紋章官を呼べ
筆写ゴーレムを稼働させながら、カードを整理しているとその動きが気になったのか小山のような大男が寄ってきた。
とたんに警戒する公爵家のメイドたち。迷宮伯家の騎士に警戒不要と言われても目で見はっている。
迷宮伯家の隣領地の伯爵、グスタフだ。手にはポーションの研究書らしきものを持っている。
「その、筆写ゴーレムが使えるのか?ならば俺のポーション精製術の本もお願いしたいのだが……」
「えっと?どなた?」
「ああ、ボクの隣の領地の西方直参伯爵であるグスタフ卿だよ、アミリ先輩。
で、こちらは公爵殿下の三姫であるアメルニアーナ殿」
「アメルニアーナ・フォン・シュトライフクリーガーです」
「グスタフ・フォン・ダンザウベルだ、失礼をお詫びする」
遠くからでは姫ではなく司書か文官にしか見えないので、三姫と言われて驚くグスタフ。
「で、その本ですか」
「いや、姫君。無理なら無理にとは。筆写ゴーレムはタダではないのは知っているので」
「いえ、でも西方直参の方でしたら、お父様もお詫びの一環だと言いますでしょう。言わせますのでお任せを」
「そのような便宜をいただけるとは、恐縮だ。公爵殿下にもお礼をお伝えいただきたい」
大きな体を縮めて恐縮するグスタフ。
アミリがグスタフの分も筆写ゴーレムを手配する。二体の同時稼働で流石に公爵家図書館と言えどフル稼働である。
「ありがたい、お礼を言っても足りぬだろうに」
喜ぶグスタフにオウドは悪戯っぽく言う。
「グスタフ先輩。だったらさ、こっちのカード整理手伝ってね」
「おお、なんだこれ?!」
グスタフの前に大量のカードが積み上げられた。
- - - - -
結局、名簿の整理は丸一日かかった。
作業場所を公爵宮殿に移して、完成したのは結婚式の当日の朝である。
もう式がはじまるため、参列しないといけない。
「後輩、いつまで名簿を見てるんだ、完成でいいじゃないか」
アミリはドレスの最終確認をしながら、オウドに話しかける。
オウドはようやく完成したカードの束を前に頭をひねっていた。
カードはきちんと文字の順番に整理され、左肩に穴をあけて糸でくくってある。
オウドはそのカードの中からいくつかをずらして見えるようにする。
「アミリ先輩、こんな貴族の人いなかったと思うんだ。書き間違いかな?」
「いや?さすがに私でも全貴族の名前を知っているわけじゃ……」
「だけど、こっちの紋章図鑑に載ってないんだ」
「なんで紋章図鑑を書き写してメモにしてるんだ後輩は……」
アミリはオウドのマメさにあきれながらも、新しい謎に頭をひねる。いやそもそも謎なのか。単純ミスでは?
「でも後輩。招待状と本人確認済みってなってるぞ?書き間違いならその時に気づくだろ?」
「つまり先輩。これは存在しない人が確認済みで参列してるってこと?」
「……紋章官を呼ぼう。ウチの紋章官なら最新の情報を知ってる!」
「なんでその人が名簿作りに参加してないの?!」
「参加した後にみんなで書き換えてめちゃくちゃになったんだ!」
オウドとアミリをなぜかものすごい嫌な予感が襲っていた。
「姫君、式がはじまります。逢瀬はそれぐらいで」
「ちょっと待って今大事なこと、ちょ、離せ?!」
アミリ先輩がメイドたちに担ぎ上げられ、控室に運ばれていった。
今回はお姫様としての参加なので、着替えや化粧などに時間がかかるのだ。
オウドはまだ名簿が気になっているのだが、だからと言って結婚式をすっぽかすのはとてつもない非礼になる。
ちょうどアミリ先輩と入れ替わりで紋章官が現れたので名簿の確認は引き継ぐことにした。
彼も伯爵家嫡子としての正装があるため準備は必要だ。
家臣たちに促され、式の準備を始めるのであった。




