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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第二章 カネがないのでお値打ち外交

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闇が現れた!

「はーーーはっはっはっはー!どうだ西の公爵よ!我が刺客の毒刃は苦しかろう!!」


神殿の外の大広場。


結婚式を外から見守っていた市民たちの上空に巨大な黒い影が現れた。

透き通った青空が薄暗くなり地に落ちる影が伸びて人のような形を作る。


しかしそれは一目でわかるが人ではない。

猛々しい雄羊のような角が頭に生えている。

その顔は髑髏そのものであり、眼窩には血のように紅い火が燃え盛る。

骨の白さが暗い影の中で不気味に浮き上がり、無数の尖った歯があざ笑うかのように並んでいる。


全身は黒いローブで包まれており、闇が溶岩のように吹き上がっては足元に流れていく。


伝説の本に描かれる悪魔をさらに悪意を持って描き替えたような姿に、市民たちに動揺が広がる。


「あ、あ、悪魔?!」

「いや、あれは……絵本で見た西の魔王じゃ……!?」

「まさか?!復活したのか?!」

「いま、公爵様に刺客を放ったっていわなかったか?!」

「まさか殿下はもう……?!」

動揺し、怯える市民たち。


「落ち着け市民たち!余は無事だ!」

そこに大神殿の正門を大きく開き、西大公と護衛の騎士たちが現れた。

側近が使う風魔法により、風にのって声が広場全体に行き渡る。


「おお!殿下!」

「信じておりました!」

信じていなかった市民も含めて領主の登場を歓迎する。


公爵は空に浮かび上がる魔王に向き直り叫ぶ。

「残念だったな西の魔王!この者が貴様の刺客を見抜いておった!刺客の刃は余にかすりもせんかったわい!」

隣のオウドを指し示す公爵。

またもや市民から歓声があがる。


「……」

魔王は黙りこくって身動きもしない。


オウドは気に入らない。

魔王だか何だか知らないけど言っていることが無茶苦茶だ。ちゃんと皆に誤解されないように説明しないと。


オウドは芝居がかった動きで前に進み出た。魔法に乗って朗々とした声が広場中に響き渡る。

「聞け、愚かなる魔王よ!貴様の悪辣で腐敗に満ちた企みはすべて防がれた!

人の叡智の前では悪魔の策はぼろ布のごとき欠陥ばかり。

ああ、闇の衣はいかに深くとも、正義の太陽の前には埃と散るばかりと古き歌に言うがごとし!」

「おーーー!!!」

「よく言った!」

「カッコイイぞ!」


今度は市民たちだけでなく、後ろの貴族たちからも賛同と称賛の声があがる。


すると魔王が動き出した。

「はーーーはっはっはっはー!どうだ西の公爵よ!貴様の娘の結婚式は我が刺客で無茶苦茶にしてやったわ!!

人間どもの結界や警備など所詮この程度!いつでも貴様らを殺せることを思い知るがよい!」


その魔王の言葉に新郎が怒りを爆発させた。

「黙れこの寄生虫!大地の力よ呼び覚ませ、剣を伸ばせ、天を裂け、青を抜け、地霊神天刃!!!」


大地から巨大な刃が現れ魔王を貫いた。


「やった!」

見事な上級魔法の行使に市民たちが歓喜に沸く。


と思いきや魔王は身動きもしていない。何もなかったのかのようにそのまま宙に浮いている。


「くっ、幻術だ!どこかに中継してるやつがいる!」

「騎士たちよ、怪しいものを探せ!」

新郎の声に、公爵嫡女が騎士たちを群衆の中に放った。


上空では魔王が高らかに宣言している。

「我は荒野の大魔王。人間どもよ、貴様らに安寧の時は無し。我を恐れよ!我の尖兵に羽虫のごとく狩られる日は近い!」


オウドが言い返す。風の魔法にのって広場に響き渡る。

「聞け!虚勢と欺瞞に満ちた魔王よ!

貴様は言ったことの万分の1も成し遂げられない!

人の知恵と魔力に怯え、幻覚でこけおどすしかできない!

ねじ曲がった心は直き心に勝たず、邪は正義にかなう無し、

天の許さぬ邪悪に、などて恐るる事がある!と歌にあるのを知らないのか!」

身振り手振りを踏まえて、演劇で有名な歌を歌い上げるオウド。


「おお!貴族さんの言うとおりだ!」

「いいぞ、もっと言え!」

「うちの姫様と婿さんは強いぞ!魔王め戦ってみろ!」

「バカやろーー!」

市民たちが一斉に乗ってきた。

罵声と怒号が一斉に魔王に浴びせられ、親指を下に向けて挑発するものもいる。


「……」

魔王はまた黙りこくる。


そして突然消えうせた。


突き抜けるように青い空には、闇のかけらも残っていなかった。


公爵は周りを見渡すと、市民たちに向かって叫ぶ。

「皆のものよ!よくやった!魔王は恥じて逃げ去ったぞ!人間の勝利である!」


「やった!」

「公爵殿下、ばんざーい!」

「逃げたぞ!魔王が逃げた!」

「はははは口ほどにもない!」


市民たちが口々に喜びの声を上げる。


その声に押されてオウドが退くと変わって公爵嫡女が新郎を連れて現れた。


「聞け市民たち!神殿はゴミ虫がいてかなわんので、我が結婚式はここで完遂する!」

「おおーー!!」

「わが市民たちが神々に代わり、我が婚姻の証人となろう!」

というと嫡女は新郎を抱き上げて力いっぱいに口を吸った。


「おめでとうございます!」

「おめでとうございます!」

「いいぞー!」

「もっとやれー!」


貴族たちと市民たちに祝福され、この前例のない結婚式は終わるのだった。

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― 新着の感想 ―
これは市民盛り上がるわ
魔王様頑張ってアドリブしたのにひっくり返されてかわいそう
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