妹と仲良く冒険者
グリムホルン迷宮、正式名称を角笛の迷宮という。
グリムホルン市の市壁のすぐ外、山裾に洞窟がぽっかり口を開けている。
そして洞窟の口からは冷たい風が吹き出し、あたりにブオオンと角笛のような音が低く鳴り響いていた。
グリムホルン迷宮伯のパーティメンバーであった宮廷魔導士が調査したことがある。
その結果、迷宮と外の温度差により風の動きが発生しており、迷宮の複雑な構造と相まって音が鳴っているのだろうということだった。
そのおかげかどうか、迷宮の奥深くまで多少空気が行き届いて探索の助けとなっている。
他の迷宮は奥深く潜ると瘴気が満ち、空気浄化の護符がないと死んでしまうこともある。
しかし角笛の迷宮はそのような魔道具の支援がなくても潜れるため、比較的安価に挑戦できるのだ。
迷宮の奥深さだけでなく、探索の容易さも周辺領地から冒険者たちを引き付ける一因であった。
「冒険者登録がないと迷宮には入れないよ、登録しておいで」
「えー」
さぁ、様子を見に行こうと迷宮に入ろうとしたオウドとドルミーナを迷宮の門番が押しとどめた。
そんなの必要だったっけ、今まで来たときは……。
オウドが思い出すと、そもそも今までは母さんが来た瞬間に門番が平伏して通してくれていたので顔パスだった。
「登録が必要なんだ。これはやっぱり、迷宮の管理のためなんだろうか」
「当たり前だろ、余所者が大量に入って資源を荒らしたり、ならず者や盗賊が潜んで疲れ切った帰路の冒険者を襲って荷物を奪うとかあったら困るだろ。だからちゃんとギルドで管理してる」
「わかったよ、ありがとう!親切なお方!」
― ― ― ― ―
冒険者ギルドの受付は酒場も兼ねており、詰めている大勢の冒険者たちが武装したまま食事をとったり酒を飲んだり騒いだりしている。
カウンターやテーブルには刀傷やヘコミ傷が見え、騒々しくも荒々しく雰囲気が満ちていた。
そこに比較的新しい鎧に武具を吊り下げた若い男女が来たので一瞬その場の注目を集める。
しかし汚らしい革の帽子を目深にかぶっており、それほど目を引くところも無かったのですぐ忘れられた。
新人が来ること自体はよくあることだ。
なお、ギルド長や一部のベテラン冒険者にはさすがに顔を知られているので、二人はわざと帽子を汚して顔を隠している。
しかし、この時間でギルドに冒険者が大勢溜まっているということは、冒険者の数自体が減っているわけではないようだ。
だけど仕事に出ていないで座ってるだけに見えるのはなぜだろう。オウドは不思議に思った。
受付に行くと、領民手形で身元を確認された。
領外の人間でも登録はできるが、身元は確認するそうだ。
「それじゃあ名前と得意なスキルを確認するんだけどさ、字は書けるかい?」
「はい、ボクが」
酒場のカウンターのお姉さんが豊満な胸元を大きく空けた派手なドレスで登録書を示す。
オウドはあまりそちらを見ないように登録書を二人分書き上げた。
ドルミーナはずっと兄を見ているので、その様子を見て自分の胸元を見た。
むー、と不満そうな表情を浮かべている。
「ふん……おや」
お姉さんが小声になった。周囲が騒々しいのでそれだけで周りには聞こえない。
「まずは初級からだけど、魔法が使えるなら地下5階まで潜ってそこの素材を取ってこれたら中級にあがれるよ。二人共若いのにすごいねぇ」
と言い終えると、声のトーンを元に戻した。
なるほど、スキルを言いふらさないように気を使ってくれたんだ。
オウドはお姉さんに感謝した。
「じゃあ初級の冒険者登録証だ、無くすんじゃないよ」
ギルドの紋章が描かれた金属の札を2枚もらえた。
髪や目の色、身長、性別と名前が鉄ペンで彫り込んである。
さてと、初級でできる仕事はなんだろう。
オウドは酒場の隅でぼーっとしている青年冒険者に話しかけた。
「先輩、最近どうですか?こちらエールを一杯貰って来たんですが」
「おう、新入りのくせに気が利くじゃねえか」
エールを見て一瞬で好意的になる先輩冒険者。
うん、悪い人ではなさそうだとオウドは思った。
「初級ということは一通りの戦闘はできるな?」
首から下げた冒険者登録証を見た先輩が言う。
「戦闘系ならその辺の狼退治とかイノシシ退治とかがあるが……最近は報酬が低くてよ。やる気がしねえ」
「なるほど、なんででしょう?」
「そりゃあ最近流民あがりが安い依頼でもどんどん受けるからよ、迷惑してんだぜ」
また流民への文句か。
「迷宮素材の採取はまだマシだが、これはその階層の知識がないと割と危険だ。
3階からは少しずつ潜って身体で地形やモンスターの隠れそうな場所を覚えるんだな」
なるほど。いきなり10階とかに突っ込む母さんは異常なんだな。
「危険を避けるならそこの薬草拾いもあるが……それこそ流民が殺到して近場じゃ薬草もほとんど見つからねえよ。カネにならねぇ」
「なるほど」
薬草拾いや猛獣退治、迷宮素材の指定採取などが並んでいる中でオウドは仕事を選んだ。




