流民少女と迫害
僕は迷宮伯の嫡子であり、今は一介の初級冒険者オウド!
迷宮地下1階に沸いてるスライムを掃除するクエストをやっていたら、女の子の悲鳴が聞こえた。
「きゃああっ?!」
駆け付けると、ボロを必死に繕っただろう貧しそうな服装の少女が床にへたり込んでいる。
その隣には倒れた木桶とのろのろ這い出てくるプチスライム達。
そしてその子を数名の若い冒険者たちが取り囲んでいた。
「何がきゃあだよ、可愛いぶりっ子か?」
「目障りなんだよ、領主さまに頼ってばっかの流民のくせによぉ?」
「お、スライムが落ちてら」
「ちゃんと回収しねえとなぁ?」
若い冒険者たちはケラケラとあざ笑いつつ、倒れた木桶からスライムを掃き取り、自分の木桶にいれようとする。
見ていられないので声をかける。
「待ちたまえ!それはその子のだろう!」
「は?」
若い冒険者たちがこっちをにらんできた。
全員、同じ青色の金属製のプレートを首からぶら下げている。
ボクの冒険者登録証と同じ色。つまり全員初級冒険者だ。一通りの戦闘はできる。
「そのスライムをその子に返してあげたまえ」
「ああ?その流民が悪いんだろうがよ!」
「てめぇは何でいきなり出てきて何様だよ?!」
すっごい声を荒げて睨んでくる若い冒険者たち。
武具は古いけどあまり使い込まれた様子も傷もない、実戦経験は少なそうだ。
「は?何様ってあなた達の嫡子様……もごっ」
はいはい、ボクの可愛いドルミーナはちょっと後ろにいようか。
こんなところで貴族ですなんて言ったって信じないだろうし意味がないよ。
まって、レイピア抜かないで。相手も武器抜いてないから?!
「……そんな?!」
必死に説得してなんとか後ろに下がってもらう。
うん、まだ殺気があるだけドルミーナのほうが怖い。
あの子らは全然怖くない。
「なんとかいえや!おおぉ?!」
さっきから大声で威嚇してるだけで、相手がビビると思ってる。
前に討伐したオルクの絶対殺すという雄たけびに比べると可愛いものだ。
「ひっ?!」
でも貧乏そうな流民?の女の子は怯えちゃってるか。
かわいそう。
しゃがんで女の子の手を取って立ち上がらせる。
そしてかばうようにボクの後ろに移動させた。
「落ち着いて、この木桶は君のかな?」
「は……はい、ありがとうございます」
若い冒険者たちに振り向いて改めてお願いした。
「うん、じゃあやっぱり、スライムを返してあげて?」
「てめぇ、流民の肩を持つのかよ」
「そいつらは真剣に冒険者やるつもりはないんだぞ!」
「そうだ!さぼってばかりで働かないくせに、俺らの大事な仕事だけ奪っていくんだ!」
口々に言い募る若い冒険者たち。
「大事な仕事って、スライム掃除って見習い級用の人気のない仕事だよね?みんなは初級じゃないの?」
「初級用のいいクエストが最近ねえんだよ……って、てめぇも初級じゃねぇか!?」
「えー」
「えー、じゃねえだろバカにしてんのか!」
「失礼な!バカになんてしていないよ!その通りだと思った!」
「バカにしてるよな?!」
うーん、なんか怒らせてばかりだ。どうやって収めようか。
ボクの可憐なドルミーナがすっごいイライラしながら魔力高めてるからこのままだと攻撃魔法を撃ちかねないし……。ウチの領地にとって大事な冒険者だから傷つけたくないんだけど。
「落ち着いて、流民を非難してるけど、彼女はマジメにスライムを集めてたじゃないか。何が問題なんだい?」
「知らねえのかよ!素人か!」
「スライム掃除は仕事にあぶれた冒険者用にギルドが用意してるクエストなのに、流民どもがたくさん応募するせいで報酬が下げられたんだぞ!」
「初級に上がるつもりもないならクエストじゃない普通の仕事でマジメに働けよ!なんでずっと見習い級やってんだよ!嫌がらせだろうが!」
振り向くと、彼女の首には黄色い金属プレートが。
たしかあれば見習い級の冒険者証だ。
ボクは考える。なるほど、彼らの言うことは彼らからすると真っ当なんだろうけど、何か変だ。
なんで人気のない安い仕事でマジメにやってるのに、普通の仕事でマジメに働けないのか?
ただの不真面目なら人気のない安い仕事でスライムを集めたりしない。
嫌がらせ?この貧乏そうな流民の女の子にそんな余裕があるのか?
つまり、普通の仕事なんてない?
そう、だってどこも不景気じゃないか。流民が普通の給料で働ける口がたくさんあったらおかしい。
ボクは流民の少女に振り向いた。
「嫌がらせじゃないよね?他に仕事がないんだよね?」
「……?!」
流民の少女の痩せた顔に驚きの表情が広がる。丸い猫のような目が大きく見開かれた。
「は、はい。なんでわかるんですか……?」
「やっぱり」
若い冒険者たちに諭すように言う。
「彼女も他に選択肢がないんだ、だから仲良くみんなで仕事を頑張ろう」
「……いや、嫌がらせだね」
「俺らが嫌がってるから嫌がらせだよな!」
うわ、無茶苦茶言い出した。どうしよう。
若い冒険者たちはさらに言い募る。
「報酬を下げられたのも、人の仕事を取るのもそいつが悪い!そいつのせいだ」
ん?あれ?それは違うよね?
「まって、報酬を下げたのも、この子に仕事を与えてるのも。ギルド長が決めたんじゃないの?」
「ん?」
「だったら文句を言うべきはギルド長に対してだ。この子をいじめるのはおかしい」
「……」
若い冒険者たちはポカンとして黙り込んだ。
よし、考えてくれてるみたい。
「さぁ、一緒にギルド長に文句を言いに行こう!ボクが一緒に行ってあげるから」
「なんでだよ?!」
「えー」
良い解決法だと思ったんだけど。
「……何してんだ。冒険者同士の喧嘩はご法度だろ」
そこに声をかけてきた子がいる。
え、気配がしなかった?!
灯りも持たずに薄暗闇の中から。
黒い冒険者用の革鎧と黒い頭巾をつけた、静かな影のような小さな子が音もなく現れた。
するりとボクと若い冒険者たちの前にでてくる。
そして、ギリっと音が聞こえた気がするほど急激に表情を変え、猛犬のような目つきでボクと冒険者たちを睨みつける。
「ギルド長に逆らいたいのか?」
首には紅く染まった冒険者証。上級冒険者だ。




