妹とお忍びで領地は不景気
翌朝、オウドとドルミーナは伯爵家しか知らない抜け道を使って城を脱出した。
母である迷宮伯が堅苦しい護衛を置き去りにして迷宮や魔物狩りに行くときに使っていたルートである。
「お兄様とお出かけですわ!」
冒険用の革ドレスを身にまとい腰にレイピアを吊るし、ドルミーナ姫は意気揚々と声を上げた。
「危険があったらすぐに帰るからね?」
同じく革製の冒険者服に長剣を括り付けたオウドが妹を軽くたしなめる。
貴族たるもの、外出には家臣が大勢付き添うのが当然だ。
身の危険もあるし、そもそも従者の数で身分や権威を示す必要がある。
ただそのように護衛を大勢引き連れて領内を回ると家臣たちも身構える。
結局報告書のような外向きの状況しか見ることはできないだろう。
オウドは西大公の家を思い出す。家臣や領民たちはそれぞれ自分たちの考えで勝手に動くものだ。
その実態をきちんと掴まないと、西大公の家のように外面だけ取り繕ってグダグダな内面になってしまう。
と思って一人でこっそり出かけようと思ったところを、妹に捕まった。
一緒に連れて行かないと皆に言うと言い張られたので、今に至る。
まぁ、そもそも母である迷宮伯自身がたまに子供二人を連れて迷宮探索や魔物狩りの実地訓練をしていたこともあり、二人ともそれなりに経験済みである。
「いざとなったら一人で魔物でも狩って生きていくんだよ!」
何のいざを想定しているのかわからないが、元冒険者の母は子供をただの軟弱な貴族に育てるつもりはなさそうだった。
城の丘を裏道を通って降り、グリムホルン市の門番に領民手形を見せて通り抜けた。
市の門では治安維持や税収確保のため、手形がない余所者には身体検査や関税の徴収がある。
領主の権限で正式に偽造した領民手形なので簡単に通り抜けることができた。
「市場が立ってますわ!」
「うーん」
絶対に人出が減っている。
オウドが魔法学園へ留学に出る前は広場を露店が埋め尽くしていた。
そして冒険者から素材の買取をしたり。
冒険者に武具や魔道具、薬品を販売したり。
村々からは食料や日用品を持ち込んで売る農民。
また領外から来た商人が輸入品の織物や雑貨、珍しい香辛料や食材を取り扱ったりしていたはずだ。
今はあちこちに空き地ができ、人通りも減っている。
買い物をしようという冒険者も少ない。
「あら、昨年はもっと可愛いアクセサリが売ってたのですけど」
「お店減ってるよね」
ドルミーナも変化に気が付いたようだ。
オウドがあちこち尋ねて回ると、広場にいる領民たちも同じ意見のようだ。
「ああ、確かに最近は不景気で商人も減ってるよなぁ」
「冒険者たちも生活が苦しいみたいだぜ」
「流民どもが来ただろ、領主さまのおかげで生きのびたくせに簡単な仕事ばっかり選んで楽な生活してやがる」
「そうそう、まともに働きゃいいのに、サボってばっかだ」
なお、オウドはしばらく留学に出ていたし、ドルミーナも城にいることが多い。
二人とも一般の領民たちにはまだ顔が広まっていないので堂々と会話している。
流民が簡単な仕事ばかり選んでサボってるというのも気になる。
しかし、やはり迷宮伯領の主力は迷宮と冒険者だ。
オウドたちは角笛の迷宮に向かうことにした。




