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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第三章 カネがないので無料で内政

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有能で可愛い

なんだかんだやって、ボクらがギルド長の部屋に入ったときにはもう日が暮れかけていた。ギルド長のお婆さんとはゴブリン退治の打ち上げの宴会以来だ。

冒険者の恰好をしたボクらを見てお婆さんはちょっと驚いたようだった。


「やぁ、美しくも監督厳しきギルド長!お久しぶり!で、もう少し報酬を増やした方がいいと思うんだ!みんな困ってるよ!」

「えっと、若さま?申し訳ないんだけど話を最初からお願いできるかねぇ??」

「確かに」


とても大事なことを言ったのに困惑するギルド長のお婆さん。

順番は大事だね!ボクは今日の領内視察の結果について簡単に説明し始めた。

そのうちに窓から差し込む光が少しずつ傾いて行って、だんだんと険しくなるお婆さんの顔に影を差していく。


「レニや、若さまのお話に足すことはあるかい?」

「いや、お坊ちゃまの言う通りスね」


レニさんはギルド長の部屋のドアの横に寄りかかって頭巾を緩めている。

頭巾からのぞく幼さの残るくりくりとした目が親犬を見るようにお婆さんに信頼のまなざしを向けていた。

妹ぐらいの背丈なのもあってなんか子犬みたいな愛らしさがある。


なお、ボクの可愛い妹であるドルミーナは隣にちょこんと座ってる。

ギルド長の部屋に積み上げられた迷宮地図やら資料、武具や魔道具の山を興味深そうに眺めていた。


聞き終わったお婆さんは深くため息をつく。

「はぁ、またまた冒険者の若い衆と流民の喧嘩かね。なんとか仲良くやってほしいんだけどねぇ」

「うん、そのためには報酬を増やすのがいいと思う!」

「若さまもご存じのとおり、魔石の値段が下がってね?全体的に報酬は下げてるんだ」


聞くと見習い用の仕事にはスライム掃除とかどぶ攫いとかがある。

これらは基本的にギルド予算からの持ち出しになっていて、若い冒険者たちをギリギリ飢えさせないためのものだ。

流民たちについても母さんである迷宮伯から何か仕事を探してやってくれということで、見習い仕事を斡旋している。

他にも市参事会から道掃除やゴミ回収なども同じぐらいの予算でやっているそうだ。


上級冒険者向けの高額依頼も減った。危険な任務はポーションなどの経費に見合わなくなる。

だから上級が中級の仕事に手を出し、中級が初級に手を出す。

まだカネが残ってる初級冒険者たちはもう少し割のいい仕事が来ないかと掲示板前で張り込んでるし、

カネがなくなったら嫌々スライム掃除やどぶ攫いに行かざるを得ない。

そしてそこに張り付いている流民たちと喧嘩するのだ。


「流民だって登録した以上は冒険者仲間なんだから喧嘩は禁止って言ってはいるんだけどねぇ」


うん、言うだけじゃダメなんだよね。

西大公の家で思いしった。

どっちも困ってるのはわかる。どっちもこのボク、迷宮伯嫡子たるオウドリヒト・フォン・グリムホルンが守護すべき愛する領民たちだ。

そしてどれだけ家臣たちが有能で経験があっても、領地全体を考えるのは領主しかいないんだ。

だから母さんがいない間の領主代理たるボクがどっちも助けるために行動しないと。


カネはないけど。


日が暮れて、ボクらの顔にこの出口のない問題のような暗い影が落ちた。


「暗くなったね、松明に火を入れようか。ああ、そういえば話に夢中になって若さま方に飲み物も出さずに御免なさいねぇ」

と言うと、ギルド長のお婆さんはレニさんに振り向く。


「レニや、たしかミルクがあったから」

「はいッス」


お婆さんの指示にキビキビと厨房のほうへ降りていくレニさん。


「あの子はちょっと事情があって私が引き取ったんだけどね、思ったより斥候職に向いてて隠密や探索が上手いんだ」

「たしかに」

彼女の音や気配もない素早い移動を思い出す。


「もうこの年だし、見込みのある子を仕込むぐらいしか楽しみがなくてねぇ」

松明の光に照らされ、明るくなったお婆さんの目がやさしく過去を振り返っているようだ。

「えー、ギルド長もまだまだ元気でお美しいのに」

「また思ってもないこと……」

「本心だけど?」


そう、本心から思ってる。荒くれの冒険者たちを統率してる姿はカッコいいし、経験と実績の刻み込まれたその顔の傷にはたとえようもない美しさがあるよね。

と、なんかぎょっとしている婆さんを見て念のため説明する。


「あ、恋愛的な意味ではないよ?」

「当たり前だよ、もう」

お婆さんがちょっと恥ずかしそうに話を切り上げると、レニさんがミルク入りのコップを盆にのせて帰ってきた。


「飲み物ッス」

「ご苦労さん、レニも飲みな」


皆で椅子に腰かけ、ミルクを頂く。

一日出歩いたからミルクの甘みが染み渡るようだ。


レニさんはコップを軽く傾けては、くぴくぴと喉を鳴らしてミルクを味わっているようだ。

そのたびに頭巾がぴこぴこ動いて可愛い。

ボクの妹ぐらいに小さいのに、立派な上級冒険者の斥候だなんてすごい有能だ。


「まぁ、でも喧嘩にならなくてよかったねぇ」

「うん!そちらのギルドの規律の守護者、有能で可愛いレニさんのおかげでね!」

「ぶふぁう!?!」


なぜかレニさんがミルクを吹き出した。びっくりした。


「ああ、何やってんだい……早く拭かないと」

そういってギルド長のお婆さんがレニさんの頭巾を脱がすと、小さな犬耳がぴょこんと飛び出した。


あー、子犬っぽくて可愛いなと思ってたら犬獣人の血が入ってたのか。

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― 新着の感想 ―
カネがないのが悪いんや! 悪いんや、だけじゃすまないところですね 一度不景気になると連鎖的にみんな苦しくなる
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