羊皮紙と水汲みの少女
書記官のルークを交易に送り出したオウドは上機嫌だった。
最近、ルークは休みもなく書類仕事ばっかりで閉じこもって大変そうだった。
近隣の領地への小旅行はきっといい気晴らしになるはずだとオウドは考えている。
残された書類仕事をさっくり片付けて今日も開拓村に出かけ……る前に用事を思い出した。
「あ、そういえばルークから、母さんに報告の手紙を出せって言われてたんだっけ」
「まぁ、それは私も書きたいですわ!」
オウドは引き出しから畳んだ羊皮紙を取り出す。
前に別の手紙に使ったものの、皮を削って字を消したものだ。
紙は高いし丈夫ではないので大事な本に使われ、遠くに運ぶ手紙は羊皮紙を使っている。
なお、羊皮紙も高いので何度も字を削り消しては擦り切れるまで使う。
妹のドルミーナが大きな羽ペンを使ってちまちまと文字を書いていく。
その横でオウドは帰国からゴブリン退治から西大公家訪問、開拓村の支援などの出来事を順番に書いて。
「これ終わらないんだけどどうしよう、というか紙が足りないんだけど」
「ではお兄様、私の手紙の裏もお使いください」
オウドはドルミーナの助けを得て書き進めた。
もともとマメな性格なので、どんどん字が小さくなり、それでも書くことが増えてくる。
母が彼に期待しているのは立派で英雄的な領主になることだとオウドは思っている。
母が不在なので、不安な気持ちはあったが、それは表に出さない。心配をかけたくない。
だからいろいろな問題を英雄的に解決しましたと書き連ねる。
ただ、一つだけ謝ることがあった。
「えっと、禁猟区をかってに解除してごめんなさい、必要だったんです」
「私からもお願いするのでお兄様を許してあげて下さい、似顔絵ー♪」
兄が書き終えた後の空白に、家族3人の似顔絵を丸っこく描くドルミーナ。
小さく「母様がんばって」と書いてある。
「上手い上手い」
「えへん」
最後に母の冒険の無事と成功と帰還を祈る言葉を入れる。
こうしてなんとか一日かかって手紙を書き上げて使者に持たせた。
― ― ― ― ―
翌日、オウドは護衛を置き去りにして開拓村に出向いた。
うるさく言うルークは居ないので気が楽だ。
村人たちを励ましながら、一通りの作業を見て回る。
オウドが順調だなと思っていたところに、流民の少女が通りがかかった。
見ると水を張った大きな木桶をうんしょうんしょと運んでいる。
「やぁ、イレーネさん。水汲みかい?大変だね」
「いいえ、大事な仕事ですから。水場は遠いですけど」
イレーネはいつもの屈託のない笑顔で答えた。
開拓村の暮らしは楽ではないが、最近は心から笑えるようになった。
この若君の下ならきっと希望があると感じている。
前の領主が破産して住んでいた村が滅ぼされたことを思うと、水場が遠くて水が重いぐらいなんだろうか。
「重いよね、持とうか?」
「ふふふ、大変ありがたいのですけど、若君に荷物を持たせるなんて申し訳なくて死んじゃいますよ」
微笑みながらもオウドの申し出を断るイレーネ。
たしかに、とオウドは思った。
村の皆が自分への恩を返すために働いているのに、その若君に荷物を持たせるとか村人からすれば許せないだろう。母が元冒険者なので家族みんなも身分差をあまり気にしないが、それは周囲の人がそうだということではない。気さくに振舞うことで無駄な気苦労を与えることもある。領主としての自覚はやはり必要だ。
それはそうと、水を長距離運ぶのはやはり大変なはずだ。
「井戸掘らないの?」
「あそこに掘りかけのがあるんですけど、なかなか水が出ないんです。水魔導士様を頼むようなお金もなくって……」
「……あ、ごめん忘れてた。ちゃんと考えてたのになぁ、忙しくて……」
「へ?」
独り言を言い出すオウドの言葉にイレーネは気の抜けた返事をしてしまう。
若君の前で「へ?」だなんて。イレーネはちょっと赤くなってしまった。
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