耳の女性が、テーブルの上に上半身をぐでんと転がしている。

精霊使いの森人、エルフだ。


年のころは人間にすれば20前後に見えるが、長寿種族なので40かもしれないし100歳を超えているかもしれない。使い込まれた金属鎧からだらしなく垂れさがっている冒険者証は紅色、つまり上級冒険者だ。


しかし金属鎧というのも珍しい。精霊が嫌うので森人は鉄の装備を避けるはずだ。


「なんかあの人、ずっとああしてるよね?」

「お仕事なさらないんでしょうか?」


いままで上級も中級もなくよい依頼がなくてだべっている冒険者だらけだったので目立たなかった彼女が、今となってはずいぶんと目立っている。せっかくの上級冒険者が依頼を受けないのは領主として問題だ。そう思ったオウドは彼女のほうに近づいた。


「やぁ、森人のお方!貴女は依頼を受けないのかい?」

「んあ……?お酒ぇ?」

「お酒ではないよ!」


森人に近づくとツンと酒精の匂いがオウドの鼻をついた。

テーブルに上半身を転がして寝ているのかと思ったら、酔っぱらっているだけのようだ。


この地方でも酒は飲むが、普段は食事とあわせてエールを飲むか、薄めたワインを飲むだけだ。

深く酔うためには浴びるように飲まないといけないし、そんなカネがある人も少ない。

泥酔者とはこうなるのか、オウドは興味深く森人の冒険者を眺めた。


「お酒じゃないならねるぅ……」

「上級冒険者向けの依頼がたくさんあるんだ!ぜひやった方がいいと思うよ!」

「お酒にならないからぁ……やだ」

「えー」


なかなか話の通じない森人である。

ただ、もともと森人というのは話の通じにくい連中だ。寿命が長いだけあって、時間の感覚がきわめて緩い。そのため今度一緒に遊びに行こうが数年後、仕事を頼んだら納期は十数年後とかもザラだ。


ただ、彼女の場合はそういった普通の森人とは違い、頭が酒漬けなだけにも見える。


「若さま、ソイツはダメだ。剣の腕は立つけど一度カネを稼いだら飲み切るまで何もしない」

レニが近寄ってきて言う。


オウドは少し鼻白んだが、頑張って森人に話しかけた。


「ほら、でも働いた後のお酒は美味しいってみんなが言っているよ!」

「ここのお酒はぁ……不味いぃ」

「えー」

本当に話が通じない。


その声が聞こえたのか、カウンターで受付のお姉さんが怒り始めた。


「来る日も来る日もガブガブ飲んどいてその言い草はなんだい!」

「量で我慢してるのだぁ……嫌なら迷宮ワイン持ってこいぃ……」


ごろんとテーブルの上でころがり、受付のお姉さんと喧嘩を始める森人。


「迷宮ワイン?」

「ほら若君、迷宮にあったワイン蔵」


レニが説明する。今はスライム掃除の場所になっている迷宮の地下1階にワイン熟成場の跡地がある。あそこが稼働していたときに出来た熟成ワイン、それを一番喜んで飲んでいたのは彼女だそうだ。


もちろん迷宮奥への行き帰りに盗み呑みをするのでギルド長に捕まってたっぷり罰金を取られたそうだが。


「森人さん!迷宮ワインが飲めるなら依頼をする?」

「はっ……する!する!」


迷宮ワインが飲めると聞いて飛び起きる森人。

酒に浸されてぼやっとした垂れ目でオウドを眺める。


「でも、本当ぅ?」

「はっはっは、このボクに任せたまえ!」


 ― ― ― ― ―


さっそく、迷宮伯嫡子の依頼により角笛の迷宮地下1階のワイン倉が再稼働することになった。


すでに経済活性化に実績のあるオウドの頼み。

オウドに多大な借りを感じている市参事会の決議により冒険者ギルドと酒造ギルドが全面協力することになった。


ただ、一番の問題はいかにワインを冒険者から守るかだった。


オウドは地下1階の地図を見て、冒険者の通るルートの外にワイン蔵を移設。ただそれだけでは盗みに来るのを防げないため、見張りを置くことにした。人は領主直轄地である流民開拓村から出す。


開拓村の人々もオウドには借りがあるので、各家から当番制で人を出すのに同意。交代でワイン蔵の見張りと定期的なスライム掃除を行うようになった。


「しかしねぇ、当座はいいとして手弁当では長くは続かないと思うよ?味は良かったけど冒険者たちにはそんなに高く売れなかったしねぇ」

再稼働したワイン蔵を眺めて、冒険者ギルド長である老婆がつぶやいた。


前にやったときは冒険者に盗まれる被害が多く、見張りを立てて長く続けられるほど売り上げも上がらなかったのだ。


「いや、うまく行けばいい交易品になると思うんだ」

「そうなってほしいねぇ」


聞くとあの上級冒険者、酒クズの森人は帝国内をぶらぶらしながら100年近く飲酒してきたらしい。

その彼女が美味しいというならば、大都市の金持ちにも売れるかもしれない。

今なら交易網があるので売り先も確保できる。


ただ、熟成には時間がかかるので、まだまだ先の話になる。


「まぁ、あの酒クズがやる気になって良かったけどねぇ」


冒険者ギルド長であるお婆さんが言うように、オウドが「また迷宮ワインが飲めるようになるよ、値段は高いけどね!」と言ったら森人は「稼ぐぅ」と言って依頼を受け始めたのだ。


こうして冒険者ギルドは次々に依頼をこなしていき、依頼達成数が増えることで近隣の領地からも多く依頼が舞い込む。だんだんとグリムホルン市と迷宮産業に活気が戻り、さらに成長していくようになった。


それを見て、迷宮伯嫡子はワクワクしていた。


「ボクも迷宮探索がしたい!」

「私もお供しますわ!」

「お、おぅ……護衛するよ」


かけだしの魔法騎士である迷宮伯嫡子オウド、初級の水魔法使いである妹姫ドルミーナ、上級斥候のレニによる臨時パーティが結成された。

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