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迷宮伯嫡子はカネがない  作者: 神奈いです
第一章 カネがないので無料で討伐

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「はぁ、なんか手品みたいな」

「やぁ!奥様お久しぶり!5年前のお花見の会以来だよね!」

「やだ若君ったらそんな昔のこと覚えてらして」


グリムホルン迷宮伯領の支城の一つ。城代騎士の奥方に若君が陽気に声をかける。


「いやいや帝都にも行ったけどやっぱりうちの領地は美人ばかりだし奥様見たらとくにそう思うよ。金糸の髪に絹の肌、花のようなほほえみに風のような歩みって歌そのものだ」

「もう、帝都でそういうのばっかり学んでいらしたんですか?」

と言いながら奥方はめちゃくちゃ上機嫌だ。


若君は奥方ににっこりと笑いかけて、夫である城代騎士に振り向いた。

「本当に城代がうらやましいなぁ。お二人の結婚式も覚えてるよ。二人ともきらびやかでね、羨ましかったなぁ」

「え、いやあの時は若君は5つか6つだったのでは?覚えておられます?」

「あたりまえじゃないか!」


よくまぁ次から次へと話題がでるものだ……。

若君に無理やり支城に引きずられてきた書記官ルークはあっという間に城の騎士たちと打ち解けていく若君を見て圧倒されていた。


「やぁマグク!そっちはヤンスじゃないか!二人が倒した魔熊はすごかったね!」

「覚えておられますか!いやぁなかなか新しい武勲がなくて申し訳なく!」


若君は城の騎士や郎党たち一人ひとりを名前でよびかけ、昔話で盛り上がっている。


「若君がお戻りと聞いてすぐに挨拶に行きたかったのですが、その」

「はっはっは、城代の仕事は城を守ることだからね!さすが職務優先、母さんもボクも信頼しているよ」

「ありがとうございます!」

城代騎士が言いづらそうに挨拶に行かなかった言い訳をしても褒め上げてしまう。


会話が盛り上がったところで若君が主題を持ち出した。

「でね、村でゴブリンが沸いたそうなんだ。で討伐に行きたいんだけどルーク書記官が討伐費ないからダメなんだって」

「ないですからダメですからね?!」


いきなり若君に肩を抱き寄せられて討伐にいけないのはこいつのせいだみたいな顔をされた。

されてもダメですよ!?


「だけどボクは領主代理で母さんのために領地を守らないといけないんだ!だからたとえ悪霊小鬼が千万といえどもボクは行くぞ!」

「おー」

なぜか兵たちから拍手が起こる。


いや、千万もいませんから。


「もちろん君たちの軍役義務がないのは知ってるし、討伐費もない」

「……」


顔を見合わせる城の騎士たち。みんな当然ながらカネはないのだ。

「だから軍役じゃなくてタダのお願いなんだ。ゴブリン討伐に来てくれないか?でも城の防衛も大事だからね!」

若君が微笑みかけながら付け加えた。


「あ、その……」

騎士たちが城の防衛を言い訳にしようとした瞬間に、城代の奥方が口をはさんだ。

「まぁ、若様がこんな決心だなんて!伯爵さまがご覧になったら立派になったとお喜びになりますよ。ほら、あなたもお願いして連れてってもらいなさいよ!」

「お、おう……ぜひ!」

「若君、わしも!」

「俺も!」


なんか流れで城騎士の全員が参戦を表明することになった。


 - - - - -


「はぁ、なんか手品みたいな」

馬車に乗り込み。支城を後にしてルーク書記官は頭をかいていた。

若君がいきなり支城に乗り込んで昔話をして盛り上げて手弁当で参戦を約束させてしまったのだ。

たしかにここまで銀貨1枚も払ってない。


「はっはっは、ボクの誠心誠意がきっと伝わったんだよ。だって家臣たちはみんないい人だし!」

若君は紺青色の眼を光らせながら、満面の笑みを浮かべている。


ルークが帳面をめくって言う。

「で、えっと次の城の城代はフェスコ・フォン・ベスベルグ卿で……」

「フォン・ベスベルグか、えっとたしか3年前だっけなぁ。トラ21年の日記頂戴」

「はい」

「あったあった、えっとボクの送別会で……」


揺れる馬車の中で器用に日記を読み始める若君。


「若君ってマメだったんですね……」

「え?日記ぐらいみんなつけるよね?」


若君はこうやって城騎士たちの名前や過去に何を話したかなどを全部予習していたのだ。

「だってちゃんと話題用意しとかないと盛り上がらないじゃないか!」

「そうですけど」


もちろん領地にいなかった間の異動はわからないので、ルークが最新の軍役帳を持ってきて全員の名前を説明していく。


支城であれば騎士や郎党たちの数も数十程度とはいえ、よく覚えられるものだ。ルークはすっかり感心していた。


「げ、この城ってヨハナとヨフノとヨヒヌが居るの?!どれが誰だっけ……よし、全員19年の狩りに参加してる!同じ話で行く!」

「あ、全部覚えるわけじゃないんですね」

「むーりー!」


若君はこうやって領地中の騎士たちと親睦をふかめ、そのほとんどから自腹参戦の約束を取り付けてしまったのだった。

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